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タリウム事件、元名古屋大生が「発達障害」理由に無罪主張…どんな影響があるのか?

2017年01月30日 10:43  弁護士ドットコム

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2014年に名古屋市で高齢女性を殺害し、2012年には仙台市で高校生2人に劇物の「硫酸タリウム」を飲ませたとして、殺人や殺人未遂などの罪に問われた名古屋大の元女子学生(21)の裁判員裁判の初公判が1月中旬、名古屋地裁ではじまった。


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報道によると、元女子学生は初公判で、高齢女性の殺害について「特に言うことはない」と述べたが、高校生2人に対する殺意については否定した。争点となっているのは、犯行時に責任能力があったかどうか。弁護側は「発達障害などの影響で、善悪の判断がつかない状況だった」として無罪を主張している。


厚生労働省によると、発達障害とは、自閉症やアスペルガー症候群、注意欠如・多動性障害(ADHD)など、生まれつき脳の一部の機能に障害があることだ。個人差が大きいが、社会性、コミュニケーション能力、想像力が欠如していることなどの特性があるとされている。


もし仮に、発達障害があったと認められると、刑事事件の判決にどんな影響は及ぼすのだろうか。発達障害を理由に、無罪となったり、罪が軽くなる可能性はあるのだろうか。刑事事件にくわしい永芳明弁護士に聞いた。


●発達障害だけでは「責任能力」が認められる例が多いが・・・

「刑事事件では、責任能力がないと無罪とされます。簡単にいうと、責任能力とは、ものごとの是非や善悪を見分けて、それにしたがって行動する能力のことです。


精神の障害などで、(1)ものごとの是非や善悪を見分ける能力(事理弁識能力)、または(2)それにしたがって行動する能力(行動制御能力)が、失われた状態でおこなわれた犯罪は、心神喪失として無罪となります。


他方で、精神の障害などによって、(1)事理弁識能力、または(2)行動制御能力が著しく減退している状態であれば、心神耗弱として、刑が減軽されます。


発達障害がある被告人について、知的障害をともなわないケースでは、善悪の判断に問題がないと考えられるため、責任能力が完全にあると認められる例が大半です。


もっとも、アスペルガー症候群が問題になった事件で、(2)の行動制御能力が著しく低下していた疑いが残るとして、心神耗弱を認めた裁判例もあります(宮崎地裁2013年7月29日判決)」


報道によると、起訴された元女子大生側は、発達障害のほかにも、双極性障害(躁うつ病)もあったと主張しているという。


「今回の事件では、発達障害と双極性障害があいまって、(1)事理弁識能力または(2)行動制御能力が、『失われていた』あるいは『著しく減退していた』と考える余地はあると思います。


たとえば、強い衝動のため、自分がしようとしていることの善し悪しを考えることができなかったり、衝動を抑えることができなかった、あるいはそういったことが著しく困難であった可能性も考えられるということです。


そのような判断がされれば、心神喪失で無罪、または心神耗弱で減刑となる可能性もあります」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
永芳 明(ながよし・あきら)弁護士
滋賀弁護士会副会長、日本弁護士連合会・刑事弁護センター委員
事務所名:滋賀第一法律事務所
事務所URL:http://www.shigadaiichi.com/