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「ドヤ街」で高齢者増加、背景に生活保護行政 稲葉剛氏が対応批判

2017年01月31日 10:33  弁護士ドットコム

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日雇い労働者が集まる「ドヤ街」の風景が変わりつつある。働き盛りの世代が減り、高齢者の姿が目立っているのだそうだ。背景には一体何があるのか。住宅問題などを中心に、生活困窮者支援に取り組んでいる稲葉剛氏(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事)が1月24日、東京都内で講演した。


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●ドヤ街と生活保護

2015年5月、川崎市の簡易宿泊所(ドヤ)で11人が死亡する火災が発生した。燃えた2施設に住んでいた74名のうち70名が生活保護の受給者、その多くが高齢者だったという。


ドヤは簡易宿泊所の「宿」を逆さから読んだもので、かつては多くの日雇い労働者が宿泊していた。それなのに今なぜ、福祉施設ではないドヤに高齢者が暮らしているのか。稲葉氏によると、その理由は行政の生活保護の運用方法にあるという。


生活保護法には、「生活扶助は、被保護者の居宅において行うものとする」(30条)という規定がある。つまり、ホームレスなど住む家がない生活困窮者の場合、生活保護の申請後に居所を定める必要がある。


ところが、稲葉氏によると、特に首都圏の自治体からはアパートなどではなく、「ドヤ」や「無料低額宿泊所」を勧められる傾向があるそうだ。自治体が転居一時金(初期費用)の負担を嫌ったり、孤独死などのリスクから大家が入居を認めなかったりすることが理由だという。


●「ドヤ」と「無料低額宿泊所」の違い

無料低額宿泊所とは、社会福祉法に規定された生計困難者向けの宿泊施設で、食事込みのものもある。「無料低額」とあるが、実際には月10万円前後の利用料が必要。中には、入居者から生活保護費を搾取する「貧困ビジネス」に手を染めている場合もある。


一方、ドヤは旅館業法で規定されている。食事が出ず、保護費を自由に扱える利点がある。また、無料低額宿泊所が基本相部屋・大部屋であるのに比べ、ドヤは狭いながらも個室であることが多い。こうしたことから、利用者は宿泊所よりドヤを選ぶ傾向にあるという。


「ドヤ街では日雇いの仕事が減っているので、生活保護を受給している単身高齢者を受け入れ、事実上、施設化している」(稲葉氏)


実際、厚労省が公表している、2016年10月分の調査によると、生活保護を受給している単身高齢者世帯は75万8377世帯あり、全体の46.6%を占める。10年前の2006年は、2人以上の世帯を合わせても47万3838世帯だから、約30万世帯増えている。


●ガイドライン上は「一時的」のはずが「終の住処」に

無料低額宿泊所の入所期間について、東京都はガイドラインで原則1年、千葉県は原則3カ月と定めている。しかし、毎日新聞が調査したところ、1年以上の入所者の割合は都管轄施設で約5割、千葉県管轄施設で7割超だったという(2016年12月30日付)。


稲葉氏は、本来は一時的な居所に過ぎないはずなのに、ドヤや無料低額宿泊所での生活が長期化し、「終の住処」になっていると指摘する。また、高齢者だけでなく、「脱法ハウス」など、若者の住環境も悪化しているという。


稲葉氏は「『まずは施設』の考え方から、住まいを確保する『ハウジングファースト』の考え方に変えていかなくてはならない。空き家の活用や保証人がいない人に公的な保障システムをつくるなどの対策を取る必要がある」と提言していた。


(弁護士ドットコムニュース)