F1の新オーナーとなったリバティ・メディアが上層部の体制を変更、バーニー・エクレストンがCEOのポジションから退いた。約40年にわたってF1の商業面を取り仕切ってきた後についに実権を失ったエクレストンは、今後「ヒーロー」として記憶されるのか、それとも「悪党」として記憶されるのか。英AUTOSPORTの執筆人がそれぞれの考えを記した。
今回は第1弾として「悪役」派の意見を紹介し、追って「ヒーロー」編を掲載する。
■放送業界の変化に適応できず、F1の問題を悪化させた
グレン・フリーマン(英Autosport.com編集者)
エクレストンは1980年代にF1をメジャーな位置へと引き上げることに成功したが、その後、パドックの大勢の人々をリッチにできるようなビジネスモデルに適応しようとしなかった。そのためにF1が彼の支配から逃れようとする動きが加速していった。
長いエクレストン時代の中で、テレビのあり方は完全に変わってしまった。にもかかわらず彼のアプローチはほとんど変わることがなかった。
マーケットがホットな時にはテレビ会社から搾り取れるだけの金を搾り取るというのがマスタープランであり、チャンネル数が少ない時代には、F1は理にかなわない、膨大な放映時間を要求したものだ。
しかしチャンネル数が数え切れないほどに激増すると、F1は後退し始めた。というよりも、テレビの優先順位において本来の位置に戻ったというべきだろう。F1は莫大な金をもたらす契約を維持するために開催地を新たに開拓していかなければならず、多数のテレビ番組の中にグランプリがさらに埋もれていくという結果につながった。
短期的なアプローチのせいでF1が立ち遅れていった
将来、大きな利益をもたらす可能性があるものを犠牲にして、今の契約を最大限に利用するという短期的な考え方が、雪だるま式に問題を悪化させている。しかしエクレストンの年齢で方針を変えることは期待できない。
インターネットですべてをただで提供することが正しい解決法というわけではない。そうすればF1が抱える問題がすべて解決するという指摘が繰り返しなされているが、それはありえない。
ただ、いまやテレビマーケットにおいては他のスポーツがF1に先んじているのは確かだ。プレミアリーグはエクレストンの全世界的な権利モデルを採用したが、それによってサッカーは多くの国でF1より人気がある、とっつきやすいスポーツとなった。一方、アメリカのスポーツは有料のオンラインモデルを選び、そのシステムは勢いを増し始めている。
後者の方式には大きなリスクがあったが、すでに結果は出つつあり、先進的な考えを持つスポーツ団体は、従来のテレビ収入の減少に苦しまずに済んでいる。このエリアにおいて、F1は大きく遅れを取っている。
エクレストンの退陣は、遅れを取り戻すためのプロセスを加速する道へとつながるだろう。
■利益優先主義で伝統のグランプリを苦境に追い込む
ケビン・ターナー(英AUTOSPORT誌編集者)
モータースポーツの歴史の中で、エクレストンが重要な役割を果たした人物であることは間違いない。1990年代序盤までに限れば、彼がおよぼした影響は有益なものと評価すべきだろう。
彼はF1をプロフェッショナルなものに変え、テレビとの契約を通して、観客を激増させた。また、シド・ワトキンスなど偉大な人々と共にF1の安全性を高めることに尽力した。
しかしその後の活動によって、彼の伝説には傷がついてしまった。スポーツカーの世界では多くの人々が、エクレストンはF1に多くのマニュファクチャラーを参入させることをもくろみ、結果的に1992年の終わりでグループCに幕を引いた、首謀者のひとりであると考えている。
その後、彼はF1が本当に必要としているものよりも利益拡大を優先しようとしてきた。彼や当時FIA会長だったマックス・モズレーが取り組んできた、F1の商業権の売買によって、多くの問題が発生したし、その影響は今後も続いていくだろう。
彼は現代メディアのリサーチをしてファンがテレビ以外に関心を持っていることに目を向けることを好まず、そういった調査をF1にさせることも望まなかった。その結果、自分がこれまで成長させてきたシリーズの勢いが停滞することになったのだ。
歴史あるグランプリの排除はファンへの裏切り
サーキットの問題もある。政治的に問題を抱えた(しかしリッチな)国にグランプリ開催を許す契約を結ぶ一方で、エクレストンは伝統的な開催地、イコール、F1を愛する人々には非常に冷酷だった。
数百万ポンドもの開催料金がサーキットに課されるだけでもひどいことだが、契約に盛り込まれる条件は、政府や非常に裕福な企業からの支援がなければビジネスとしてほぼ成り立たないようなものなのだ。
サーキットはチケット販売からしか収入を得ることはできない。イギリスGPには多数の観客が訪れているというのに、シルバーストンは他の活動によって資金を補充しなければならない。そういう状況を考えれば、今のビジネスモデルが間違っていることが分かるだろう。その上、開催料金は年々5パーセントずつ上がっていくのだ。
そういったアプローチのせいで、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、ベルギーといったグランプリがカレンダーから脱落したり、脱落の危機にさらされている。エクレストンは、まるでこの世界に入った時に抱いていた情熱が失われていないかのように、グランプリを窮状から救うために手を差し伸べたこともあるといわれているが、それでも今の流れは止まらない。
だからこそ、バーニーが去ることに対するファンの反応は、「時間の問題だったよね」とか「せいせいした」といったものが多いのではないだろうか。もしも彼がもっと早く身を引いていれば、温かい反応で見送られたのだろうが。
※第2弾「ヒーロー」編は後日掲載いたします。