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高橋一生、『カルテット』で涙の名演! 不器用な父親役に共感の声

2017年02月08日 14:32  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)TBS

 俳優・高橋一生(36)が、2月7日に放送されたドラマ『カルテット』(TBS)の第4話で披露した泣きの演技は、実力派揃いで話題の本作においても屈指の名演だった。SNSを中心に視聴者からは「切ない」「胸が苦しくなった」など、その演技に心を動かされた声が多く寄せられている。平均視聴率は7・2%(関東地区/ビデオリサーチ調べ)と、前回の7・8%よりもさらに減少しているものの、内容についての評価は依然として高い印象。前々期のTBS火曜ドラマ『重版出来!』も視聴率こそ低迷したが、第4回コンフィデンスアワード・ドラマ賞作品賞を受賞するなど高く評価されたことから、今作もまた隠れた名作としてドラマ史に残る傑作となりそうだ。


参考:満島ひかりはやっぱり凄かった! 『カルテット』の演技に絶賛の声


 高橋一生が演じるのは、劇中でカルテット(四重奏団)を組む主要人物四名のひとり、家森諭高(いえもりゆたか)。理屈っぽく細かなこだわりが多いタイプで、どこか子どもじみたところもあるミステリアスなヴィオラ奏者だ(もっとも、本作の四名は全員がミステリアスなのだが)。第三話までは、別荘での共同生活の中で自分なりの理屈を振りかざし、その関係性をかき回す役どころが多かった印象である。女性にアタックしては振られる、軽薄そうな一面さえ見せていた。第四話では、かつてVシネマ俳優をしていたこと、宝くじで6,000万円当たったものの引き換えをし忘れてしまったこと、実はバツイチで息子がいることなど、衝撃的な過去を飄々と告白し、メンバーたちを大いに驚かせた。


 家森によると、元嫁の茶馬子(高橋メアリージュン)はまったく理解不能な人物で、意思疎通の難易度は「猫、かぶと虫、茶馬子」の順になるほどだという。ひょんなことから、絶縁している元嫁を探すことになった家森は、郵便物の捺印から息子が通う小学校を突き止め、久々に彼と再会する。メンバーたちと会っているときはわがままで子どもっぽい人物だが、息子の前では父親然と振る舞っていて、彼が単なる変わり者ではないことを伺わせる。広場で息子の成長を噛みしめていたところに、元嫁・茶馬子とその彼氏が登場すると、家森は黙って息子を抱きかかえて走り去り、そのまま別荘へと連れ帰ってしまう。


 家森諭高の人物像は、決して共感しやすいタイプではないだろう。少し高い声も含めて神経質そうであり、立ち振る舞いもあまり自然ではない。にも関わらず、「こういう人、いる」と思わせるリアリティがあるのは、高橋一生の高い演技力に依るものだ。なにを考えているのかわからない、表情の希薄な人物は現実にも多い。言葉使いもどこか演技じみているのだが、その演技じみた振る舞いが家森諭高らしさに繋がっている。長いキャリアを持つ実力派、高橋一生ならではのアプローチといえよう。


 そして、そのアプローチがあってこそ、家森が涙するシーンは心を揺さぶるものがあった。別荘に押しかけた茶馬子の話は、激しい剣幕ではあったものの、決して家森がいうように支離滅裂なものではなく、むしろ家森の方にも問題があったことが明らかになり、息子は引き取られていくことになる。父親になることができなかった自分の至らなさに改めて向き合った家森は、今生の別れとなるかもしれないことを悟ってか、元気に手を振って去っていく息子を涙ながらに見送っていた。堪えきれずに崩れた表情は、家森が初めて見せる人間味のあるものだった。彼は感情が希薄なのではなく、不器用であることが伝わって、苦々しくも共感を覚えた視聴者は多かっただろう。


 実は筆者は、これと同じようなシーンに遭遇したことがある。4歳の頃、同じように元気に手を振って父と別れたのだ。そのときの父は、たしかに家森のような表情をしていたと、久しぶりに思い出すことができた。鮮明に記憶が残っていたことから、離婚がどういうものか理解はしていなかったものの、忘れてはいけない場面であることには気付いていたのだろう。ただ、どういう表情をすればいいのかがわからなかったのだ。おそらく父もわからなかったに違いない。


 高橋一生もまた、そういうときにどんな表情をするのが正解なのか、明確な答えを持っているわけではないだろう。だが、家森が抱く悲しみそのものについては、言葉にならない意識の部分まで、深く理解していたのではないだろうか。ひとになにかを思い出させるのは、表現の偉大な力だ。高橋一生の俳優としての力量に、ただ脱帽するばかりである。(松下博夫)