2017年02月14日 16:03 弁護士ドットコム
重度の知的障害を持つ少年(当時15歳)が、入所していた施設から行方不明になり、死亡した事故をめぐり、両親が2月14日、施設の運営法人に約8800万円の損害賠償を求めて、東京地裁に提訴した。
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請求金額のうち約5000万円は、少年が将来働いて得たと予想される「逸失利益」。障害を持たない同い年の男子が亡くなったときと同様、国内の平均賃金を基準に計算した。残りの約3800万は慰謝料など。
原告代理人によると、知的障害者の逸失利益については、認められたとしても「最低賃金」や「障害年金」などが基準とされてきた。しかし、平均賃金を基準とした金額は認められたことがないという。
原告側は、「所得格差による命の差別が起こっている」「請求が認められれば、障害者だけでなく、逸失利益で悩むすべての人に影響がある」と裁判の意義を語っている。
訴状などによると、亡くなったのは東京都八王子市の障害者施設に入所していた松澤和真さん。2015年9月、無施錠の扉から外に出て、行方不明となり、2カ月後に高尾山中から遺体で見つかった。防犯カメラの映像などから、交通機関を使って1人で高尾山まで向かったとみられている。
賠償交渉で、施設側は過失を認め、慰謝料として2000万円を提示している。しかし、両親の代理人を務める清水建夫弁護士によると、交通事故でも、子どもが亡くなった場合、慰謝料は2000万円を超えることが多いという。また、逸失利益も含まれていなかったため「障害者の命を軽く扱っている」「将来の可能性があった」として、両親が提訴に踏み切った。
請求した逸失利益の金額約5000万円については、障害を持たない同い年の男子が亡くなったときと同じで、2014年の男性平均年収の約540万円を基準とし、生活費などを差し引いた額を求めた。
提訴後、東京・霞が関の司法記者クラブで、原告側が記者会見を開いた。
和真さんの母は、「障害者は健常者よりも稼ぎが少ないのだから、逸失利益は少なくて当然という固定観念があると思う。人間はお金を稼ぐだけの生き物なのか。稼ぎが少ないというところから、命の差別が起きてくるのではないか」と訴えた。
また、清水弁護士は、昨年4月に障害者差別解消法が施行されたことなどを例にあげ、障害者が働ける環境は広がっているとして、「裁判所も考え方を変えていただきたい」と語った。
一方、施設を運営する社会福祉法人は、「担当者が不在なので答えられない」としている。
(弁護士ドットコムニュース)