ブラック企業のトップは悪人ではない――。1月下旬、あるツイッターユーザーからのそんなつぶやきが話題になっていた。
「ブラック企業の偉い人は『やりがい搾取で金儲けじゃグフフ』なんて考えてなくて、本当によかれと思って『やりがい』を与えているし、儲けた金は『社会に貢献している』と思っているんですよ。悪人じゃないんです。狂ってるんです」
つまり、悪い人ではなく正しいことをしていると信じている狂人だという指摘だ。これは自覚がある悪人より一層タチが悪い。(文:okei)
電通・石井前社長も、鬼十則に「疑問を持ったことはなかった」
リプライには「確かにそうだなと共感持てました」、など多くの共感が寄せられ、6000近くリツイートされた。トゥギャッターにもまとめられており、こんなが指摘がある。
「搾取の構造を作り出す側はいつも無自覚」「自覚がないのが一番たち悪いって言うよね」
「地獄への道は善意で舗装されている…本気ならちょっと立場を入れ替えてくれませんか?」
「『自分の正義』を信じて決して曲げない人たちなので、非常にやっかいな人種なのです」
確かに、昨年ブラック企業大賞2016を受賞した電通の前社長・石井直氏は、2016年12月の引責辞任発表の記者会見で、「鬼十則に疑問を持ったことはあるのか」との質問にこう答えている。
「この件があるまではない。外部の意見を聞いて、問題があったと認識した」
「鬼十則」は電通の社訓。「取組んだら放すな!殺されても放すな!目的を完遂するまでは」など、厳しい自己啓発を強いる内容で世間をドン引きさせたことは記憶に新しい。しかし、すべては会社のため、引いては社員のためによかれと奨励してきた心得のはずだ。
また、ツイートには「ワタミの渡邉元社長がこの類の善人なのよね……」など、いまだにブラック企業トップのイメージが根強いワタミの前会長・渡邉美樹氏の名前も挙がった。
人が最も残酷になるとき、それは、正義は我に在りと確信したとき
さらに極端な例として「100%理想主義的な人は恐ろしいよ。レーニン然りポルポト然り」「ヒットラーさんとかもね、性格は真面目で潔癖だったんだっけね」などの指摘もあった。いずれも、自らの理想を掲げつつ大量殺人に手を染めたとして近代史上悪名高い人物だ。こんなコメントが的を射ている。
「得てしてそういうもの。人が最も残酷になる時。それは、正義は我に在りと確信した時」
これを読んで筆者が思い出したのは、司馬遼太郎が「歴史と視点―私の雑記帖」(新潮社)で語ったこんな回想だ。太平洋戦争当時、召集され戦車隊に入隊した司馬は、本土決戦に挑む作戦説明のとき、信じられない言葉を大本営の説明者から聞くことになる。
都市の大人口が一斉に大八車に家財道具を積んで避難する中、戦車はそれに対向する形で突き進む。司馬がその場合の交通整理をどうするのかという疑問を投げかけたところ、こんなことを言われたという。
「『ひっ殺していけ』と、いった。同じ国民をである。(中略)戦争遂行という至上目的もしくは至高思想が前面に出てくると、むしろ日本人を殺すということが論理的に正しくなるのである」
この説明者も、戦時中でなければ、当時は狂っていたのだ。いまは、そうした考え方や「ブラック企業は悪い」と堂々と指摘できるようになったことが、まだ幸いかもしれない。
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