職場に苦手な上司がいると、毎日とても気が重い。「キツイ」「怖い」「気が合わない」―そんな上司と向き合っていて、ストレスで身体がやられてしまうという人も多いだろう。「上司は優しく接しやすい人が良い」が部下の立場での一般の意見。しかし、後から振り返って考えれば、苦手だった上司の方が結果的に自分を成長させてくれていた、ということもあるようだ。
そんな話をしたのは1月26日の「5時に夢中!」(TOKYO MX)に出演した、新潮社出版部長の中瀬ゆかり。今の立場は完全に「人を育てる側」だが、最近つくづくその難しさを痛感しているのだとか。(文:みゆくらけん)
「嫌だな、怖いな、気が合わないと思っていた」
上司という立場が難しいのは、部下にとってのいわゆる"良い上司"がベストだとは限らないからだ。接しているリアルタイムでは「嫌い」「怖い」と感じさせていた上司の方が、後々になって部下にとっての重要なキーパーソンになることもある。
中瀬は自分のことを振り返る。入社当初、中瀬についた上司とは相性が最悪だった。事あるごとにキツく言われ、トイレで泣くこともしょっちゅう。入ったばかりの憧れの出版社で最初から人間関係での苦労。若き日の中瀬にとっては辛く苦しい日々だっただろう。
その後しばらくしてその上司が異動になった。新しい上司は親しみやすくも尊敬できる人。キツイ上司にずっと悩まされていた中瀬からすれば、どれほど安堵したことだろう。「私を育ててくれたのは可愛がってくれるこの優しい上司」―中瀬はずっとそう思っていたという。
ところが37歳で編集長になった中瀬は、ある日ふと思う。
「もしかしたら愛すべきあの上司というより、嫌だな、怖いな、気が合わないと思っていたあっちの上司がわたしのことを育ててくれたんじゃないか、と」
自分が上司になり「ついつい良い顔をしてしまう」けど
「あっちの上司」とは、最初についたよく泣かされた上司のこと。そう感じた理由を中瀬は「つまり、人が言わないような嫌なことを言ってくれていた。ある意味憎まれ役を買ってくれていたわけです。"嫌われる勇気"を率先してやってくれていた」と説明する。
「そういう意味では"皆から愛される上司"みたいな図ではなかったけど、それをやっていたあの人は凄かったんだと、10年以上たってからわかった」
時を経て、自分が上に立つ立場になってはじめて気づいた上司の愛情。当時はストレスばかり与えられていた気になっていたが、実はそうではなかったのだ。
嫌われる勇気を持つのは覚悟がいる。それを愛情だと捉えられぬまま終わる場合もあるだろう。同じことを自分が部下にできているかと考えると、「ついつい良い顔をしてしまう」と中瀬。「『嫌われてもいいや、こいつのためなら』と考えるような役目になったんだな、でも嫌わないでって思ってしまう」と上司としてのジレンマを吐露していた。
今現在苦手な上司でも、長い目で見れば自分を育ててくれた良い上司となっていることもある。そう考えたら、日々のストレスも少しはマシになる・・・かもしれない?(気休め?)
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