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アカシック、「愛 x Happy x クレイジー」に見るブレイクの予兆 リアルな“共感力”を読み解く

2017年02月12日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

アカシック

 横浜出身、王道J-POP×ギャル×文学=アカシック。極上のポップサウンドを届けてくれる4人組バンドが、話題の深夜ドラマ『ラブホの上野さん』(フジテレビ系)の主題歌「愛 x Happy x クレイジー」(3月8日発売シングル表題曲)にて初のドラマ・タイアップ曲を手がけた。


 実在する、日本一有名なラブホテル・スタッフ、上野さんのクールかつクレバーなつぶやきから生まれたこのドラマ。2月8日に放送された第4話では、アカシックのボーカリストである理姫が、物語の舞台となるラブホテル「五反田キングダム」のスイートルームで女子会をしている女性客“かな”を演じた。


 男と女のナマの駆け引きの現場を見続けてきた上野さんによる赤裸々な人間ドラマ。そもそもアカシックの楽曲には、通常のバンドだったら誤解を恐れて避けそうな“キャバクラ嬢”、“風俗嬢”、“ホスト狂い”などのワードが歌詞に登場する(『愛 x Happy x クレイジー』収録「幸せじゃないから死ねない」より)。しかし、決してエキセントリックではなく、横浜の繁華街出身の理姫にとっては当たり前の表現なのだろう。ドラマと楽曲が、エロだけではない男と女の切なくもピュアな恋愛模様を描いているという点でシンクロしているのだ。


 「愛 x Happy x クレイジー」での、耳に残るキャッチーなイントロ&サビ・フレーズに注目してほしい。洒落たセンスを感じられる豊かなバンド・サウンドであり、女子の気持ちをバッチリとらえる文学的な歌詞の切り口を持っている本作は、甘く濃厚かつスパイシーな果実の醍醐味に不敵な女心が添えられた、儚くも味わい深いナンバーだ。


カップリングもユニークだ。まるで映画の脚本のようにドラマティックにストーリーが展開されていく名曲「幸せじゃないから死ねない」(Single ver.)はもちろん、通常盤の3曲目に収録されたお気楽なタイトルが目を引いた「平成へゴー!」では、昭和歌謡的な曲紹介セリフが入るデュエット・ソングを決めている。〈ちょっといい株 もうすぐ手に入る〉、〈ちょっといい土地ドバイに予約する〉など、どことなくコミカルな展開にクスッとさせられる。それこそ、メンバーが影響を受けたであろうロックバンド、ユニコーンからの遊び心あふれる音楽的影響を感じさせられたナンバーだ。


 ライブのMCでは、理姫が説明もなくX JAPANのお決まりのフレーズ“瞬間の美学でいくぞ!”を決めるなど、楽曲のちょっとしたフレーズからも感じられるポップミュージック愛の深さ。それこそ、aiko風なポップセンスを彷彿とさせる「8ミリフィルム」のリリース時には、本家aikoがテレビ番組『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)出演時に「アーティストが選んだとっておきの切ない1曲」特集で本作をセレクトし、絶賛していたことも記しておきたい。さらに、テレビ番組『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)では、きゃりーぱみゅぱみゅが今気になっている人として理姫を抜擢し、NG無しとして恋愛事情を語り水商売風のキャラが注目されたことも忘れられない。


 豊かなサウンドはもちろん、実体験による歌詞が持つ共感力の高さが魅力なアカシック。4人4様な、様々なキャラクターが共存するメンバーの多様性。スキルフルな演奏力を持ちながらも、オトナとコドモの間を彷徨うアンビバレンツな存在感。情報過多な時代に迷う人々の心を代弁するポップミュージックならではのオルタナティブなパワー。2017年という“いま”に最も必要とされる人間力の高さを感じられる音楽、それが王道J-POPだなんて素敵だと思う。2月25日からは初の東名阪ワンマンツアー『I Happy Crazy Tour』がスタートし、3月11日には過去最大キャパとなる赤坂BLITZ公演が控えている。そんな魅力を解き放ち、今年ブレイクの期待が高まるアカシックに注目したい。(文=ふくりゅう(音楽コンシェルジュ))