インディカー・シリーズ参戦8年目を迎える佐藤琢磨。今季は名門アンドレッティ・オートスポートに移籍し、勝負の一年を迎えた。フェニックスでの合同テストで移籍後初のテストに挑んだ琢磨は手応えを感じている。
2017年のインディカー・シリーズは、3月12日決勝のフロリダ州セント・ピーターズバーグで開幕する。海沿いのストリートコースでのレースだ。
その約1カ月前に、インディカー・シリーズは合同テストを行った。舞台は第4戦が行われるアリゾナ州のフェニックス・レースウェイ。今シーズンにフル出場を予定する21台が結集し、合計12時間も走り込んだ。気温は摂氏22~28度で、心配された雨も降らなかったため、各チームともかなりのデータが収集できた。
■チームとのコミュニケーションを深めた合同テスト
佐藤琢磨は、今年からアンドレッティ・オートスポートで走る。過去7年と比べて、間違いなく最高の体制でのシーズンを戦うこととなる。ただし、今回のテストはシーズン中に3戦しかないショートオーバルでのもの。シーズン開幕を迎えるにあたっての勢力図を予測するものとはしにくい。
琢磨にとってこの2日間で重要だったのは、エンジニアリング・スタッフ及びチームメイトたちとのコミュニケーションを出来る限り深め、よりレベルの高い共闘体制を作り上げることだった。
2016年シーズンから空力ルールが凍結とされたため、2017年もシボレー勢が空力での優位を保つと予想され、実際にテストでもトップ5はシボレーユーザーだった。
トップ2はエド・カーペンター・レーシングが占めたが、昨シーズン10勝を挙げたチーム・ペンスキーは4人のうちの3人がトップ5入り。ディフェンディング・チャンピオンのシモン・パジェノーだけが8番手と少し離れたポジションとなっていたが、4台で1150周も走り込んだ。これはもちろん参加チーム内での最多で、価値あるデータを収集した様子だった。
ホンダ勢は6番手につけたミカイル・アレシン(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)がトップで、その次の7番手にはトニー・カナーン(チップ・ガナッシ・レーシング・チームズ)がつけた。どちらも日中の暑い時間帯に予選シミュレーションを行った結果で、ホンダの戦闘力は向上していると見ていい。
去年の予選ではシボレーがトップ10を独占していたのだ。それでも、彼らとトップの差はそれぞれ0.2148秒、0.2255秒あり、シボレー勢のショートオーバルでの優位は依然健在だ。
琢磨は19秒4953のベストで総合16番手だった。チームメイトたちは、2012年チャンピオンのライアン・ハンター-レイが19秒3932で12番手、キャリア2勝のマルコ・アンドレッティが19秒4541で14番手、昨年のインディ500ウイナーであるアレクサンダー・ロッシが19秒6108のべストで最後尾の21番手だった。ロッシは3回目のセッション開始早々にクラッシュしたため、さらにタイムを縮めることができなかった。
■プログラムの変更が琢磨にも影響
ロッシはマシンの修復が間に合わず、走行を再開することはできなかった。4台が3台に減ったことで、チームは分担していたプログラムの変更を余儀なくされた。そして、その影響はどうやら琢磨にも及んでいたようだ。
琢磨は自己ベストを最終セッションに記録しているが、涼しいコンディションのナイトセッションでも彼らは予選シミュレーションを行っていた。そして、走行時間が残り1時間と少しとなった時点で、琢磨はロッシとほぼ同じカタチでターン1でコントロールを失い、リヤから壁に突っ込んだ。
「突然リヤが流れた」と幸いにも身体は無事だった琢磨は状況を説明していた。
多くのチームがトラフィックテストを行い、オーバーテイクの難しさを指摘していた。予選順位の重要性は極めて高く、そのためにアンドレッティ・オートスポートをはじめとするホンダ・チームは夜のセッションでも予選シミュレーションに果敢にチャレンジしていたということだろう。
心配なのは、琢磨の精神的なダメージだ。昨年のフェニックスで彼はレースウイークエンドの最初のプラクティスで大きなアクシデントを経験している。空力セッティングの間違いからターン1でマシンが突然オーバーステアになり、なんの対処もできないままウォールにハードヒットしたのだ。今回は空力セッティングを攻め過ぎてしまった結果だろうが、フェニックスのターン1~2に対して精神的なトラウマを持つことにならないかが心配だ。
■ビッグチームでの参戦に手応え
アンドレッティ・オートスポート4台の合計ラップ数は774周と、ペンスキーやガナッシと比較すると1台分以上少なく、2台がクラッシュした影響はやはり小さくはなかった。しかし、アクシデントがありながらも、琢磨はチーム内で最も多い243周をこなしていた。チームに対する貢献度は小さくなかったはずだ。
「アクシデントでテストが終わりとなって、何か悪い印象になってしまうのは残念。僕たちのテストはとても順調に進んでいた。チームメイトが3人いるので、テストプログラムは分担されていて、自分たちは予定されていたアイテムをほぼすべてトライすることができていた」
「去年までのチームにはエンジニアが3人しかおらず、各レースに向けた準備を整えるので精一杯だったけれど、アンドレッティ・オートスポートにはたくさんのエンジニアがいるので、開発プロジェクトは幾つもが同時に進行していて、先へ先へと準備を進めていくことができる。今回のテストでも、最初からマシンはとても高いレベルにあった。昨年のうちにタイヤテストなどに参加し、走行データを持っているからだ」と大型の強豪チームで戦うシーズンに手応えを感じていた。
シミュレーターを使ったテストなど、サーキット以外で行えるプログラムはある。琢磨は率先してそうした仕事に取り組み、チームとの関係強化、信頼性醸成に務めている。
アンドレッティ・オートスポートは、4台揃ってのストリートコース用テストを開幕を目前に控えた3月初旬に予定している。そして、迎えるシーズン最初のレースはセント・ピーターズバーグでのストリートで開催される。2014年にポールポジションを獲得している通り、このコースが琢磨は得意だ。チームメイトのライアン・ハンター-レイも優勝経験を持つコースだけに、アンドレッティ勢の活躍が期待できるだろう。