2017年02月13日 11:54 弁護士ドットコム
コンビニ大手「セブン-イレブン」の東京都内のフランチャイズ店が、アルバイトの女子高生のアルバイト代から、「風邪で欠勤した分」と「代わりの人を探さなかった分」のペナルティあわせて9350円を差し引いていたことが1月下旬、大きな話題になった。
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アルバイトをめぐっては、弁護士ドットコムの法律相談コーナーでも「遅刻したらペナルティ(罰金)が科される」といった悩みが寄せられている。アルバイトにペナルティをかすことに、どんな法的問題があるのか。労働問題にくわしい柴田幸正弁護士に聞いた。
「遅刻や欠勤を理由にペナルティとして罰金を科すことは、労働契約の不履行について違約金を定めることや賠償額の予定を禁じた労働基準法16条、あるいは、賃金の全額払いの原則を定めた労働基準法24条1項に反します」
柴田弁護士はこのように述べる。どうしてそうなっているのだろうか。
「違約金や賠償額をあらかじめ決めてしまうことは、労働者の足止めや不当な従属関係を生み出しかねないからです。
また、賃金は、労働者にとって生活の基盤となるものであり、労働に従事することへの対価として支払われるものです。実際に働いていなければ、対価としての賃金は発生しませんが(ノーワーク・ノーペイの原則)、実際に労働に従事したにもかかわらず、遅刻や欠勤があるからといって、労働に従事した事実までなかったことにはならないからです。
バイトを欠勤する場合、代わりにシフトに入れる人を探さないといけないのか。
「たとえバイトを欠勤しても、従業員側が代わりの人を探す義務を負うわけではありません。労働者が使用者との間の労働契約に基づいて負う義務は、あくまでも自分が労働に従事することであって、自分以外の人に労働への従事を強いることはできません。
代わりの人を探すのは、労働者を働かせて事業を行っている使用者側がやるべきことです」
バイト先でミスした場合に『ペナルティ』を科される人も少なくないようだ。
「バイト先でミスをした場合でも、そのことだけで『ペナルティ』として賃金が減らされる理由はありません。先に申し上げた、違約金・賠償額予定の禁止や、賃金全額払いの原則に反するからです。
たしかに、就業規則に懲戒処分についての規程があり、その規程に従った手続によって減給相当のミスであると客観的・合理的に認定されれば、減給処分となることはあるでしょう。
しかし、一般的に『ペナルティ』と言われるものは、そうした懲戒処分とはまったくの別物ですし、実際に使用者が被った損害額を計算した上で差し引くものでもないと考えられます。
ミスをした側の労働者からすれば、使用者から『ペナルティ』と言われてしまうと反論しにくくなりがちですが、それこそ、労働基準法が禁止したシチュエーションにほかなりません。
他方で、労働者が賃金を全額受け取った前提で、使用者から損害賠償責任を追及されることについては、裁判例は『信義則上相当と認められる限度』でのみ、労働者の賠償責任を認めています。
たしかに、労働者が業務上のミスをして、そのミスが原因で使用者に損害を与えてしまった場合、どんな些細なミスであっても、使用者に対して損害賠償責任を負うともいえそうです。
しかし、使用者に比べて金銭的な余裕の少ない労働者にとって、使用者が被った損害をすべて賠償するのは簡単ではありません。また、使用者は、労働者の労働によってこそ経済的利益を得ているという面もあります。これらのことから、労働者の損害賠償義務の範囲を狭く考える必要があるというわけです。
使用者には事業活動によるリスク管理も求められるのですから、労働者が『重大な過失』で使用者に損害を与えてしまった場合はともかく、軽微なミスであれば、使用者によるリスク管理の甘さを労働者に押し付けることは筋違いですし、何の手続もなく労働者に支払う賃金を一方的に減額するような扱いは許されません」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
柴田 幸正(しばた・ゆきまさ)弁護士
2008年登録、愛知県弁護士会所属。同弁護士会の労働法制委員会では研修部会長を務め、2016年10月からは家事調停官(非常勤裁判官)も兼務。地元の瀬戸市で、個人向けの一般民事・家事事件、中小企業向けの顧問業務などを取り扱っている。
事務所名:柴田幸正法律事務所
事務所URL:http://www.shibatayukimasa-law.com/