リクルートを皮切りにさまざまな経営者のかたわらで意思決定を支援し、経営者の選抜に関わってきた秋山進氏の著書。書名の『社長が"将来"役員にしたい人』をひとことで言い表せば、まえがきにある「荒削りだけど将来性のある人」ということになる。
その逆の、幹部候補生としては物足りない「まとまった優等生」の問題点について、秋山氏はある社長の苦言を借りてこう列挙している。
「野心的なビジネスの提案をする者が一人もいなかった」
「視点が凡庸で、どこかの経済誌に書いてあることばかりだ」
「自分なりのモノの見方を持つものがいない」
「若いのにエネルギーの発散量が少ない」
「気の利いた話で小さく加点をしようとする魂胆が見え見えだ」
「視野が広そうでも実は残念な人」ではダメ
本書は「荒削りだけど将来性のある人」を目指すためにどのような点に気をつければよいか、「まとまった優等生」では何が足りないかを整理した本だ。
できる人になるために必要な要素として「ものの見方」「ものの考え方」「仕事習慣」「コミュニケーション」「心の持ち方」という5つの柱を立て、具体策を5つずつ計25個のポイントをまとめている。
たとえば、幹部候補に求められる「ものの見方」において重要とされる「視野の拡大」について、秋山氏は「視野が広そうでも実は残念な人」として、世間のことをよく勉強しているが、自分の仕事とつながらない人をあげる。
「今ならAI(人工知能)、IoT、少し前ならピケティなど、『世間の関心の高い情報をそつなく獲得し、一通りは話せる人』です。こういう人の知識は、世間話をするにはいいのですが、表面的で、仕事と結びつく形で整理統合されていないため、独自性がなく面白みがありません」
巷では、できるビジネスパーソンは新聞や雑誌に目を通し、アンテナを高くしているべきだと言われるが、単なる世間話のネタでは意味がないと厳しく断じられている。
秋山氏は、自分なりの「持論の構築」をするには「他にない思考の材料を持っている」か、もしくは「思考プロセスに独自性がある」かの、少なくとも1つが必要と指摘する。確かな持論を展開できる人は、経営者にとっても頼りがいがある存在になるだろう。
経営者が「残念な優等生」に騙されない手引でもある
できる人の「ものの考え方」として、本書は「本質的な問題把握」の重要性について解説する。無理難題を振られたときに「ぐちゃぐちゃ文句言う時間が無駄。四の五の言わず頑張ろう」という人は、実行力があると頼られがちだが、秋山氏から見れば厳しい評価となる。
「文句のための文句を言う者への対応としてはよいものの、普段からそれしか言わず、深く考えることをしない人であれば、問題解決を放棄しているだけの人です。将来、経営幹部として大きな問題の解決を担わせるのは難しいといえるでしょう」
正しい対応は「それ、間違ってませんか。なぜならば…。我々がやるべきはこうだと思います」と、問題を指摘しつつ次の行動を提案すること。さらに解決策の提案として、問題の原因を安易に人に落とし込むタイプや、単に新しい組織を作るべきと提案するタイプは、よく考えていない場合があるので要注意とのことだ。
本書はできる人になるためのノウハウ書だが、経営者が「残念な優等生」に騙されない手引としても使えそうだ。経営幹部の質は、経営者の価値観を反映している。「荒削りだけど将来性のある人」を出世させる度量がなければ、部下の質も変わらない。(日本能率協会マネジメントセンター刊、2017年1月)