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ACE1が明かす、海外シーンで勝負する理由「世界的に活躍する日本人が生まれれば、状況も変わる」

2017年02月01日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

ACE1

 アヴィーチーやDJスネイク、アフロジャックなど、ダンスミュージック界のスターたちの楽曲を数多くリリースし、EDMを世界に広めたと言われるオランダのレーベル、〈SPININN’ Records〉。同レーベルが主催する全世界を対象とした新人登竜門システム「TalentPool」で昨年9月、DJ ACEことACE1がアップした「Empire」がランキング1位を獲得という日本人初の快挙を成し遂げた。その「Empire」が2月3日にいよいよ日本でも配信リリース。DJ兼プロデューサーとしてクラブのフロアを揺らすだけでなく、デザイナー兼ディレクターを務めたファッションブランドでは一世を風靡し、さらにはモデルとしての顔も持つACE1。マルチな才能を持つ彼は一体どんな男なのか。これまでの歩みを振り返りつつ、将来への展望を語ってもらった。(猪又孝)


・「Empire」の配信をターニングポイントにしたい


ーー2007年から渋谷・ATOM TOKYOの人気イベント『TRANCE RAVE』でゲストDJを始めたそうですが、それが本格的なDJキャリアのスタートになるんですか?


ACE1:そのちょっと前ですね。DJを始めたのは2002~3年頃で、最初は仲間とオーガナイズしたイベントで始めたんです。その後、地元の横浜辺りのクラブから少しずつオファーを頂いてやりだして。それが2006年くらいです。


ーーその頃プレイしていたジャンルは?


ACE1:メインはサイケデリックトランスです。DJを始めた頃はジャーマントランスとかエピックトランスだったんですけど、仕事をもらえるようになってからはサイケデリックトランスの方が多くて。それは時代の流れもあったと思うんですけど。


ーー同時期に「TopRebeL」というブランドを立ち上げますが、その経緯を教えてください。


ACE1:もともとATOMで始めたのは、横浜のセレクトショップが主催したイベントに僕がDJで入ったことがきっかけなんです。そのイベントをいちばん成功させたDJがビクターからミックスCDを出せることになっていて、僕が運良く1位になれて出せることになった。その流れでATOMに呼ばれるようになったんです。同じ頃、そのセレクトショップからひとりが独立してまた新しいセレクトショップのサイトを立ち上げることになり、僕もファッションブランドがやりたかったんで、一緒に始めることにしたんです。そこで1年もしない内に立ち上げたブランドがTopRebeLなんです。


ーーその後、2009年創刊の雑誌『SOUL Japan』でモデルも始めますよね。


ACE1:TopRebeLを立ち上げたとき“悪羅悪羅(オラオラ)系”という言葉をつけて売り出したんです。そしたらそれが当たって、いろんな雑誌から誌面で扱いたいとオファーを頂いて、その中で『SOUL Japan』という雑誌を創刊したいからという話をもらって、一緒にやっていくことになったんです。だから、僕はモデルというより、その洋服を作ってるクリエイターとして出てたんですよね。


ーーじゃあ、悪羅悪羅系という言葉を考えたのはACE1さんなんですか?


ACE1:厳密には違いますね。もともとオラオラ系という言葉が世の中にあったんです。それを売れる言葉にしたのは、自分で言うのもなんですけど、僕らだと思います。当時はアンダーグラウンドのサイケシーンにそういうオラオラ系のニュアンスがあったんですよ。だから、これは売れると思ってブランドもオラオラ系で売り出したし、ビクターから出した最初に出した『サイケデリック・レイヴ (#4) ~ゲーム~』(07年)というミックスCDもオラオラ系ミュージックと打ち出してリリースしたんです。そしたらそっちも反応が良くてっていう。


ーー「悪羅悪羅」という漢字を当てたのは?


ACE1:最初にビクターからCDを出したとき、確か『men's egg』かなんかの裏表紙に広告を出したんです。それを見た編集長が面白いということで連絡をもらい、のちに『SOUL Japan』で一緒にやることになり。そのときに『men's egg』の人間と一緒に考えたのが「悪羅悪羅」という漢字なんです。


ーー去年、そのTopRebeLのディレクター兼デザイナーを退任し、新ブランド「STRAITE」を立ち上げました。これはどんなブランドなんですか?


ACE1:デザイナーやディレクターがロサンゼルスとニューヨークにもいて、東京には僕がいるので、海外色がより強くなった感じです。LA、NY、東京のカルチャーを採り入れたストリートブランドという打ち出しで、着て欲しいのは10代後半から30代前半の男性。黒や白をベースにしていて、男らしさやワルっぽさをイメージしてます。


ーーDJを本格的に始めて約10年になりますが、その間のターニングポイントを3つ挙げてみてください。


ACE1:まずはATOMでDJを始めたことがひとつ。ちゃんとした始まりという意味でターニングポイントだと思います。2つ目は2011年に、これもビクターなんですけど、Infected Mushroomと一緒にアルバムを作れたこと。サイケデリックトランス界でNo.1のアーティストだと思ってるInfected MushroomとWネームでやれたことは嬉しかったし、その作品の中でZeebraさんがやってるカイキゲッショクのリミックスもやらせてもらえて面白いことができたので、キャリアの中では特筆するべき出来事だと思ってます。


ーー3つ目は?


ACE1:今ですね。去年、「Empire」で〈SPINNIN’ Records〉の「TalentPool」で1位を獲れたこともそうだし、それを機に新しい契約が決まるかもしれないんです。それが決まれば相当大きいので、それをターニングポイントにしたいっていう感じですね。


ーー「TalentPool」は自主投稿型のソーシャルネットワークを利用したランキングシステムですが、そもそもなぜ投稿しようと思ったんですか?


ACE1:もともとはシングルを3カ月連続で出す計画だったんです。去年5月にブラジルのレーベルから「Electronic」を出し、6月にニューヨークのレーベルから「Get Underway」出した。あと、もう一曲が「Empire」なんですけど、南米、アメリカと来たんで次はヨーロッパのレーベルから出したかったんです。で、いろんなレーベルと交渉してたんですけど、なかなか契約がうまくまとまらず。だったら〈SPINNIN’ Records〉もヨーロッパにあるんで、ここにトライしてみて上手くいけば、〈SPINNIN’ Records〉と話ができるかなと思って参加したんです。


ーーそしたら見事1位を獲得できた。


ACE1:運良く獲れたんで嬉しかったです。実は「Empire」はサイトにアップした時点で、完成から一年くらい経ってたんです。曲って内容もそうですけど、発売するタイミングもすごく重要だと思ってるんですね。だから、ちょっと遅くなっちゃったなと思ってたんです。


ーートレンドに乗り遅れてるんじゃないかと思ってた。


ACE1:世界的なトレンドを見れば、っていう感じなんですけど、乗り遅れているというよりは、僕的にもう少し早く世に出したかったってことでしょうね。でも、1位を獲れたっていうことは、それだけ全世界の方が投票してくれたっていうことだから、ちょっと安心しましたね。


ーー1位を獲れて自信にもなりましたか?


ACE1:自信には間違いなくなりました。ただ、当初は〈SPINNIN’ Records〉からのリリースをめざしていたので。1位を獲ったとはいえ、結果リリースできていないので、それが現実なんだなと受けとめて学ぶことも多かったです。「1位だ。やったぜ」って両手放しで喜べるものではなかったですね。


・J-POPのシーンをどうやってまくれるか


ーーところで、ひとくちに「DJ」と言っても、クラブプレイを主軸にしているDJもいれば、トラックメイク/プロデューサーを行うクリエイター型のDJもいれば、フェスなどの表舞台に出ていってパフォーマンスするアーティスト型のDJもいます。ACE1さんはどのタイプをめざしているんですか?


ACE1:僕はDJとアーティストに境目はないと思ってるんです。DJとアーティストの中間があってもいいし、「MCばっかりでほとんどDJしてないじゃん」っていうヤツがいても、それで活動が成り立っていればいいと思う。もうDJとかアーティストっていう括りじゃなくて、ひとつのエンタテインメントだと思っているので。自分のフィルターを通して何かを表現できていて、それがエンタテインメントとして成立しているかどうか。それでお客さんが喜んでいるか、そこに需要があるかどうかっていうことだけだと思ってるんです。


ーーなるほど。


ACE1:しかも、音楽は時代と共にどんどんジャンルレス/ボーダーレスになっているし、時代の流れや求められるものもどんどん変化が早くなってる。その変化に応じて、何が求められていて何が必要なのかっていうことを常に模索して、いい意味で自分を変化させていかなきゃならない。だから僕は、そういう肩書きにはあまりこだわってないですね。ただ、基本的にはものづくりが好きだし、DJというカテゴライズよりはアーティストでありたいと思ってます。オリジナル曲をつくってるのはそういう思いもあるからだし、今後はそっちの色をますます強くしていきたいと思っています。


ーーでは、ACE1さんの作品づくりにおけるこだわりは?


ACE1:今回の「Empire」はヨーロッパの音を意識したし、基本的に自分でつくるものは海外を意識してます。あと、世界を視野に入れてるとリリースするタイミングも大事かなと。特に海外のしっかりしてるレーベルは遅れてる曲は出さないと思いますし。そのトレンドが世界なのか、イビザなのか、日本なのかで全然違うと思うんですけど、僕はイビザがいちばん先端だと思ってるんですね。でもイビザの感覚でガンガンやっちゃうと早過ぎるんじゃないかと。なので、僕はなるべく世界のトレンドとジャストなタイミングでつくりたいと思ってます。


ーー一方、DJとしてのこだわりは?


ACE1:こだわりということでもないけれど、J-POPはかけないですね。日本と海外ではプレイの内容も変えるんですけど、基本的には海外志向なプレイだと思います。


ーーJ-POPというのは日本のクリエイターがつくる音という意味ですか?


ACE1:そうじゃなくて、いわゆるオリコンチャートにランクインされるような日本語の歌詞のポップスです。そういう日本語の歌詞がのってくるものが今の自分のセットに入ってこない。オリエンタルという意味で日本っぽい音を出すのはいいと思うんですけど、J-POPをかけるっていうのは、自分の向かうスタイルを考えるとまたちょっと違うかなと。


ーーもともと海外志向が強かったんですか?


ACE1:若い頃はそこまで考えてなかったです。でも、徐々に徐々にっていう感じで。日本の音楽シーンではやっぱりJ-POPがいちばん強いと思うんですけど、どうやってそういう人たちをまくれるかって考えたんです。そのときに同じ日本で活動していたら頑張っても並ぶことしかできないなって。たとえばサッカーで「ワールドカップに出ました。日本代表です」となれば、もうタレントさんとかミュージシャン以上の存在だと思うんです。


ーー同じケイスケでも、桑田佳祐より本田圭佑の方がワールドワイドだろうと。


ACE1:ワールドワイドというか、もうDJとかミュージシャンとか、そういうところを超越した存在になってくる。もう文化人の領域になってくるっていうか。その位の格、レベルをめざすとなると世界だなと思ったんです。


・ジャストなものが通用しないのが日本


ーーACE1さんはアメリカや韓国でもDJプレイを経験していますが、海外と日本のクラブ事情にどんな差を感じていますか?


ACE1:日本は知ってる曲を聴くと盛り上がる、みたいなお客さんが多いような気がします。海外の人は知らない曲でも踊る感覚がある。あとは海外DJからすると日本でやっても価値がないと思われてるような気がするというか。自分のプロモーションにならないと思われてるような気がするんです。要はダンスミュージック後進国だと思われてるんですよね、世界から見ると。アジアで見ても韓国に持っていかれてる感じだと思いますし。それって残念だなと思うんですが、やっと風営法も変わって、2020年には東京オリンピックもある。それに向けて世界的に活躍できる日本人が生まれれば、状況も変わってくるのかなと思いますし、僕もそこをめざしたいなと思ってます。


ーー先程、日本と海外ではプレイの内容を変えると仰いましたが、どのような違いがあるんですか?


ACE1:選曲もMCの内容も変えます。海外だとMCを英語でやりますが、日本語でそれをやるとイメージが全然違うものになっちゃうので、MCがいちばん難しいですね。選曲は、日本はさっき言ったように知ってる曲を求める傾向が強いんで、ヒット曲を多めにかけます。海外だと、みんな知ってて大合唱できます、みたいな派手な曲をかけなきゃならない空気にならないし、今流行ってるジャストなものが通用する。ジャストなものが通用しないのが日本だと思うんで、たとえばダブステップだ、トラップだ、となっても日本のお客さんはなかなか付いてこれない。でも海外だったらそんなことはないし、むしろそれでテンションが上がるんですよね。


ーー今は、どの辺のジャンルをかけることが多いですか?


ACE1:基本はビッグルームとか、いわゆるEDMを中心にしてますけど、最近はいろんなジャンルをかけます。ロービートもかけるし、ときにはダブステ、トラップに入って、たまにハードスタイルをかけたりとか。今は日本でもロービートは必ず入れますね。


ーー最後に、今後の目標を教えてください。


ACE1:まずは今年、海外との契約を決めて、本格的に進出すること。拠点を海外に移そうと思ってるくらいなので、目先の目標としてはそれを実現させて、継続していくことですね。


ーー海外というのは具体的に?


ACE1:DJプレイに関してはアムステルダムとイビザです。もともと語学の勉強も兼ねてアメリカには行こうと思っていたので、契約に時間がかかりそうだったらヨーロッパに渡る前にロサンゼルスに拠点を移そうかと。うまく話がまとまれば、やれることが本当に広がるので、ぜひ実現させたいと思っています。あと単独名義のアルバムもつくれるよう頑張りたいですね。


ーー最後にもうひとつ。DJ ACEとACE1、2つの名義を持っていますが、その使い分けを教えてください。


ACE1:DJ ACEはトランスやサイケのDJをするときとモデルをやるときに使っていて、ACE1はアーティストとかEDM系のDJをするときに使ってます。DJ ACEは良くも悪くも悪羅悪羅系のイメージが残っていて、渋谷っぽいというか、ちょっとチャラい印象があって(笑)。なので、今後はACE1寄りにしていきたいと思ってます。というか、DJ ACEじゃ世界に出ることができないんですよ、同じ名前のヤツが多すぎて(笑)。


(取材・文=猪又孝)