FIAはF1の全チームに対し、スタート手順を「プリロード」するアイデアは、安全上の理由から望ましくないと通告した。これはローンチコントロールと同様の効果を発揮しうる、一種のトリックとも言えるアイデアだった。
FIAがこうした通知を行ったのは、フェラーリとのやり取りの中で、このコンセプトの存在を明かされたからだ。
近年、FIAはスタート手順のコントロールをドライバーが単独で、システムの支援を受けずに行うことを重視してきた。これに対してチーム側は、スタートをドライバーにとって簡単で、失敗の可能性が低いものしようと知恵を絞っている。
F1レースディレクターのチャーリー・ホワイティングが、フェラーリから「プリロード式」のスタートシステムの搭載について相談され、否定的な判断をしたことが分かった。
ただ、フェラーリ自身がこのコンセプトの開発に取り組んでいたのか、あるいはライバルがそれを開発し、使用するのを妨害するために、このアイデアを公にしたのかは定かではない。昨年フェラーリは、FRICの効果を再現する新しいサスペンションシステムについても、FIAに質問状を出している。
スタートに関する現在のレギュレーションはかなり厳しいもので、ドライバーがスタート時にクラッチのバイトポイントを探すにあたって、助言や支援を与えることは一切禁止されている。このため、クラッチミートを自動的に調整するシステムはもとより、パドルを保持すべき位置をドライバーに教える仕組みまでが違反となる。
■プリロード式スタートの手順
このプリロード式スタート手順は、ドライバーに理想的なスタートを「保存」する機会を与えるもので、おおむね次のように働く:
・スタート手順を始める直前に、いったんクラッチをつなぐ。
・1速ギヤを選択する。
・スタートに最適な所定のエンジン回転数に達するまで、スロットルを開ける。
・その状態でブレーキペダルを踏むと、「プリロード」モードに入る。
・スタート合図の赤ランプが点灯する直前に、クラッチパドルを徐々にリリースして最適なトルク感が得られる位置を探し、その位置でパドルをホールドする。
・赤ランプが消えると同時にブレーキをリリースすると、完璧なスタートができる。
この手順は、毎回安定した良いスタートを保証してくれるだけでなく、発進時のホイールスピンを最小限に抑えることにも役立つ。ブレーキをリリースする前の手順の最終段階で、エンジン回転数があらかじめ決められた分だけ下がるからだ。
フェラーリはこうしたプリロード式スタートが、2017年のレギュレーションのうち、次の2項に違反するかどうか、FIAに確認を求めたという:
・9.2.2:クラッチ操作デバイスのトラベルレンジにおいて特定の点をドライバーが識別できるような、またはドライバーがデバイスをある位置に保持することをアシストするような設計は許可されない。
・9.2.7:クラッチの滑り、あるいは接続の度合いをドライバーに知らせるようなデバイス、またはシステムは許可されない。
■FIAが懸念する、プリロードシステムの危険性
ホワイティングが否定的な考えを示した主な理由は、こうしたシステムの潜在的な危険性にあると考えられている。
彼は、プリロードモードでドライバーがエンジン回転数を下げすぎた場合、あるいはスロットルのフェイルセーフの閾値を超えてしまった場合には、アンチストールが作動して、クルマがグリッドから発進できないリスクがあることを指摘したという。
また、このプリロードスタートのアイデアを許可すると、スロットルのフェイルセーフリミットの無効化や、急進的なクラッチの開発といった形で、開発競争が激化することへの危惧もあったようだ。
ホワイティングの意見が示されたことにより、おそらくどのチームもこのスタート手順を使おうとはしなくなるだろう。ただ、彼が提示できるのは、あくまで「意見」でしかない。クルマに搭載されたシステムやデバイスの合法性について、最終的な判断を下す権限は各イベントのレーススチュワードにあるのだ。
したがって、どこかのチームがホワイティングの意見を無視し、違反とされるリスクを承知の上で、この種のシステムを用意してくる可能性もないとは言えない。