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『嘘の戦争』山本美月の瞳に宿る説得力 草なぎ剛と17歳差の恋人役で新境地へ

2017年02月15日 16:33  リアルサウンド

リアルサウンド

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 二科楓よ、幸せになってくれ……! 『嘘の戦争』(フジテレビ系)第6話は、そんな感想を持たずにはいられないほど、楓を演じる山本美月の演技が印象的な回だった。第6話の平均視聴率は12.4%(ビデオリサーチ調べ 全国主要8地区平均)と前週を下回る結果となったが、初回放送から途絶えることなく二桁をキープ。SNS上では「火曜日までに何回もリピートしちゃう」「終わった瞬間、次の放送が待ち遠しい」など、終幕に向けてドラマに釘付けになっている視聴者が多いようだ。


参考:草なぎ剛と菊池風磨、役柄を超えた師弟関係 『嘘の戦争』のスリリングな演技を読む


 『嘘の戦争』は、草なぎ剛演じる幼い頃に家族を殺された主人公、一ノ瀬浩一(本名・千葉陽一)が、天才的な詐欺師として復讐を果たしていく物語。第6話は、浩一が復讐の最終ターゲット・二科幸三(市村正親)と対面する、異常な緊張感を伴う二科家での食事シーンから始まった。


 楓の婚約相手として食事に招かれた浩一は、幸三、次男・二科隆(藤木直人)からの猜疑の眼差しを受けながらも一切怯むことなく、まるで綱渡りのような言葉のやり取りをこなしていく。浩一の父親を誹謗する幸三に対し、穏やかな表情を保ちつつも、目は“怒り”に燃える浩一。この一連のシーンでの草なぎの演技は圧巻の一言だった。


「お父さんは嘘が嫌いだ。だから陽一(浩一の本名)も嘘をつかないでほしい」という父との会話を思い出しながら、浩一は復讐のために嘘をつく。しかも、復讐相手の娘・楓を「絶対に幸せにする」と。浩一のことを信じきっている楓に対して、それがどれだけ残酷な行為か、それは誰よりも“嘘”を嫌ってきた浩一自身が一番分かっているはずだ。だからこそ、善と悪の狭間で揺れ動く表情を見せる草なぎの、瞼と頬の微かな動き、そして目の中に映る瞳の潤いまでコントロールされた演技に、息を飲まずにはいられなかった。


 そんな緊迫する二科家の中で、聖母のような存在感を見せているのが楓を演じる山本美月だ。公開待機作『ピーチガール』、昨年公開の『少女』、ドラマ『アオイホノオ』など、これまで女子高生や大学生など、思春期の少女を演じることが多かった山本だが、本作ではしっとりと大人の女性を演じきっている。草なぎとは17歳差の恋人役でありながら、ふたりの間に流れる空気感に不釣合いさはなく、むしろ草なぎにやすらぎさえ与えている印象だ。


 山本は「『ちゃんとこの子を演じられているのだろうか?』と迷子になってしまうことも多いのですが、楓に関してはそれがないんです。楓はけっして協調性の強い子ではないのですが、捉えやすかったです」(『嘘の戦争』公式サイトより)とコメントしている。包み込むような優しさを持ちながら、芯の強い女性像は、山本との共通点が多いのだろう。


 復讐のために詐欺師として生きる浩一の姿は、常に隣に嘘があり、どこか人間離れした印象を感じる。しかし、浩一が唯一、素の表情、“人間”となる瞬間が第6話にはあった。浩一と楓が喫茶店で仲良く会話をしているところに、浩一の詐欺師仲間・ハルカ(水原希子)が訪れ“三角関係”となるシーンだ。


 浩一の元カノを装うハルカ(実際に想いを寄せているのだろうけど)は、楓に「浩一は私といるほうがずっと自然でいられる」と言い放つ。それに対し楓は「浩一が嘘をついていることを知っている」と返す。「私の知らない何かを抱えている」と。浩一の復讐の駒として扱われてきた楓だが、決してそのことに対して無自覚ではなかったのだ。楓はハルカに対し、何があっても浩一を許すと決意する。浩一もハルカも、劇中安らぐ表情をすることがほとんどない中で、楓の浩一を思うまっすぐな心に、ふと“人間”の表情になったようだった。演技の上に演技を重ねている草なぎ、水原の絶妙な表情も見事だったが、このシーンに説得力をもたせたのは、山本美月の演技に尽きると言ってもいいだろう。彼女のまっすぐな瞳に、心を奪われた視聴者も多かったのではないだろうか。浩一、ハルカ、楓の三角関係はひとまず決着が付いたように見えるが、次週予告を見る限りもうひと波乱ありそうだ。


 嘘をつき、騙し、相手を利用する行為は決して許されるものではない。しかし、浩一は楓を騙す行為によって、人としての心を取り戻しているようにも見える。最終話まで残り3話、浩一は復讐を完遂するのか、あるいは思いとどまるのか。幸三が心臓発作で倒れるという衝撃的な展開があった第6話だが、第7話はますます加速度を増していきそうだ。(石井達也)