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ねごとが迎えた“新たな進化” バンド演奏とクラブミュージックが融合する意欲作を分析

2017年02月01日 19:03  リアルサウンド

リアルサウンド

ねごと

 デビュー5周年を迎えた2015年リリースの3rdアルバム『VISION』では、セルフ・プロデュースでこれまでの集大成とも言えるバンド・サウンドを作品に昇華したねごと。それだけに、2016年11月リリースの『アシンメトリ e.p.』は、バンドの新たな進化を伝えるような作品だった。何しろ、ここで彼女たちが鳴らしていたのは、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之をプロデューサーに迎えた、スケールの大きな4つ打ちと分厚いシンセを使ったエレクトロニックなウォールオブサウンド。テクノ/ハウス、ブレイクビーツなどを前面に押し出した音楽性やメンバーがクラブ・ミュージックの匿名性を思わせるシルエットで出演したMVも相まって、この変化は多くのファンに新鮮な驚きを持って迎えられた。だとするなら、通算4作目の最新作『ETERNALBEAT』は、4人がその方向性をさらに追究した作品になっている。


 まず、本作に至るまでの過程を理解するためには、彼女たちの最近のライブで顕著になっていた変化を知る必要があるんじゃないだろうか。というのも、2015年11月に行なわれたデビュー5周年のライブ企画『お口ポカーンフェス?! NEGOTO 5th Anniversary ~バク TO THE FUTURE~』以降の4人は、曲間をDJのように繋げてライブを構成することが増え、実際にメンバーはこの体験の中で「よりエレクトロニックな」「踊れるサウンド」への興味を持っていったそうだ。もちろん、インディ・ロックやドリーム・ポップにブレイクビーツの要素を取り入れた「カロン」を筆頭に、ねごとは初期からエレクトロニカやクラブ・ミュージックを含む幅広い音楽性のバンドだった。けれども本作ではこれまで以上にシンセの比重が増え、楽曲の構造がドラムを中心に据えたバンド・アンサンブルから、デジタル・ビートやシンセ・ベースを盛り込んだクラブ・ミュージック寄りのサウンドへと大きく変化。BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之、ROVOの益子樹がそれぞれ2曲をプロデュースした他はセルフ・プロデュースで制作が進められ、全編を通してバンドとクラブ・ミュージックとの境界線を飛び越えるような雰囲気がいっぱいに広がっている。


 また、タイトル曲や「アシンメトリ」といった序盤の4つ打ちの壮大なダンス・ビートから「mellow」や「君の夢」のようなベッドルーム・エレクトロニカ風ポップ、音数の多いビートと電子音が疾走感溢れるバンド・サウンドと混ざり合う「cross motion」、トイトロニカ~チップチューン風の電子音が弾ける「holy night」など、全編を通してサウンドデザインを支える沙田瑞紀を筆頭にしたメンバーのアレンジへの興味がより際立って感じられるのも本作の特徴だろう。4人全員のスキルの成熟も印象的で、澤村小夜子のドラムやシンセ・ベースを導入した藤咲佑のプレイ、「Ribbon」や「PLANET」を筆頭に随所で効果的に使われたギター・サウンドも楽曲にアクセントを追加。「凛夜」ではアコースティックなギターの音色に乗せて、最近はソロでのピアノ弾き語りも行なう蒼山幸子がいつも以上に表現力豊かに歌い上げる。「holy night」では沙田瑞紀がボーカルを担当するなど、メンバーの役割がより自由度の高いものに変化しているのも印象的だ。ちなみに、DISC 2には彼女による過去曲のセルフ・リミックスも収録されている。2013年リリースのシングル『シンクロマニカ』以降、シングルのc/wに収録されてきた音源に加え、今回新たに収録された「カロン」「黄昏のラプソディ」のRemix。沙田瑞紀のダンスミュージックに対するアプローチの幅の広さがうかがえる。今回の音はそれぞれのメンバーが積み重ねた「これまでの延長線上にあるサウンド」という方がしっくりとくる。


 何より本作の魅力と言えるのは、大々的に導入されたエレクトロ・サウンドが、あくまで浮遊しながら疾走するバンド・アンサンブルや伸びやかに広がるメロディといった、バンド本来の魅力を生かすために存在していること。スーパーカーにとっての『Futurama』~『HIGHVISION』やサカナクションにとっての『シンシロ』~『kikUUiki』と同じように、本作は4人の音楽をこれまでのホームだったライブハウスやフェスだけでなく、クラブやポップ・フィールドを筆頭にした新たな場所に連れていく作品なのではないだろうか。(文=杉山仁)