トップへ

「Suchmos以降」の視点で見る、2017年のキープレイヤーたち

2017年02月03日 14:02  リアルサウンド

リアルサウンド

Suchmos『THE KIDS』(DVD付)

 1月25日に発売されたSuchmosの新作『THE KIDS』が素晴らしい。作品自体のクオリティの高さはもちろん、2017年の日本の音楽シーンの未来を照らし出すという意味でも、間違いなく傑作だ。


 改めて、ここに至る背景を振り返ろう。2010年代の日本では、海外におけるファンクやソウルの再評価、国内における渋谷系やシティポップの再評価などを背景に、ブラックミュージックの要素を含んだポップスを志向するアーティストが急増。2015年に発表された星野源の『YELLOW DANCER』と、ceroの『Obscure Ride』という二作品は、その到達点と言うべき作品だった。


(参考:Suchmos、LUCKY TAPES、THE DHOLE……「踊る」という概念を塗り替える若手ベーシストたち


 そして、その延長線上で、去年からその動きが顕在化したのが「ブラックミュージックからポップスへの接近」。音大でジャズを学んだメンバーを含むSuchmosは、アシッドジャズやネオソウルをメンバー共通のバックグラウンドとしながら、OasisやNilvanaをルーツに持ち、ポップ/ロックのフィールドにも目線の開かれたYONCEをフロントマンとすることで、ポップス志向を明確化していた。


 前作『THE BAY』は、正式メンバーが6人になって間もない時期に制作された作品であったのに対し、『THE KIDS』はメンバーがたくさんのライブと状況の急激な変化を共有しながら作り上げた、真の1stアルバムだと言っていいだろう。楽曲の軸となっているのがバンドのグルーヴマスターであるベースのHSUであることに変わりはないが、HSU以外のメンバーもそれぞれの個性をこれまで以上に発揮していて、中でも印象的なのがギターのTAIKING。8本のギターを重ねたというオープニングの「A.G.I.T.」をはじめ、要所で現れるメタリックなサウンドがYONCEのロック魂を後押しし、代表曲「STAY TUNE」やライブの定番曲「DUMBO」などで聴くことのできるHSUとのゴリゴリなユニゾンは、もはやSuchmosの十八番となった印象だ。


 また、プレイ面のみならず、各楽器の音色の広がりが作品の充実度に大きく貢献しているのもポイントで、キーボードのTAIHEIはエレピでアーバンな質感を醸し出しつつ、圧のあるシンセでサイケデリックなムードを生み出し、ドラムのOKは軽快な生ドラムの一方で、ヒップホップ的なトラック寄りの音作りも披露。DJのKCEEも声ネタを中心としつつ、「PINKVIBES」ではサックスをネタにしてアシッドジャズな雰囲気を演出している。


 彼らの曲作りは基本セッションで行われているが、以前YONCEとKCEEに取材をした際、「俺たちはそれぞれのパートを入れ替えても、きっと同じような曲ができると思う」と話してくれたことがとても印象に残っている。もともと地元の友達で、YouTubeを囲んで古今東西の名曲を共有してきた彼らは、つまりは音楽の快楽原則を共有していて、だからこそ上記のような発言ができるのだろう。これは言い換えれば、「プレイヤーであると同時に、楽曲に対するアレンジャーとしての目線がある」ということでもあり、もはやジャンルの混在が前提となった今、この感覚はますます重要になってくるように思う。彼らの敬愛するJamiroquaiの7年ぶりの新作と、それに伴う来日公演が発表されたことも含め、2017年がSuchmosイヤーとなることはまず間違いない。


 では、ここからは「Suchmos以降」の目線に立って、2017年注目のキープレイヤーをパートごとに紹介して行きたい。まず、キーボーディストとしてKan Sanoの名前を挙げよう。先日の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で蔦谷好位置が2016年のベストソングとして「C'est la vie feat. 七尾旅人」を挙げ、「ジャズやピアノ演奏の技術のある人がポップスに来て、ジャズやヒップホップ、ポップスの垣根が無くなった曲」として紹介していたが、これがまさに本稿で言うところの「Suchmos以降」の状況。SanoはすでにChara、UA、土岐麻子、あるいはSeihoのバンドセットなど、多方面で活躍をしているが、メディアへの露出によりさらに活躍の幅を広げることだろう。『関ジャム』で蔦谷はmabanuaの名前も挙げていたが、彼らの所属する<origami PRODUCTIONS>は今や日本の音楽シーンを裏で支える存在であり、その重要性が今年改めて認識されることになるはずだ。


 続いて、ベーシストとしてはハマ・オカモトを挙げたい。言わずと知れたOKAMOTO’Sのメンバーであり、近年では星野源の作品にも参加するなど、ここでわざわざ名前を出すまでもなく、すでに今の日本を代表するプレイヤーの一人ではある。ただ、彼がかつて所属していたズットズレテルズのメンバーを含むヒップホップクルー・KANDYTOWNが昨年メジャーデビューを果たし、そのメンバーである呂布がSuchmosの『THE BAY』に参加していたことを考えると、キーパーソンとしてのハマの存在が改めてクローズアップされるように思う。すでにHSUとはウェブメディアで対談を行い、意気投合した模様。新たな波が起こり始めている、その予兆がヒシヒシと伝わってくる。


 ドラマーとしては、石若駿の名前を挙げよう。海外の新世代ジャズとも共振する若手として、先輩と言うべき関係性のYasei Collectiveの松下マサナオと共に、すでに大注目のドラマーだが、昨年は現在ceroのサポートを務める小田朋美らと共にCRCK/LCKSとしてデビューし、さらには小田も参加したソロアルバム『SONGBOOK』でも歌ものを披露するなど、ポップス志向を提示してみせた。WONKのアルバムへの参加では、日本におけるジャズとヒップホップの融合を体現していたが、新たな展開を見せ始めた石若の動きからは、今年も目が離せない。


 最後に、唯一の女性プレイヤーとして、ギタリストの弓木英梨乃を挙げておこう。もともとソロアーティストとしてデビューした彼女だが、近年はKIRINJIのメンバーとして活躍し、2017年は6年ぶりのソロライブ『弓木流』を開催。RHYMESTERとコラボした「The Great Journey」やソロライブで見せたジャズファンク的な素養は、やはり今のシーンにマッチしたものであり、同じく近年ファンク志向を強めたBase Ball Bearのサポートに抜擢されたのも納得。ゲストに土岐麻子らを迎えた『弓木流』のVol.1に続いて、2月に開催されるVol.2にはNegiccoの出演が決まっているというのも、やはりブラックミュージック×ポップスな志向の表れ。彼女のさらなる活躍にも、ぜひとも期待したい。(金子厚武)