2017年02月09日 10:04 弁護士ドットコム
九州大学など、国公立大の入学試験と人気アーティストの大型ライブなどが重なり、福岡県内で多くの受験生が宿を確保できない状況に陥っていることが話題になっている。
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地元の西日本新聞によると、2月25、26日の入試と同時期にライブを開くのは、「三代目J Soul Brothers」(24~26日)と「RADWIMPS」(25、26日)。さらに、福岡市内の大学が薬剤師国家試験(25、26日)の九州唯一の会場になっているため、部屋数が足りていないという。
現在県内では、受験生を助けようと、不動産会社や市民らが部屋の提供を申し出るなど、支援の輪が広がっているようだ。
もし受験生に宿を提供しようとした場合、法的に注意すべき点はないのだろうか。たとえば、金銭を受け取ったり、見ず知らずの未成年を自宅に泊めたりしても、問題ないのだろうか。旅館業法に詳しい金子博人弁護士に聞いた。
受験生のために、福岡県民や不動産業者が部屋の提供を申し出ているということは、それ自体は歓迎すべきことです。
ただ、法的には「旅館業法」があり、「営業」として人を宿泊させるには、必要な設備をもうけて、営業許可をとらなければならないし、「消防法」に定める設備を備えなければならないことになっています。そのため、せっかくの市民からの申し出が違法ではないかとの心配があるようです。
ことに今は、「Airbnb」のようなインターネットを通じた宿泊サイトで「空き部屋」を探すような、新しい旅の仕方が世界中で流行しています。日本でも、提供者、利用者が急増していて、それが違法かどうか、違法なら合法化すべきか、というような議論が沸騰していることは、ご存じのことと思います。
ただ、今回の場合は、「無償」で提供したいという申し出が多数と聞いています。無償であれば、「営業」ではなく、旅館業法に抵触することはありません。
しかし、宿泊者が「タダでは気が引ける」と思って、お礼に品物やお金を差し出してくることも考えられます。この場合、受け取っても良いのでしょうか。
品物であれば、価格が極端に高いものではなく、世間常識でお礼といえるようなものなら、問題はないでしょう。金銭でも、光熱費や飲食の実費程度であれば、「営業」とはいえないと思います。
では、謝礼が旅館やホテルの宿泊費程度の金額だったらどうでしょうか。「営業」ではないかと心配される人がでてくるかもしれませんが、「営業」といえるためには、一回限りでなく、「継続性」が必要といわれています。
何回繰り返せば「営業」となるかですが、この点について、法律上の明確な定めはなく、判例もありません。ただ、不動産の仲介では、年に3回が目安といわれています。それからすれば、2月の25、26日を中心に、受験生や付き添いの人を、複数組受け入れても、原則的には、「営業」とはいえないと思います。その時限りだからです。
さて、大学の受験生となると、未成年者が多いでしょう。未成年者の契約は、原則として、親権者の代理か同意が必要です。しかし、大学受験生程度の成熟度であれば、受験のための宿泊契約程度は、親権者の包括的な同意があるといえ、保護者の確認はなくても構わないと考えられます。
とはいえ、貸す方としては、住所、連絡方法、受験先などの基礎情報を確認するとともに、親御さんからの直接の宿泊予約でない限り、親御さんと一度は連絡をとっておいた方が、トラブルの防止にもなるでしょう。
ところで、今回の福岡のケースでは、むしろ、ほかのことが気になります。例えば、騒音で寝られなかったとか、空調が不完全で、風邪を引いてしまったとかです。せっかく好意で部屋を貸したのに、それがあだにならないよう、部屋が受験生に向いているかを、一度は見直すことも必要かもしれません。
また、最近、Airbnbでは、盗聴、盗撮の問題が発生しています。許可を受けたホテルや旅館とはちがう、別の問題も発生しうることは知っておくべきでしょう。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
金子 博人(かねこ・ひろひと)弁護士
「金子博人法律事務所」代表弁護士。国際旅行法学会の会員として、国内、国外の旅行法、ホテル法、航空法、クルージング法関係の法律実務を広く手がけている。国際旅行法学会IFTTA理事。日本空法学会会員。
事務所名:金子博人法律事務所
事務所URL:http://www.kaneko-law-office.jp/