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アイドルを殺しているのは、アイドル自身ーー姫乃たま、BiS誕生&SiS消滅ドキュメンタリーを観る

2017年01月31日 10:23  リアルサウンド

リアルサウンド

SPACE SHOWER FILMS

 デスソースをかけられた料理が食べきれなくて、「食べるのを諦めてしまって……」と、後悔して号泣する女の子。そんな女の子がナチュラルに存在する世界。彼女を笑う人も、おかしいと思う人もいなくて、むしろその通りだと肯定する空気すら流れています。


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 アイドルグループBiSの、再結成メンバーオーディション合宿を記録した『劇場版 BiS 誕生の詩(仮)』と、オーディションで落選した女の子達が集められて結成されたSiSが、スピード解散した裏側を追ったドキュメンタリー映画『WHO KiLLED IDOL? SiS消滅の詩』が同時公開されました。上記はオーディション合宿での一幕です。


 BiSは、地下アイドルがアキバ系文化の延長にあった頃から、スクール水着で客席にダイブするなど、過激なパフォーマンスで世間の注目を集めたアイドルグループです。特典会としてケツバット会やハグ会を開催したり、24時間100キロマラソンをしたりと、週刊誌で揶揄されているような「サービスやパフォーマンスが過激化するアイドル」とも違う、斜め上の過酷さを持っています。


 2014年の解散から2年が経ち、BiSを再結成するためにオーディションがひらかれました。最終工程の合宿には、映画監督達とニコニコ生放送が密着します。彼女達は就寝時も含め、朝から晩までカメラを回され、ニコニコ生放送の視聴者から点数をつけられるのです。


 食事にデスソースを混ぜられて反応を見られたり、3日間断食したままマラソンをしたり。プロデューサーと衝突してトイレから出てこられなくなる子、ストレスで声が出なくなる子。「治るよ」と笑って励ます大人達。常に誰かが泣いている環境下に、「こっちの世界の涙って、そこまで清くないね」と喫煙所で真理をつくビーバップみのる監督。マラソンやダンスレッスンで体力的に追い込まれながら、面白さや精神などの人間力が試されている女の子達を横目に、監督陣は映画を成立させるための計画を練っていました。


 前作の『劇場版BiSキャノンボール2014』では、警戒心を抱くメンバーに対して、AV監督達が素直に遠慮していた印象があります。警戒も遠慮も、正常な反応で、AV監督としての任務を徹底的に遂行していたビーバップみのる監督だけが目立っていました。しかし、今回オーディションを受けに来た女の子達は、そうしたBiSの映画や活動を把握したうえで覚悟を決めて来た子達です。前作の正常な世界とは異なる、異常な環境を作り上げて、自ら身を投じています。前作で映画的に面白かったのは、正常な世界の中で異質だったビーバップみのる監督でした。改めて、エンタメの世界が異常であったことを思い出します。


 ストレスで声の出なくなった子が、最終日の自己アピールで、「忘れないでね……私のこと」と、泣きながら声を振り絞っていました。


 BiSに加入したい女の子は、何を考えているのでしょう。劇中のインタビューで彼女達は、「ずっと生活が物足りなかった」「普通じゃ嫌だった」「面白いことの渦中にいたい」と話しています。


 しかし、追い詰められた状況下の彼女達は、プロデューサーの渡辺淳之介さんに認められたいということを、しばしば口にしていました。合格への近道になるからかもしれませんが、それにしても渡辺さんは魅力的な人物で、SiSが解散する原因も、スタッフの男性が「渡辺さんに嫌われたくなかったから」という理由で、過去の不祥事をひた隠しにしていたことから起きてしまったほどです。


 私はアイドルのライブ会場で女性専用席を見ると、女性が優遇されているのか、男性同士が心置きなく盛り上がるためなのか、わからなくなることがあります。このふたつの映画を観ていると、同じような気持ちになります。しかし、そうした男子校的な世界への憧れや、過酷な状況下で目標に向けて追い詰められたい欲望は、わかる気がします。多分。


 撮影に行き詰まった監督が、公園で外飲みしているお姉さん達に、「アイドルになりたい子ってどんなイメージ?」と聞いていました。ひとりはすぐに「変態!」と叫び、片方は「アイドルになれる容姿があるなら、一般人でいたほうが可能性が広がっている」と話していました。正論だと思います。アイドルを殺しているのは、アイドル自身でしょう。


 両方の作品を見て、一番強く思ったのは、とにかく焼き肉が食べたいなあということです。どんなに辛いことがあっても、どんなに納得いかないことがあっても、どんなに格好悪くても、いつかお腹は空くし、お腹がいっぱいになれば、またみんなで笑うこともあって、人生ってなんかそんなものですよね。


 でも、みんな焼き肉食べ過ぎ!(姫乃たま)