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星野源は日本のポップミュージックの歴史を前に進めるーー新春ライブ『YELLOW PACIFIC』レポ

2017年02月08日 15:03  リアルサウンド

リアルサウンド

星野源(撮影=Tsukasa Miyoshi(Showcase))

 昨年10月の『恋』リリース以降初となる星野源のワンマンライブ“星野源 新春 Live 2days 『YELLOW PACIFIC』”が、1月23日と24日にパシフィコ横浜 国立大ホールにて行われた。前ツアー『YELLOW VOYAGE』が3月にファイナルを迎えてから、NHK大河ドラマ『真田丸』やTBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』、そして年末の音楽特番に出演するなど、2016年後半はテレビで見ない日はないほどの活躍を見せた星野源が、再びステージに帰ってきた。


ライブ写真はこちら。


 2日目である1月24日、披露されたのは全19曲。この日のセットリストは2015年12月にリリースした4thアルバム『YELLOW DANCER』収録曲が中心で、そこに、それ以前の曲や、「恋」とそのカップリング「Continues」などが加わる構成。サポートは、長岡亮介(G)、ハマ・オカモト(B)、石橋英子(Syn)、櫻田泰啓(Key)、河村“カースケ”智康(Dr)のバンドメンバーと管弦楽隊による総勢13名。『YELLOW VOYAGE』ツアーから、星野源はギターを持たずにハンドマイクで歌う曲が増えたが、この日も自由にステップを踏みながら歌い、さらに観客にも「踊ってますかー!?」「歌ってますかー!?」と何度も誘いかける姿が印象的だった。


 もはや毎回恒例となっている開演時のナレーションは『星野源のオールナイトニッポン』にもゲスト出演した人気声優の安元洋貴が星野源の母“ヒロコ”を演じ、仕事を嫌がりベッドから出てこない星野源に喝を入れる、という内容。そのナレーションに導かれ、「もっと休みた~い」と脱力気味に言ってステージに飛び出してきた星野源。そのまま伸びやかな声が響き渡る「ワークソング」から、ライブはスタートした。「化物」「桜の森」でも、バンドサウンドと管弦楽隊による華やかかつ上品なサウンドで、会場を徐々にあたためていく。肩肘張らないリラックスしたムードの中、星野源が生み出す、この時代、この場所に生きる人々のためのダンスミュージックを、存分に堪能できる幕開けだった。


 「Night Troop」「Snow Men」ではムーディな空間を作り、さらに、MCを挟んで披露されたのは「くだらないの中に」と「雨音」だ。石橋英子によるフルートの音色も加わり、音源とは異なるアレンジが施されたこの2曲。観客を引き込ませるために、セットリストも曲間の空気も、そして楽曲のアレンジにおいても、ひとつひとつ丁寧につくり込む星野源のライブは、何にも代えがたい贅沢な時間である。


 4曲をじっくり聴かせたあと、前編を締めくくった楽曲は「地獄でなぜ悪い」。狂騒的なホーンセクションと跳ねまわるビートが、観客のハンドクラップとジャンプを誘う。星野源はマイクを手にステージの上を練り歩きながら、本当に楽しげに歌っていた。日々を<地獄>と呼びながらも、それを笑い飛ばして生き抜くようなこの曲のタフさは、『YELLOW DANCER』全編において貫かれており、『恋』に続く今の星野源を象徴しているように思う。


 星野源がサポートメンバーと共にステージを去ると、スクリーンには新年の挨拶として、友近扮する水谷千重子からのメッセージビデオが流れる。さすがの芸の細かさで、会場は度々笑いの渦に包まれた。冒頭のナレーションといい、このメッセージビデオといい、星野源のライブにとって、“笑い”は欠かせない要素として、あちこちに配置されている。


 そんな脱力タイムを挟み、今度は弾き語りコーナーへ。演奏されたのは、「くせのうた」「口づけ」「フィルム」の3曲だ。フォークソングを彷彿とさせる、弾き語りを中心とした楽曲でソロデビューした星野源。そこから徐々に音楽的な視野は広がり、『YELLOW DANCER』ではソウル、R&B、ジャズ、ブルース、ラテンミュージック、歌謡曲などを盛り込み、“YELLOW MUSIC”と呼ぶべき音楽に消化させていった。それでも彼の曲の根幹にある歌とメロディは常に一級品。ギター一本による弾き語りの時間は、その“歌うたい”としての原点を思わせるような一幕だった。


 その後、再びサポートメンバーを迎え披露されたのが「Continues」。同曲が収録された最新シングル『恋』の紹介をしながら、星野源が話し始めたのは、長年敬愛し、“音楽の父”だという細野晴臣についてだ。以前から親交の深いふたりは昨年ライブ(昨年5月に開催された『細野晴臣 A Night in Chinatown』)でも共演しているが、そのステージで、細野晴臣に「あとはよろしく」と言われたという。しかし、その言葉の重さにすぐに返事をすることができず、その後作り始めたのが「Continues」だと明かす。はっぴいえんどやイエロー・マジック・オーケストラ、そしてソロとして、様々な形で日本のポップミュージックの礎を築いてきた細野晴臣の遺伝子を受け継ぎ、現代におけるヒットソングを新たに生み出した星野源。彼の曲は、今間違いなく、J-POPの歴史を前に進めている。この日会場に集まったおよそ5000人の熱気や興奮は、そのことを確かに証明していた。


 そこからのクライマックスに向かって一気に駆け上がっていく展開は圧巻だった。「SUN」では、ELEVENPLAYの8人のダンサーもステージに登場。開催地の横浜にあわせ、白に紺色のセーラー襟がついたマリン・ルックの衣装に身を包む。ふくよかなサウンドにあわせて、観客も思い思いに踊り始めると、さらに人気曲「Crazy Crazy」を惜しみなく披露していく。


 そして、この日一番のハイライトとなる「恋」へ。あのイントロが鳴ると同時に、会場からは歓喜の声があがる。この光景は壮観だった。見渡す限り、誰もが自由に踊っているのだ。2016年後半から今に至るまで日本中を賑わせているこの曲が、ライブという生のコミュニケーションが生まれる場所で鳴らされることで、ステージの上とフロアの興奮が渾然一体となり、巨大なエネルギーを放っていた。そして本編ラスト・ナンバーは「Week End」。8人のダンサーはそれぞれ違った振り付けで踊り、星野源もまた、身体全体でリズムを刻む。もちろん、決まった振り付けをみんなで一斉に踊ることは楽しい。しかし、星野源の曲はたとえ振り付けがなくとも、みんなバラバラに、それぞれの赴くままに身体を動かすことを誘ってくる。


 アンコールではおなじみ寺坂直毅の口上に乗って、ダンサーとお揃いのマリン・ルックのニセ明が登場。「君は薔薇より美しい」を高らかに歌い上げ、「ニセ明、初めて2曲やらせていただきます」と告げ、「時よ」も振り付けとあわせて披露した。ニセ明がステージを去ると、星野源が再び現れ、5月からのアリーナツアー開催を発表。そして、賑やかで幸福な一夜の終わりにふさわしい「Friend Ship」で大団円を迎えた。


 ナレーション、ビデオメッセージ、弾き語りコーナー、ニセ明……星野源のライブには、エンターテインメントに必須の要素がいくつも組み込まれている。そして、そのひとつひとつを毎回アップデートしていくことで、初めての人もそうでない人も、万人を等しく楽しませるライブを生みだすことができるのだろう。ステージの上で星野源は、とても自然体で、誰よりも心も身体も解放し、音楽に没頭できることを心から喜んでいるように見える。そんな姿を目の当たりにすると、見ている側も、やはりその一瞬一瞬を味わい尽くすしかない。


 音楽家、俳優、文筆家という多彩な顔も見せながら、エンターテインメントにすべてを捧げる星野源。2017年はどうやって我々を楽しませてくれるのだろうか。(取材・文=若田悠希)


■セットリスト
「星野源 新春Live 2days『YELLOW PACIFIC』」
2017年1月24日(火)パシフィコ横浜 国立大ホール


1. ワークソング
2. 化物
3. 桜の森
4. Night Troop
5. Snow Men
6. くだらないの中に
7. 雨音
8. 地獄でなぜ悪い
9. くせのうた
10. 口づけ
11. フィルム
12. Continues
13. SUN
14. Crazy Crazy
15. 恋
16. Week End


(アンコール)
1. 君は薔薇より美しい
2. 時よ
3. Friend Ship