トップへ

節税目的の養子縁組「ただちに無効にならず」最高裁初判断…今後、どんな影響がある?

2017年02月03日 11:13  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

相続税対策で結んだ養子縁組は有効か否か。亡くなった男性が、孫(長男の子ども)と養子縁組を結んだのは「節税目的であり、無効だ」と男性の長女と次女が訴えた裁判で、最高裁は1月31日、目的がもっぱら節税であっても「直ちに無効にならない」と初の判断を示した。


【関連記事:「500万円当選しました」との迷惑メールが届く――本当に支払わせることはできる?】


相続人の数を増やして非課税になる控除額を増やす「節税」は、富裕層で活用する人が多いといわれる中、注目される判決だった。裁判所の判断は、こうした現状を追認したとみられる。


相続に詳しい弁護士はこの判決をどうみたのか。また、相続において、養子縁組は、どのように利用されているのだろうか。加藤尚憲弁護士に聞いた。


●そもそも、何が問題なのか

「法律上、有効に養子縁組を行うためには、『(養子)縁組をする意思』が必要とされています(民法802条1号)。この『養子縁組をする意思(縁組意思)』は、次の2つを充たす必要があると考えられています。


(1)養子縁組の届出をする意思


(2)実際に養親子関係を形成する意思


節税目的で養子縁組を行う場合、(2)の意思、すなわち本当に親子になる意思があるのかどうかが問題となります」


加藤弁護士はこのように述べる。


●「節税目的の養子縁組は必ず有効」という判断ではない

今回、最高裁はどのような判断を下したのだろうか。


「最高裁は、『相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得る』として、『専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合』でも、直ちに縁組意思は否定されないものと判断しました。


この判決は、『節税目的の養子縁組は必ず有効だ』と保証しているわけではありません。あくまで、『節税目的が縁組意思と矛盾しない』と言っているに過ぎない点に注意する必要があります。


もっとも、今回の判決が『専ら』節税目的の場合も縁組意思も否定されないと述べる以上、今後は、先ほど述べた(2)『実際に養親子関係を形成する意思』は、かなり抽象的なものであっても許されるという考え方が実務上有力になるのではないでしょうか。


これまでの下級審裁判例では、養子縁組の動機が節税目的かどうかが争われた例もありました。しかし今後は、そのような争点自体が意味を持たなくなったと言えるでしょう」


●養子縁組は意外と多い

一般の人にとって、節税のために「養子縁組」をする発想はあまり持たないように思うが、相続の世界では良くあることなのだろうか。


「法務省の統計によると、ここ数年の間、安定して毎年8万件を超える養子縁組の届出が受理されています。


この数を多いと見るか、少ないと見るかについては、様々な考え方があると思いますが、実際に、相続に関するご相談をお受けしていると、養子縁組の話をお伺いすることは良くあります。


感覚的には、4回から5回のご相談のうち1回程度が、養子縁組をされている方や、そのご親族の方からのご相談ではないでしょうか」


●なぜ養子縁組は行われるのか

今回の裁判は、孫を養子としたケースだったが、一般的には、誰をどのような目的で養子とすることが多いのだろうか?


「日本では、赤の他人との間の養子縁組は比較的稀であると思います。何らかの形で、すでに親戚関係にある方々の間の養子縁組が圧倒的多数を占めています。


特に多いのが、次の3つの立場の方が養子になる場合です。


(1)お孫さん


お祖父さん、お祖母さんがお孫さんを養子にする場合です。養子になる方は、一族の跡取りとして目される方が多いと思われます。相続税との関係では、相続を一代飛ばすメリットがありますが、税制の改正により、現在ではその効果は薄れています。


(2)お嫁さん・お婿さん


世間では、お嫁さんが、お義父さん、お義母さんの身の回りの世話を一生懸命されることは良くあります。しかしながら、お嫁さん自身には相続人の資格はありません。ご主人に先立たれた場合や、相続税や遺留分などに目配りをする場合などに、養子縁組を行うときがあります。


(3)甥御さん・姪御さん


お子さんのいらっしゃらないご夫婦が、後継者としてご兄弟のお子さんを養子に迎える場合です。なお、養子になった方は、実の親御さんとの法律上の親子関係は継続するため、養親と実親の双方の相続人になります。


このように、養子縁組は、一般的に、様々な家庭のご事情や介護への期待などを背景として行われていることをご理解頂ければと思います。逆に、私はこれまで節税だけを目的とした養子縁組が行われたということを耳にしたことはありません。相続税を意識している場合も多いと思いますが、あくまで節税は目的の1つに留まることが一般的なのです」


加藤弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
加藤 尚憲(かとう・なおのり)弁護士
東京大学卒、弁護士・ニューヨーク州弁護士
弁護士ドットコム上で半年間に約500件の相続の質問に回答し、ベストアンサー率1位を獲得。「首都圏版 2016年▶2017年 みんなの弁護士207人」(南々社出版)相続部門 掲載
事務所はJR中央線・丸ノ内線荻窪駅北口から徒歩2分
相続総合情報サイト「わかる相続」:http://わかる相続.com/
「わかる相続」公式ブログ:http://wakarusouzoku.blogspot.jp/
事務所名:東京西法律事務所
事務所URL:http://tokyowest-law.jp/