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福山雅治がニューオーリンズでセッション! ジャズから学んだ“即興性”をどう生かす?

2017年01月31日 16:13  リアルサウンド

リアルサウンド

福山雅治『福の音』

  シンガーソングライターとして自身の楽曲を世に送るだけでなく、様々なアーティストにヒット曲を提供・プロデュースしてきた福山雅治。2015年にデビュー25周年を迎えた彼が、NHKとタッグを組んだ特別番組『SONGSスペシャル「福山雅治 SONGLINE ~歌い継ぐ者たち」』(NHK総合)は、福山が「人類にとって音楽とは何なのか」を、世界各国に残る音楽のルーツに触れながら、音楽の誕生の謎に迫るドキュメンタリー番組である。1月30日に放送された「第3回 アメリカ ニューオーリンズジャズの魂 聖者の行進」では、アメリカで初めてジャズの音源が誕生してからちょうど100年という節目に、福山がアメリカ・ニューオーリンズを訪ね、ジャズの歴史を追いながら、現地の人々とのセッションを交わし、音楽の真髄に迫った。


(参考:EXILEと福山雅治のチャートアクションに見る、「一族」と「ソロ」の方向性の違いとは?


 番組では福山が、ニューオーリンズで生まれたジャズ誕生の謎に迫るため、クラリネット奏者であり、ニューオーリンズジャズの第一人者であるマイケル・ホワイト教授を尋ねていた。そこで福山は、ジャズという音楽の特徴である“即興性”について「一つ一つの音にニュアンスが付けられているのがよくわかります。その人自身の特徴を表現するのに即興性が求められるということなんでしょうか」と質問。するとマイケル教授は、ジャズが誕生した当時にアメリカで起きていた深刻な人種差別問題に触れ、ジャズによって黒人はその逆境を乗り越え、知性や感情を自由に表現できるようになったことが“即興性”に現れていると解説した。そのあとに福山は、1928年にルイ・アームストロングが録音したニューオーリンズジャズの代表曲「ベイズン・ストリート・ブルース」をマイケル教授とセッション。コール&レスポンス形式でお互いのソロを奏でながら、福山のビブラートをかけたり、音を震わせたりと、いろんな即興を試してみようとする様子からは、ジャズに強く関心を抱いていることが感じられた。


 ニューオーリンズは、2005年にハリケーン・カトリーナの襲来が起こり、多大な被害を受けている。ジャズの大切な歴史も失われ、福山はマイケル教授に1900年代初期のビンテージのクラリネットを紹介されると、水害により錆びて傷んだ楽器の状態に言葉を失っていた。ジャズの文化遺産を失った悲しみを聞いた福山は「自分が大事にしている楽器が水没してしまったら……僕自身の楽器を想像しただけでも恐ろしい。涙が出そうになる」と、一人の音楽家として、楽器に対する熱い思いがこみ上げている様子だった。


 日本では明るく陽気な歌として知られている楽曲「聖者の行進」は、元々、奴隷時代からの黒人霊歌として歌われていたもの。1920年代に多くのコーラスグループが歌って注目が集まり、ニューオーリンズが生んだ“ジャズの神様”と呼ばれているルイ・アームストロング、通称サッチモがジャズにアレンジして全国に広めた。そしてこの曲は、ハリケーンの災害から、やっと街に戻れた人々が最初に演奏した、ニューオーリンズが再び歩き始めるきっかけとなった曲でもある。総勢50名のトレメブラスバンドに囲まれながら披露したセッションで福山は、ソロパートで再び即興を披露。「初めて本物のニューオーリンズジャズという音楽に触れて、そしてグルーヴに触れてこの瞬間を楽しまなきゃって興奮して演奏できました」と述べていたように、ジャズを心から楽しもうという思いや、数々の悲しみを乗り越えてきた音楽からパワーをもらっているような福山の表情が印象的だった。


 今回、福山が、“即興”によって感情を自由にのびのびと表現することができるジャズに触れたことは、これから彼が生み出していく音楽にも影響を与えるだろうか。悲しみを希望へと変える音楽の力を改めて感じた彼が、今後、私たちに届けてくれる新たな音楽を楽しみに待ちたい。


(大和田茉椰)