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HKT48が覆す、“シングル選抜”の概念 カップリング曲のみ先行配信の意図を読む

2017年02月12日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

HKT48『バグっていいじゃん』TYPE-A

 HKT48が、2月15日にリリースする9thシングル『バグっていいじゃん』カップリング曲「必然的恋人」の先行配信を2月8日より開始した。


(関連:HKT48 指原莉乃センター『バグっていいじゃん』 選抜の“聖域破壊”は功を奏すか?


 指原莉乃がHKT48の楽曲で初のセンターを務めることで話題を呼ぶ表題曲は、選抜メンバーが前作より約半数入れ替わるという、48グループの中でも大胆な展開を見せた曲でもある。そんななか行われた、カップリング曲のみを配信するという取り組みは、どのような意味をもたらすのだろうか。『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』著者であり、AKB48グループに詳しいライターの香月孝史氏に話を聞いた。


 まず、今回のシングル選抜は、動画配信サイト「SHOWROOM」の生配信番組に指原莉乃、宮脇咲良、兒玉遥が出演した際に発表された。そこで指原は、秋元康から「子ども向けアニメの番組主題歌なので、知名度のある指原が真ん中に立つのがいいのでは」と直接打診を受けたとして、今作で初センターを務めることになった経緯を明かしている。


「指原さんはグループのドキュメンタリー映画の監督や劇場支配人を務めるなど、半分運営の立場にいるメンバー。『HKT48のおでかけ!』(TBS系)では若いメンバーを見守りながら、まだキャリアの浅い彼女たちのキャラクターを視聴者に紹介する存在でもあります。48グループ内でも彼女のような立ち位置の人は他にはいません。若いメンバーが一気に追加されたシングル曲で彼女が初センターを務めることは、最適で必然なことでしょう。そして、運営とメンバーの間にいる彼女の存在があるからこそ、HKT48は今回のような大胆な戦略を立てやすいということもあると思います」(香月氏)


 指原をセンターに据えた「バグっていいじゃん」は、荒巻美咲、今村麻莉愛、駒田京伽、冨吉明日香、4期研究生の小田彩加、武田智加、地頭江音々、月足天音の8名が初選抜入りを果たし、前作「最高かよ」で選抜入りしていた神志那結衣、渕上舞、本村碧唯、1stシングルから全作で選抜入りしていた田島芽瑠、松岡菜摘、森保まどかなどの選抜常連メンバーが外れ、カップリング曲「必然的恋人」の歌唱メンバーとして選出されている。


「表題曲『バグっていいじゃん』の選抜はグループの中でも新鮮な顔ぶれが集まり、カップリングの『必然的恋人』の選抜には、これまでのシングル表題曲メンバーたちが集められています。表題曲に意図的にキャリアの浅いメンバーが多く選ばれていることがわかる、特徴的な選抜です。そういった意味では、選ばれたメンバーも踏まえ、『必然的恋人』はもう一つの表題曲のような立ち位置にある曲と言えるでしょう」(香月氏)


 また、アイドル楽曲に詳しい音楽評論家の宗像明将氏は、「必然的恋人」の先行配信について以下のような見解を示す。


「HKT48の楽曲は常にバラエティ豊かですが、特に今回はキャッチーなサビのあるわかりやすい応援歌『バグっていいじゃん』を若年層向けとして、特にAメロがメロウで憂いのある『必然的恋人』はいち早く楽曲を楽しみたいコアファン向けとして作り分けている印象です。自然な広がりが見込めるアニメタイアップとは真逆のイメージの楽曲を先行配信で打ち出すことで、様々なバリエーションの曲を世に送り出す機会を生む。幅広く活躍できるグループであるということが、選抜メンバーだけではなく、音楽でも示されているように思います」


 最後に香月氏は、48グループの中でも“固定しすぎない”というありかたを模索できたグループとして、HKT48の存在を高く評価した。


「HKT48はデビュー時から、センターを務めるメンバーなど、世の中に出ていく顔を“固定しすぎない”というありかたを模索できているグループ。今回のカップリング曲の先行配信やそのメンバー構成も、そうした流れの拡大の一手と見ることができるでしょう。選抜を固定することは、グループに閉塞感を生み出す恐れがあります。HKT48は顔になるメンバーをシングルごとに入れ替えることによってそれを防ぎ、常にフレッシュなグループであり続けることができているのかもしれません。今回のシングル選抜を経て、グループが今後どのような戦略を立てていくのか、引き続き注視したいですね」


 異なる印象の2曲を異なる選抜メンバーが歌唱し、異なるかたちで広めることに挑戦したHKT48の『バグっていいじゃん』。そこにあるのは、シングル選抜という“概念”にとらわれることなく、より多くの人々に楽曲を届けたいと願うチームの“執念”なのかもしれない。(リアルサウンド編集部)