トップへ

「週末映画館でこれ観よう!」 今週の編集部オススメ特集上映は「トーキョーノーザンライツフェスティバル2017」

2017年02月10日 19:22  リアルサウンド

リアルサウンド

「トーキョーノーザンライツフェスティバル2017」

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ2人がそれぞれのイチオシ作品をプッシュします。


参考:松江哲明の『沈黙―サイレンス―』評:見終わった後に意識が変わる、映画のパワーが詰まった傑作


■「トーキョーノーザンライツフェスティバル2017」


 リアルサウンド映画部のロン毛担当・宮川がオススメするのは、2月11日から17日にかけて渋谷・ユーロスペースにて開催される「トーキョーノーザンライツフェスティバル2017」。


 2011年にスタートして以降、毎年2月の最も寒い時期に開催されているトーキョーノーザンライツフェスティバルは、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、アイスランドなどの北欧映画を集めた映画祭。今年で7回目の開催となるだけに、映画ファンの間ではもうすでにお馴染みのイベントだろう。


 何を隠そう、筆者も開催年の2011年から毎年欠かさずに通っているのだが、過去にはラース・フォン・トリアーやルーカス・ムーディソンなど映画ファンにとってはマストで押さえておきたい監督はもちろん、いまや日本の映画ファンの間でも高く評価されるニコラス・ウィンディング・レフンやヨアキム・トリアーなどの未公開作も上映されてきただけに、毎年そのラインナップには注目が集まっている。


 そして気になる今年のラインナップも相当すごいことになっている。最大の注目作は、スウェーデンの映画監督ヴィルゴット・シェーマン監督が1967年に製作し、アメリカでは公開を巡って裁判沙汰にまで発展、“ポルノ解禁”のきっかけになった問題作『私は好奇心の強い女』だろう。本作は、ノーカット・無修正、デジタル版で、製作50周年記念として特別上映されるだけに、なんとしてもこの機会に押さえておきたいところだ。


 そのほかには、昨年の第29回東京国際映画祭で審査委員特別賞と最優秀女優賞の2冠に輝いた『サーミの血』(東京国際映画祭では『サーミ・ブラッド』のタイトルで上映)の特別先行上映(アップリンク配給で2017年秋に公開予定)や、同じく第29回東京国際映画祭で上映され、第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門ではグランプリを受賞した、全編モノクロ16ミリ撮影で綴られるボクサーのラブストーリー『オリ・マキの人生で最も幸せな日』、最近は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』や『ドクター・ストレンジ』などハリウッド超大作にも活躍の場を広げるマッツ・ミケルセンが、スサンネ・ビア監督作の脚本家として知られるアナス・トマス・イェンセンとタッグを組んだ2005年の日本未公開作『アダムズ・アップル』など、注目作が目白押し。個人的には演劇部員の奮闘と恋愛模様を描いた『キス・ミー』、魔法を手にした少女3人の葛藤を描いた『ガールズ・ロスト』、2本の青春映画に期待。


 作品によっては前売券の段階で売り切れているものもあるが、当日券の販売もあるので、詳しくは公式サイトで確認の上、ぜひ“北欧映画の1週間”を劇場で体験してほしい。


■『グリーンルーム』


 リアルサウンド映画部の二次元担当・泉がおすすめするのは、2016年に27歳という若さでこの世を去ったアントン・イェルチン主演作『グリーンルーム』。


 アントン・イェルチン扮するパットが所属する売れないパンクバンド「エイント・ライツ」が、ネオナチ集団の巣窟と化したライブハウスでパフォーマンスすることになり、そこで運悪くネオナチメンバーが起こした殺人事件を目撃してしまう。足早にライブハウスを去ろうとするバンドメンバーだったが、すでに周りには彼らの口を塞ごうとするネオナチ軍団が待ち構えていた……。


 タイトルの“グリーンルーム”とは、ライブハウスにある出演者用の楽屋のこと。そのタイトル通り、グリーンルームで殺人事件を目撃した主人公たちが、生き残りをかけてネオナチのスキンヘッド軍団と戦いを繰り広げる、というお話。


 まず、パンクバンドをやっているとは思えないほど、パットは筋金入のチキン野郎です。いまいちパッとしないし、アナーキーな感じもしないファッションパンク野郎。でも、最初はウジウジ言っている彼が、極限状態に追い詰められることで、次第に暴力に目覚めていく様子は本作の見どころのひとつでしょう。また、監督のジェレミー・ソルニエは、前作の『ブルー・リベンジ』で見せた、リアリティのあるゴア表現がコアファンから高く評価されています。本作でも、ナイフや銃や犬など、様々な武器が登場して、人がばったばったと死んでいきます。人を捌いたり、手が裂けたり、犬に噛み殺されたりと、グロテスクな残酷描写がふんだんに盛り込まれているため、もしかするとグロ系が苦手な人には少しハードルが高いかもしれません。


 ただ、私の中で一番印象に残っているのは、ネオナチの幹部が主人公一行を狩るために放つ“犬”の恐怖です。ネオナチ軍団と真っ向からやりあっても勝てないバンドメンバーたちは、苦肉の策としてグリーン・ルームでの籠城戦でなんとかやりきろうとするのですが、そんな彼らを追い詰めるために放たれる“犬”がガツガツ人間に襲いかかります。最近観た『ドント・ブリーズ』にも、主人公の女の子を追い詰める超怖い番犬が登場していましたが、闘争本能をむき出しにした犬ってマジで怖い……。


 クライムスリラーという位置付けですが、ひとりの青年が一皮むけて成長していく青春映画としての側面もあるので、貧弱な男から勇敢な男へと変化していくイェルチンの姿をぜひ劇場で観てもらいたいです。