2017年02月07日 17:23 弁護士ドットコム
ツイッターで、焼肉チェーン「牛角」をかたるアカウントが、偽のキャンペーン広告を出していた問題で、情報を発信していた企業が明らかになった。広告メディアの企画などを行う「ヴィヴィット」という都内の広告会社だ。同社は2月6日、自社HP上で「『牛角』の公式キャンペーンと誤解を招くような広告」を流したとして謝罪した。
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「偽広告」は、ツイッターの有料広告などを利用したものだった。「牛角食べ放題」といった文言を掲載し、ユーザーをヴィヴィットが運営するポイントサイト「キラキラウォーカー」に誘導。数万円分の食事券の受け取りに必要として、指定のメールアドレスに空メールを送信させたうえ、スポンサーサイトへの登録を促していた。
実在する店と誤認させる広告をネットに流した場合、どんな法的責任が生じるのだろうか。IT問題にくわしい深澤諭史弁護士に聞いた。
ーー「偽の広告」を流すことで、法的責任は生じる?
一般論としてお答えします。まず、民事上の責任ですが、他者の名前をかたって存在しないキャンペーンの広告を出すというのは違法行為です。相手は対応を強いられる、信用を傷つけられるなどの被害を受けるでしょうから、相当する賠償責任が生じると考えられます。
次に犯罪になるかですが、偽キャンペーン、名前をかたるという「偽計」を用いて、相手に対応を強いるなど、業務を妨害したということで、偽計業務妨害罪(刑法233条)に該当する可能性があると考えます。
ーー牛角の件で、広告を流した会社は「誤解」だとしているが?
広報文を読みましたが、「誤解を招く」という表現に疑問がないわけではありません。誤解というのは正解が別にあるということ、注意して読まないと誤った結論にたどり着く、という話だと思います。
そうであれば、あれの正解は何だったのか、何が誤解だったのか、どうして生じたのか、そのあたりについて明らかにしないと、説明をしたことにはならないと思います。
ーー結果的に「偽」の広告を掲載することになったツイッターの責任は?
ツイッターとしては、「自分は指示通りに掲載しただけなので、関係はない」と主張するかも知れません。
ですが、過去に「パチンコ攻略法詐欺」の事件で、詐欺広告を掲載した雑誌の出版社に責任が認められた事例もあります。非常に難しい問題ですが、ツイッターの管理態勢如何によっては、問題になり得るでしょう。
ネットメディアの中には「自分は言われるがままに掲載しているだけ」と弁解する者が多くいます。ですが、特に昨今は、それで責任を免れることは難しくなっています。倫理上の問題もあり、自身のブランド価値の維持の観点からも、責任を持った対応が求められるでしょう。
ーー今後、同様の問題が増える可能性があるが?
今回のようなやり方のほかに、たとえば、実際にネットで「偽クーポン」を発行したらどうなるか、という問題が考えられます。
偽クーポンをプリントアウトするなどすれば、店の意思に反して、その名義の書類を作ったということで、有印私文書偽造(刑法159条1項)になり得ます。
また、それを利用すれば、嘘の文書で割引きという利益を得る行為ですので、有印私文書行使罪(刑法161条1項)や、詐欺罪(刑法246条)が成立するということになります。
なお、利用者は「偽物と知らなければ」犯罪は成立しませんが、偽クーポンを掲載した者には、利用者という道具を使って間接に犯罪をした、ということで犯罪が成立するという構造になります。
インターネット上の広告をクリックする人の割合が激減していると聞いたことがあります。情報の総量が増えた、ということも影響しているのでしょうが、消費者が「不正確で扇情的なだけの広告にウンザリとしている」ということも影響しているでしょう。
こういう広告は、インターネット広告全体に悪影響、悪貨は良貨を駆逐する、ということになりかねません。企業の自覚ももちろん、私達も、賢い消費者であることが求められていると思います。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
深澤 諭史(ふかざわ・さとし)弁護士
ネットやコンピューターにまつわる法律事件を中心に取り扱う。ネット選挙の法務では関係者向けの講演などを実施するほか、ウェブサイト「IT法務.jp」で情報発信も行う。著書に「その『つぶやき』は犯罪です(共著、新潮新書)」がある。
事務所名:服部啓法律事務所
事務所URL:http://hklaw.jp/