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『死霊のはらわた リターンズ』S2で新フェーズに突入! 森直人が“キャラもの”として考察

2017年02月15日 16:33  リアルサウンド

リアルサウンド

Ash vs Evil Dead (c)2016 Starz Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 いや、そりゃ観るでしょ、これは! めっちゃブン投げっぱなし、ものすごい無責任をかまして全力で逃げ去ったようなシーズン1のラストだったんだから!(あ、褒め言葉です)。


参考:森直人の『死霊のはらわた リターンズ』評:これはサム・ライミの「初期衝動 リターンズ」だ!


 というワケで、みんな(誰?)大好き『死霊のはらわた リターンズ』のシーズン2(全10話)が日本にもやってきました。前シリーズは『映画秘宝』誌の“ドラマ OF THE YEAR 2016”でもホラー部門金賞に輝き、コアな識者の皆さんにも大好評。内容はもちろん、サム・ライミ監督の出世作にしてホラー・コメディー映画の金字塔『死霊のはらわた』シリーズの30年越しの続編として再起動したテレビシリーズ。前提として入れておいたほうがいい知識、作品の基本姿勢などは、昨年の拙稿『これはサム・ライミの「初期衝動 リターンズ」だ!』を参照していただくとして……。


 ここではまず、シーズン1(全10話)のざっくりしたおさらいをしよう。手短にね。


 主人公は古いハードロックと酒とセックスをこよなく愛するトレーラーハウス暮らしの独身のおっさん、アッシュ(ブルース・キャンベル)。彼が30年間封印していた「死者の書」の呪文をノリで唱えて、凶悪な死霊をこの世に呼び出してしまう。


 そう、すべてはコイツのせい! アッシュこそが諸悪、というか迷惑の根源!


 でまあ、オレが死霊退治するしかない!と、勤務先である激安ショッピングマート「バリュー・ストップ」の若い同僚ふたり――なぜかアッシュを崇拝している舎弟キャラのラテン系店員パブロ(レイ・サンティアゴ)と、適度なビッチ感が素敵なレジ係のユダヤ系美女ケリー(ダナ・デロレンゾ)を引き連れ、トリオ編成で旅に出る。


 そこに絡んでくるのがルビー(ルーシー・ローレス)という熟女。30年前の前日談に当たる『死霊のはらわたII』(1987年)で犠牲になったアニーの妹と自称し、あの惨劇での唯一の生存者であるアッシュをしつこく追ってくる。だが霊能力らしき技も使えるし、とにかく謎だらけ。そして彼女は、「死者の書」を私に寄こせ、その代わりアンタたちは三人で平和に暮らしたらいい、とアッシュと取引を交わす。かくして世界に異変が勃発しまくる不穏なニュースが流れる中、死霊退治をほっぽらかしたアッシュと仲間たちは“夢の土地”に向けてノーテンキに車を走らせていった――というのがシーズン1の最終回。


 そして今回のシーズン2。フロリダ州ジャクソンビルに到着したアッシュたちは、いきなり酒池肉林のパーティー三昧! アイコナ・ポップの大ヒット曲「アイ・ラブ・イット」(2012年)が流れる中、美女たちと若いもんに囲まれて「愛してるぜ、ジャクソンビル!」とご陽気に雄叫ぶアッシュ。「いまさえ良ければそれでいいじゃーん」という超ポジティヴな刹那主義で快楽を追求する彼である。


 しかし突然空に暗雲が立ちこめ、パーティーガールズの一部が死霊に変身。会場は一転、アッシュの右腕チェーンソーで切断された生首や片腕がド派手に飛び交う血まみれの修羅場に……。どうやらルビーが死霊をコントロールできなくなり、アッシュは再び死霊と全面対決せざるをえなくなったようだ。


「大仕事が待っている。俺は世界を救う!」


 こうしてにわかに腹を決めたアッシュは仲間ふたりと共に、かつての惨劇の地、故郷のカリフォルニア州エルクグローブへ30年ぶりに帰省する。ジャクソンビルからアトランタ、ナッシュビル、ルイビル、シンシナティを経てエルクグローブに向かうシーンで、英国の異能ミュージシャン、スコット・ウォーカー(元ウォーカー・ブラザース)の名曲「The Old Man's Back Again」(1969年のアルバム『スコット4』収録)が流れる。このシブすぎる選曲に筆者はすっかり痺れてしまった!


 さて、その故郷ではアッシュは伝説の殺人鬼扱い。というのも、死霊のことを知らない地元住民たちは、アッシュが山小屋で友だちや自分の姉を皆殺しにして、そのまま逃げたと思い込んでいるから。


 自宅には「切り裂きアッシュ」(ASHY SLASHY)と落書きされ、完全に忌み嫌われているアウェイな状況。そんな苦い過去と向き合う過程と共に、アッシュの知られざる青春時代の様相をだいぶ知ることができるのがシーズン2全体の前半の醍醐味となる。


 まず、なんと父親が登場する。シリーズ通しての新キャラクターだ。名をブロック・ウィリアムズといい、田舎町の保守的な白人らしくパブロには移民(人種)差別を剥き出しに、でも美女(ケリー)ならOKというお調子もん。アッシュと同じく生粋のオンナ好きで、チャラい。この父ブロックを演じるリー・メイジャースは、サイボーグのエージェント、スティーヴ・オースティン役を演じた人気テレビシリーズ『600万ドルの男』(1974年~1978年)でよく知られ、アッシュ役のブルース・キャンベルにとっては10代の時の憧れの俳優。ニクいキャスティングだ! 実際彼ら、本当の親子みたい。


 この父との和解、もシーズン2のひとつのテーマになるのだが、父を待ち受ける運命もまた強烈で……これは観てのお楽しみ!


 さらに、ブロックがいまも住む実家が見モノ。アッシュの亡き姉シェリルの部屋が当時――第一作『死霊のはらわた』(1981年)のまま残されているうえ、アッシュ自身の部屋が初公開。壁にはスージー・クアトロなど1970年代に流行ったロック・ミュージシャンのポスターや、ヌードグラビア。あとビール缶のコレクションが大量にあったりと、昔のボンクラ男子ぶりがうかがい知れる。


 高校時代の奔放な女性関係も(自分から懐かしく語る形で)明かされ、またバーで麻薬入りのヤバすきるカクテルを提供している当時の悪友チェットも登場。


 このチェットを演じているのが、サム・ライミの実弟テッド・ライミ! なおサムとテッドの実兄である脚本家アイヴァン・ライミは、シーズン2では第4話の脚本を担当している。


 個人的に今回の前半は、シーズン1を凌ぐくらい楽しかった。シーズン2の後半はやや転調が起こり、“ある事情”でアッシュの動きが鈍くなる。そのぶんパブロやケリーら、脇キャラたちが頑張る――とだけ書いておこう。


 ちなみに全体の作風は、シーズン1に比べると「初期ライミ感」は一気に薄くなった。おそらく意識的に後退させたのだと思う。なんせオリジナルのトレードマーク的なカメラワーク、“死霊POV”が出てこないのだから!


 これはテレビシリーズとしての成功を受け、『死霊のはらわた』が新たなフェーズに突入した証と言えよう。筆者の印象では、シーズン2はハッキリと「キャラもの」にシフトした感がある。コミカル&ダーティーで、どこかキュートなエロ中年アッシュは、もう観ているだけで面白い。パブロ&ケリーとの三人組での珍道中ぶりも板についてきた。彼らの魅力さえキープできれば、もう演出は「ライミらしさ」に殊更こだわらなくても大丈夫ということだろう。


 たとえばアッシュの愛車デルタに死霊が取り憑いて、恐怖の殺人車となるくだりは、ジョン・カーペンター監督の怪傑作『クリスティーン』(1983年)を彷彿させる。『死霊のはらわた』に異種のDNAが加わり始めている。シリーズの自己更新が無理なく起こっている。人気映画をテレビシリーズ化した最近の企画の中でも、もしかして本作は最たる成功例ではないか?


 しかも残酷描写はますます過激にヒートアップ。「ここまでよくやるよ!」ってくらい、マジでエゲツない。特にアヴァンタイトルは毎回酷い(笑)。ギャグもバチ当たりの連続。アッシュが死体の男をケツから着ぐるみみたいに被ってクソまみれになるところとか、本当に悪趣味の極みだよなあ……自分は爆笑したけど。


その意味で攻めの姿勢はまったく崩していない。すでにシーズン3の制作も決定しているとのこと。ヤッてくれ、どんどんイッちゃってくれ!(森直人)