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Pyxisが体現した“ポップス特化型声優ソング”の持つ強度

2017年02月10日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

(写真=江藤はんな)

 声優の豊田萌絵と伊藤美来によるユニット・Pyxisが1月15日、東京・赤坂BLITZでメジャーデビュー後初のワンマン『Pyxis Live 2017 "Pyxis Party" ~First Love 注意報!~』を行なった。様々な形態で活躍する声優アーティストの新たな一面を見ることのできたライブだった。


 改めて解説しておくと、Pyxisとして活動する豊田萌絵と伊藤美来は、別ユニット・Stylipsのメンバーでもある。どちらかといえば事務所内ユニットとして顔ぶれも変わりながら活動してきたStylipsが親のような存在でもあり、筆者もこれまではPyxisを「ユニット内ユニット」のような位置づけで捉えていたのだが、ライブでは見事にその先入観を覆された。


 ライブはドラムンベースを土台とした、テン年代アイドル風の高速ポップス「First Love 注意報!」や、ギターリフのフレーズがキャッチーな「新しいキミ」、音符が細やかで歌うには難易度の高そうな「Please!Please!」と、1stアルバム『First Love 注意報!』からライブ初披露の楽曲を惜しげも無く叩き込んでゆく。この時点でStylipsの持つ洗練されたアニソンとは別の方向性を提示できており、Pyxisはそこに歌謡曲やエレクトロポップスなど、よりJ-POPに振り切った楽曲が多いことを感じさせてくれた。


 豊田がMCで「今日はみんなの初恋現場なので、どんどん上書きしていきましょうね!」と叫び、2人がお立ち台に上がって「どや!」と自慢げに衣装を見せて場を盛り上げたあとは、伊藤の「まだまだみなさんブチ上がりたいですよね? だから次はダンスがパワーアップした曲を!」というアナウンスからロカビリー調の「ハズム恋リズム」、スカとキュートなアニソンの往来がクセになる「恋でした」と、機動力の高いポップスが続く。


 会場の空気も激しいものになってきたかと思いきや、野球をテーマにブラスバンド風のアレンジが施された「13番」では、伊藤と豊田がそれぞれバットを持ち、カラーボールをトスバッティングでファンへ贈呈するという演出も。ファウルチップを連発しまくる伊藤に対し、豊田は特大のアーチを連発。3本中1本は2階フェンス直撃、1本はサク越えと強打者ぶりをアピールした。


 ライブ中盤では、Stylipsのユニット曲「ジェリービーンズ・ダイアリー (Like Cover Girl)」から、伊藤のソロ曲「Dear Honesty」、豊田のソロ曲「カフェモカ・サイド」と2人のバリエーションを見せる展開へ。豊田が「Dear Honesty」の振りを完コピして伊藤の見せ場である“変身ポーズ”を奪い取ったり、「もえし」コールを羨ましがった伊藤が「みくし」コールを要求する一幕も。四つ打ち&ブラスのアッパーな「Welcome! My best friend」では、両端のステージを互いの部屋に見立て、行き来してはガールズトークをするという描写でファンをワクワクさせながら、このパートを終えた。


 終盤はTVアニメ『デュエル・マスターズ VSRF』(テレビ東京系)のエンディングテーマでもあり、サビの2人によるユニゾンが伸びやかで心地よい新曲「FLAWLESS」を初披露したところからスタート。歌詞にある<ダイア◇ハート>をモチーフとした装飾が施された純白の衣装も一層目を引く。80年代の歌謡曲を思わせる「初恋の棘」や“タオル曲”の「トキメキセンセーション!」と、疾走感のあるギターロック風サウンドが特徴のレア曲「Jewel」を続けた。「Jewel」は、初のワンマンライブ『Pyxis 1st Live Pyxis Party 2016 ~ Happy Valentine's Day ~』のメモリアルブック特典CDにしか収録されていないレア曲だ。


 ラストの楽曲前、伊藤は「たくさんの曲が一気に増えて、早く皆さんの前で歌いたかったし、すっごく楽しかった。結成発表はここの半分の半分くらいの規模の場所でやったのに、1年と少しで赤坂BLITZの舞台が埋まるなんて」とコメント。豊田は「もともと0cmくらいだった距離がマイナスくらいになった。食い込んじゃった(笑)」と活動を通して2人の距離が一層近づいたことを明かす。最後のライブ定番曲である、甘々なエレクトロポップ「Shiny day」では、サビが終わってラストのコーラスになってもファンが左右に手を振り、名残惜しそうにするなか、2人はステージを後にした。


 ソロ・グループ・ユニットと様々な形態で活躍する声優が多い昨今だが、Pyxisはそれぞれの立ち位置を明確化しつつ、Stylipsもソロ活動とも違ったポップスとしての魅力を提示してみせた。これからシーンを背負うなかでさらに忙しくなるであろう2人だが、2017年はどんな新たな魅力を表現してくれるのだろうか。(中村拓海)