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『ラブホの上野さん』の恋愛テクは真似ると危険!? “ダブルバインド”の有用性を考える

2017年02月01日 06:03  リアルサウンド

リアルサウンド

『ラブホの上野さん』(C)博士・上野/KADOKAWA・フジテレビジョン

 フジテレビ系列で水曜深夜に放送されているドラマ『ラブホの上野さん』。なかなかインパクトの強いタイトル通り、ラブホテル“五反田キングダム”を舞台に、そこに勤めるサディスティックな年齢不詳の店長“上野さん”が、モテない新人アルバイトの大学生・一条に心理テクニックを用いた恋愛指南(端的に言えば、いかにして女性をラブホテルに誘うか)をしていくドラマなのである。


参考:本郷奏多、“見下し系”男子役で人気急上昇! 2.5次元俳優として重宝される理由は?


 本作の基になっているのは、2014年ごろにツイッター上に登場した“上野 ラブホスタッフ”というアカウントだ。都内のラブホテルに勤めているという“上野さん”が、知っていそうで知らないラブホテルの裏事情や小話から、恋愛に関するアドバイスまで、ユーモラスに伝えるそのアカウントは大きな人気を博し、現在ではフォロワー数が22万人を超えている。


 そのアカウントに端を発し、アカウントの登場から半年ほどで『月刊コミックフラッパー』において漫画版『ラブホの上野さん』が連載開始。1話完結の物語の中で、上野さんが街で見かけた男性たちに様々なテクニックを紹介していくのである。そして必ず最後にはさりげなく、「成功の際は当ホテル、五反田キングダムをご利用ください」という決めゼリフとともに、ホテルのカードを渡すのだ。もはや恋愛テクニックよりも巧みな営業テクニックに目が行ってしまう。


 この上野さんという特徴的なキャラクターを、ドラマでは本郷奏多が演じる。改めて見てみると、漫画の上野さんのルックスは、本郷によく似ている。年齢不詳で清潔感があり、育ちが良さそうでいて、頭も切れる。それだけではなく、サービス業に従事する者として必要な、おもてなし感溢れる“執事”のような振る舞いも実に様になっている。


 一方で上野さんとは対照的な一条の役には、2009年のジュノンスーパーボーイコンテストで審査員特別賞に輝いた柾木玲弥が配役されている。昨年の映画『ライチ☆光クラブ』での眼帯をつけたダフ役を始め、いわゆるイケメン俳優の枠に収まらない踏み込んだ役柄を演じてきたことが多いだけあって、空気が読めない愚鈍な男子大学生像も妙にハマっているのが面白い。


 そして何と言っても、劇中に登場するテクニックの数々は、とくに男性視聴者にとっては必見である。何故必見なのかは後述するとして、漫画と同様にドラマでも第1話で取り上げられた“ダブルバインド”というテクニックをもう一度振り返ってみよう。


 「如何にして女性をラブホテルに誘導するか」という、実にシンプルな命題のもとに、段階的に相手の反応を確認していく。手を繋ぎ、その手を強く握って合図を送る。そして最後の決め手となるのが“ダブルバインド”を使った誘導方法だ。「行く」か「行かないか」というYes/Noクエスチョンではなく、あらかじめ“行く”ことを前提とした、二択の質問を投げかけることで、どちらを答えても“Yes”になるが、その二つしか選択肢が無いように心理的に拘束(バインド)するという、実に荒っぽい方法である。


 もっとも、この“ダブルバインド”自体は、自分の望む方向に人を誘導するための方法として、最も簡単で成功率の高いやりかたである。とはいえ、劇中では「あっちの汚いホテルと綺麗なホテルどっちがいい?」という、とても極端な例のため、実践するのであればもっと選択肢を考えてみるほうがいいだろう。というのも、前述した通りこのドラマが“男性必見”である理由は、劇中で登場した方法論をそのまま実践しないほうがいいという、実に当たり前のことなのである。


 第1話のラストで、上野さんから教えてもらったダブルバインドを一条が実践すると、それを教わっていた先輩からも同じ問いをされた相手女性が、「それってマニュアル?」と怪訝な表情を浮かべて失敗するという流れが登場する。このように、登場するテクニックがあまりにもシンプルなだけに、このドラマを見ていなくとも、「これは『ラブホの上野さん』でやったやつだ」と思われてしまいかねない。それどころか、みんなが同じ誘い方をしていたら、あまりにも格好が悪いではないか。


 ある意味で反面教師として、このドラマで登場したテクニックを徹底的に排除した別の方法を考えて、取り入れていくのがいいだろう。もちろん、大きく取り上げられるテクニック以外にも、ちょっとした会話のきっかけを見つけることや、相手に好印象を持たせるための優れた技が登場する。参考にするならば、こういった細かい点だろうか。もっとも、劇中の一条のように、それほど単純な男がどのくらいいるのかはわからないけれども。


■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。