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中国裁判所トップ「司法の独立、西側の誤った思想」発言、「独立」の重要性を弁護士に聞く

2017年01月29日 11:03  弁護士ドットコム

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司法の独立は西側の誤った思想――。中国の最高裁長官にあたる最高人民法院の周強院長がそのような趣旨の発言をしたことが報じられ、中国内外で波紋を広げている。


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報道によると、発言は、日本の高等裁判所にあたる高級法院の院長を集めた1月14日の会議で出たとされている。周院長は「憲政民主や三権分立、司法の独立などという西側の誤った思想を断固阻止する」として共産党の指導を徹底するように求めたとされる。司法界で習近平指導部の意向をさらに浸透させる狙いがあると見られている。


「司法の独立」にはどんな意味があるのか。司法が独立していることは、権力にとって都合が悪いことなのか。日本において司法の独立は十分に担保されているといえるのか。中村憲昭弁護士に聞いた。


●司法は「人権を守る最後の砦」

権力者にとっては、司法を従属させた方が好都合です。なぜなら、司法によって、自分たちの行動を覆される恐れがあるからです。


司法の独立は、国民の権利を守るための制度的保障です。いわゆる、「三権分立」という考え方です。


もともと、近代国家成立以前は、専制君主による「賢者による政治」行われる国が多くありました。しかし、実際には賢い君主ばかりではありません。暴君や暗愚な君主のせいで国が乱れることも多々あったのです。


そのため、フランス革命以降、欧米国家の多くは民主主義政治に移行しました。重要な政策については、行政府ではなく立法府における多数決に委ねることにしたのです。これは「多くの人にとって幸せな結論ならば正しいはずだ」という考えに基づいています。


しかし、多数決が必ず正しいとは限りません。一時的な熱に浮かされて判断を誤ることもありますし、扇動されて騙されることもあります。そもそも多数決は、少数者の権利を蔑(ないがし)ろにしがちです。


それを是正するのが裁判所です。国会が憲法に違反する法律を作っても、それを無効に出来ますし、違憲な行政行為に対しても「ダメ出し」することができます。


国民にとって、司法は人権を守る最後の砦なのです。


●日本の司法は独立しているといえるのか?

しかし、司法が権力者の影響を受けてしまっては、少数者の権利を守ることは出来ません。


そのため、裁判官には身分が保障され、原則として任期途中で国会や内閣により辞職させられない仕組みになっています。


仮に政府に都合の悪い判決を書いても、その裁判官はそれを理由に罷免されません。それが司法権の独立です。司法の独立を否定する中国の発想は、日本の憲法の考え方とは異なるものです。


とはいえ、日本において、実際に司法権が立法や行政から独立できているかは、また別の話です。


裁判官も陪審員とは異なり、キャリア裁判官です。出世のために、上司からの評価を気にして、政府側の判決を書く裁判官も多いように思います。過去にはいわゆる「平賀書簡事件」のように、上司が裁判官へ圧力をかけた実例もあります。


我が国の行政府の長である安倍総理は国会で、「立法府の長である」と発言したことがあります。今後「司法の長である」と言いださなければ良いのですが。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
中村 憲昭(なかむら・のりあき)弁護士
離婚・相続、交通事故など個人事件と、組織が万全でない中小企業を対象に活動する弁護士。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。その他医療訴訟や建築紛争など専門的知識を要する分野も積極的に扱う。
事務所名:中村憲昭法律事務所
事務所URL:http://www.nakanorilawoffice.com/