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ねごとが突き詰めた、妥協のないダンスミュージック「ハッとした歌やメロディーを最優先にしたい」

2017年02月04日 19:03  リアルサウンド

リアルサウンド

ねごと

 ねごとの4枚目のフルアルバム『ETERNALBEAT』が完成。BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之とROVOの益子樹をプロデューサーに迎え、「ダンサブルなねごと」という方向性を明示した『アシンメトリ e.p.』の延長線上で、生まれ変わったバンドの姿を克明に刻んだ、素晴らしい作品である。ライブと制作の日々で「ねごとらしさ」をもう一度見つめ直し、音・メロディー・言葉の一つ一つを精査して、核心だけをギュッと凝縮した、結晶のような11の曲たち。末永く愛して行ける作品に、またひとつ出会うことができた。(金子厚武)


・「ねごととしてのフックはちゃんとどの曲にもある」(沙田瑞紀)


ーー『ETERNALBEAT』、素晴らしいアルバムだと思います。まずはシンプルに、作品に対する手応えを話していただけますか?


澤村小夜子(以下、澤村):今までと全然違う雰囲気のアルバムができて、レコーディングでもいろんな録り方をしたし、新しい挑戦がそれぞれいっぱいあったんですけど、「こういうのを作ろう」って思って、そこに向かって作っていった曲たちなので、わりとやりやすかったというか、楽しみながら作れて、いいアルバムになったと思います。


蒼山幸子(以下、蒼山):ねごと史上一番コンセプチュアルだし、新しいことはもちろんしてるんですけど、でもすごく自然体だとも思うし、無理をしてる感じはまったくなくて。今までの積み重ねが飛ぶための準備だったとしたら、やっと飛び立つアルバムができた感じです。


沙田瑞紀(以下、沙田):今までは曲調のバラエティで飽きのこないアルバムを作りたいと思ってたんですけど、今回は一曲一曲に時間をかけて、統一感がありつつも飽きのこないアルバムにできたと思っていて、そこが一番自分の中で達成感があります。


藤咲佑(以下、藤咲):ライブを軸に置いて、今の自分たちが一番いい状態で鳴らせる、素直に楽しめる音楽を探す過程で作られていったアルバムなので、ホントにリアルが詰まってるし、聴いた人もそれを感じられる作品なんじゃないかと思います。


ーー『アシンメトリ e.p.』の取材でも話してもらったように、今回は「踊る」がテーマになっていて、ダンサブルな曲が多く収録されているわけですが、とはいえ、ビートだけをとっても生のバンドサウンドもあればトラック寄りのものもあるし、BPMも速いものから遅いものまであって、特定のジャンルで語れるものではないですよね。「ねごとらしいダンスミュージック」を構築する上では、どんな部分がポイントになりましたか?


蒼山:ダンスミュージックだからって、パーティーっぽいかというと、ねごとは全然そういう感じじゃないと思うんです。色だったら赤より青だし、でもちゃんと内側に燃えてるものがあるっていうか、エモさはあって、だから自然と体が揺れるし、気持ちが解放できるのかなって。構えて聴くわけでもなく、フッと懐に入り込んで、日常の背景になるような、そういうものを作れたんじゃないかと思います。


ーー確かに、ねごとは「アゲアゲ」って感じではないですよね(笑)。もちろん、フィジカルなビートの気持ちよさもあるんだけど、内側からジワジワと高揚する感じがある。


蒼山:汗感はないですよね(笑)。表面的に汗をかいてるっていうよりも、寒い日で体は冷えてるんだけど、気持ちは温かいとか、そういう感じに近い。


ーー瑞紀さんはどうお考えですか?


沙田:中野さんにプロデュースしてもらった「シグナル」の原型ができたときに、この曲はサビのメロディーを小夜子が作っていて、これまでのねごとにはなかったびっくりするようなメロディーが乗ったなって思ったんですね。なので、そこを一番に聴かせたかったので、中野さんにサビでビートが止まるデモを聴いてもらったら、「ダンスミュージックでこれはありえない」って言われたんです。ジャンルで考えると、これは法則にないから、自分はどうすればいいかわからないって。でも、それでも私はそのままいきたいと思って、自分が思っている以上に、曲に対するこだわりがあるんだなって感じて。


ーージャンル的なこだわりではなく、自分の中の理想に対するこだわりですよね。


沙田:そうですね。「ナシ」が少ないっていうか、ジャンルの定義よりも、そのときにハッとした歌やメロディーを最優先にしたいんです。なので、今回は一曲一曲突き詰めた分、シンセベースだったりエレキベースだったり、打ち込みだったり生だったり、曲によって形は変わってるんですけど、ねごととしてのフックはちゃんとどの曲にもあると思ってて。このアルバムを聴いて、「ロックバンドじゃなくなった感じなんですか?」とか言われることもあるんですけど、別にそういうことじゃないっていうか、ロックバンドとして聴いてもらってもいいし、楽曲を通じて自由に感じてもらえればと思いますね。


ーーそれぞれがどんなインプットを得て、ねごとなりのダンスミュージックを構築して行ったのかをお伺いしたいです。まず、制作期間中に4人が共有していた音楽はありましたか?


沙田:皆無ですね(笑)。


澤村:電気グルーヴ先輩のライブに行ったくらい?


沙田:みんなで行ったのはそれくらいかも。


ーーねごとは個人の趣向はわりとバラバラですよね。じゃあ、一人一人だとどうですか?


澤村:私はJ-POPばっかり聴いてたかな。ナオト・インティライミさんとか、平井堅さんとか。ペンタトニックスみたいな、コーラスがきれいな曲が好きで、そういう感じのをよく聴いてましたね。参考にするとかではなく、単純に聴いてて気持ちいいっていうだけなんですけど。


ーーコーラスのバリエーションは今回もかなり豊富だし、その背景にはなってるのかもしれないですね。佑さんはどうですか?


藤咲:やっぱり、BOOM BOOM SATELLITESはかなり聴きました。中野さんはベーシストでもあるので、「いい音とは?」みたいな話をずっとしてくださって、ベースの立ち位置を考えながら聴いてました。さっき話に出た「シグナル」は最初指弾きで行こうと思ってたんですけど、中野さんが「この曲はピックで弾くべきだ」って指摘してくれて、やっぱり、粒立ちやスピード感が全然変わってくるので、そこからは「この曲はどっちの弾き方がいいだろう」って、一曲一曲考えるようになりましたね。


蒼山:私は前の取材のときにも話したヒッキー(宇多田ヒカル)のアルバムと、あとはもともと好きだったスーパーカーをもう一回聴き直して、歌詞とかもやっぱりすごいなって思いました。この前ナカコー(Koji Nakamura)さんとROVOが一緒にやったライブを観に行って、「KISETSU」っていう曲がすごくいいなって思って、ナカコーさんのアルバム(『Masterpeace』)も聴きました。


ーー宇多田さんのアルバムに関しては、どんな部分に惹かれたのでしょうか?


蒼山:すごくシンプルで、普遍的なことを歌っていて、でもちゃんと彼女らしいというか。やっぱり、普遍的な歌詞を書きたいっていうのは前から思っていることで、具体的な日記みたいな感じではないけど、でも「わかるなあ」って気持ちになるし、あとはポジティブな面だけじゃないというか、ちゃんと光と影の両方があるのも好きで、それって逆にポジティブだと思うんです。切なさだったり、痛みがあるのって、現実を見てるってことだと思うから、私もそういう曲を書きたいなって。


ーー瑞紀さんはどうですか?


沙田:キングとか、アリアナ・グランデとか、シーアとか、この一年は女性が中心の洋楽を意識して聴いてました。キングはホントにハーモニーが最高で、ヘビロテって感じなんですけど(笑)、基本的には芯のある歌い手さんの曲を聴いていて、その中で思ったのが、洋楽のメロディーって、全然上がらないんですよね。でも、息遣いとか、ちょっとしたコーラスで厚みを出したり、気の利いたアレンジメントが多くて、全然媚びてない。アリアナ・グランデとかはすごくキュートな感じで売り出してるけど、楽曲を聴くとすごくクールで、ちょっとミステリアスな感じもするし、ああいう佇まいはすごく参考になるなって。


ーーなるほど。


沙田:メロディーが上がってたり、エモーショナルになっていなくても、楽曲自体のセンスで気持ちって上がるんですよね。そういう曲にすごく励まされたというか、自分は上げたりするのが苦手で、EDM的な曲もたくさん聴いたんですけど、あんまり入ってこなかったんです。そういう中で、「いいんだよ。この方向で大丈夫だよ」って、曲を聴くことで後押しされたような感覚もあったんですよね。


・「いろんなチョイスができるようになった」(沙田瑞紀)


ーーアルバムのオープニングを飾るタイトルトラックの「ETERNALBEAT」は、まさに瑞紀さんの言葉通りの一曲だと思います。無理に上げてる感じは一切なくて、でも曲の完成度で気持ちが高まるっていう。


沙田:楽曲としてちゃんとホットでありたいと思って、それを突き詰められた一曲かなって。この曲が一番最後にできた曲なんです。「一曲目は新曲にしたい」ってミーティングで話をして、幸子にメロディーを作ってもらって、それに対してトラックをつけるっていうやり方だったんですけど、その時点でアルバムの全貌は見えていたので、作りやすかったです。〈ミラーボール〉とか〈ビート〉とか、歌詞はキャッチーな感じもするけど、メロディーも含め、全体の雰囲気はあんまりハイに行かないというか、ジワジワ系ですね。


蒼山:一曲目になる曲だから、自分なりにど真ん中の言葉を書きたいと思って、〈うそだ〉からアルバムが始まるのはどうかなとも思ったんですけど(笑)、でもこのくらいの感じがいいなって。〈回すミラーボール やまないビート わたしたちだけのミュージック〉っていうのは、ねごとの意志っていうか、お客さんに向かって伝える部分があってもいいなって思って、ライブの画も想像しながら書きました。〈あなた〉っていうのはこれから出会う人のイメージで、これからの道で待っている人のことを忘れないでいきたいっていう、そういう気持ちで書いています。


ーー生のバンドサウンドと打ち込みの割合っていうのはダンスミュージックを作る上で重要で、そのバランスは曲ごとに違うとは思うんですけど、アルバム全体として何か意識したポイントはありましたか?


沙田:一曲一曲妥協したくないっていうのがまずあって、その曲に見合うものをという感じでした。今回は小夜子が叩いてない曲もあるんですけど、それって最初から「叩かないものもあっていい」って思ってないと、できないじゃないですか? 今までは「どこまで弾けるか、どこまで叩けるか」って考えながらフレーズを作ってたんですけど、今回はそこも取っ払って考えることができて、いろんなチョイスができるようになったっていうのは、バンドとして成長したところだと思います。もちろん、ライブではどの曲も生で演奏するので、その覚悟も同時に必要だったんですけど。


ーー具体的に曲で聴いてみると、中野さんプロデュースの「シグナル」は、「アシンメトリ」よりもバンドサウンド寄りの仕上がりですね。


沙田:デモの時点でギターフレーズをいっぱい入れていて、もともとはもう少しエイトっぽかったんですけど、最終的にもっと4つになった感じですね。


藤咲:ミックス直前にアレンジが変わったんです。もっとうわものがいっぱい入ってたんですけど、中野さんがいろいろ考えてくれて、この形になりました。


ーー益子さんプロデュースの「cross motion」にしても、リズムはトリッキーな部分もありつつ、仕上がりとしてはシンプルな印象です。


沙田:小夜子は細かいリズムが得意なので、そこは残したいなって思ったときに、スクエアプッシャーを人力でやったらどんな感じになるんだろうと思って、試してみた曲です。思ってたより生感が強くなったのは、益子さんだからかな。


澤村:もともともうちょっと細かいことをやっていたんですけど、一音一音がちゃんと聴こえるようにしたくて、「裏4つでいいよ」みたいに、どんどんシンプルになっていきました。


・「一個の声色でどれだけ高揚感を生み出せるか」(蒼山幸子)


ーー今回の楽曲のある種のシンプルさっていうのは、裏を返せば一音一音の説得力が上がってるってことで、中野さんや益子さんのプロデュース曲はもちろん、メンバーのみで作った曲からも音の強度が感じられました。で、今回初回限定盤のDISC 2に瑞紀さんの過去のリミックスが収録されていて、今にして思えば、今回のアルバムに向けたサウンドメイキングの習作だったなって思うんですけど、瑞紀さんの中で何かきっかけになったようなリミックスを挙げるとすると、どれになりますか?


沙田:「シンクロマニカ」はよりテクノに近づけるっていうトライで、楽しかったですね。テクノって基本リズムしかないから、職人っぽい音へのこだわりを突き詰めてできてるものだと思っていて、それまで自分はそういう考えをしたことがなかったので、面白くて。


ーー今回のアルバムがテクノ寄りかっていうとそこまでではないけど、そこで経験した音へのこだわりが、各楽曲の背景になってることは間違いないかなって。


沙田:アレンジとかフレージングの面白さに頼らないで、音ひとつでどれだけ説得力を持たせられるのかというのは、今回自分の中で大きな課題だったので、そういう部分はリミックスの仕事をしながら、突き詰めていくことができたのかなって思いますね。


ーーアルバムのラスト2曲、「PLANET」と「凛夜」はエンディングとエンドロールのようなイメージで、非常に印象的でした。


蒼山:「PLANET」は先にメロディーを作ったんですけど、「自分らしさを出せるキーにしよう」って考え始めた時期でした。私の中では、CM曲とかになったときに、15秒でもパッと入ってくるようなサビにしたくて、それを瑞紀に渡したら、よりダンサブルで、宇宙感のある仕上がりになりましたね。


ーー途中で瑞紀さんが海外の女性アーティストの歌い上げない感じを参考にしたという話がありましたが、幸子さんは今回自分の歌についてどんな部分を意識しましたか?


蒼山:自分の声の一番いい部分が出る音域はどこなんだろうっていうのはずっと探していて、今までは、ロックバンドだし、サビは高いところにいく華やかなメロディーにした方がいいと思ってやっていた部分があったんですね。もちろん、それはそれでいいんですけど、弾き語りとかもやって行く中で、「語るように歌いたい」っていう気持ちが強くなって、それをバンドでもやりたいと思うようになったんです。なので、メロディーの作り方もちょっと変わったかもしれないですね。


ーー語りかけるような抑え目のトーンで、いかにエモーションを伝えるか。


蒼山:そうですね。さっき瑞紀が言ってた「一音一音突き詰める」っていうのと同じで、「一個の声色でどれだけ高揚感を生み出せるか」とか、そういう部分を大事にしました。


ーーベースのピックか指かって話もそうだし、ドラムの生か打ち込みかって話もそうだし、今回はホントに一人一人が音を突き詰めて、その上でアルバムができているわけですね。それは結果的に、アルバムの「自分らしく、あなたらしく」というメッセージともリンクしている気がして、「アシンメトリ」の〈代わりはいないんだ〉や〈もっと好きにさせて〉はもちろん、「PLANET」の〈弱くたっていいよ いつだってそのままでいいよ〉や、「凛夜」の〈はだかになって わたしになって〉という歌詞にもその感覚が表れてると思う。


澤村:今回バンドとして周りを気にせず、自分たちのモードでやっていこうってなったから、そういう歌詞が書けたのかなって。「凛夜」はまずみんなでメロディーと歌詞を出し合って、瑞紀の〈はだかになって〉っていうワードをもらって、残りを私が書いたんですけど、自分たちにも訴えかけるような、浄化されるような曲を作りたいと思ったんです。


沙田:もっと解放されたいというか、もっと赤裸々でもいいというか、そういう気持ちで〈はだかになって〉という言葉を書いて、ありのままでいいよっていう感じを共有できればなって。それがちゃんと形になって、ホントに浄化されるような気分になりました。


ーーこれまでは強引にでも上げるような曲が作れないことを弱点だと感じている部分があったかもしれないけど、一年半で改めて「ねごとらしさ」と向き合って、その部分を逆に強みに変えることができた。「浄化」っていうのは、そういう感覚に近いのかもしれないですね。最後に、ワンマンツアーに向けての展望を話していただけますか?


蒼山:ライブのスタイルから今回の「ダンサブル」っていうキーワードを見つけていったので、余計ライブは観てほしいですね。今のモードをすごく伝えられると思うので、アルバムを少しでも聴いていいなと感じてもらえたら、ぜひ遊びに来てほしいと思います。


藤咲:自分たちが今素直に音を鳴らせている状態なので、そういうのって絶対伝わると思うんです。その空間を共有して、気持ちを渡し合うような、そういう感じのライブになりそうな気がしています。


(取材・文=金子厚武)