2017年01月29日 11:03 弁護士ドットコム
北海道北見市のインターネットカフェで、張り込み中の警察官の財布を盗んだとして、住所不定・自称派遣社員の男性が1月中旬、北海道警に窃盗容疑で現行犯逮捕された。
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報道によると、この店では、昨年12月から、置き引き被害が相次いでいたため、北見署の捜査官4人がこの日、利用客を装って張り込んでいた。1人の捜査官が飲み放題のジュースを取りに個室を出たあと、男性がその個室に出入りするところを別の捜査員が目撃した。カバンから、現金約1万3000円が入った財布がなくなっていたという。
今回の捜査手法について、ネット上では「おとり捜査ではないのか?」という声もあがった。このように「利用客を装った張り込み」は、おとり捜査なのだろうか。おとり捜査は違法なのだろうか。刑事事件にくわしい片田真志弁護士に聞いた。
「おとり捜査は、大きく2種類に分類されます。
1つ目は、犯罪をおこなう意思を持っていない人に捜査機関が働きかけて、犯罪をおこなう意思を誘発する場合です(犯意誘発型)。こちらは違法とされる傾向があります。
たとえば、道路上に、捜査員が高級な財布を置いて、それを目にとめて拾った通行人を尾行し、交番などに届け出ないと判断した時点で検挙するといった方法です。こうした方法は違法とされるでしょう。捜査員が財布を道路上に置いていたことが、犯罪を強く誘発したと評価されるためです」
もう1つはどんな捜査方法だろうか。
「2つ目は、もうすでに犯罪をおこなう意思を持っている人に対して、捜査員が犯罪の機会を与えただけの場合です(機会提供型)。こちらは適法とされています。
たとえば、違法な客引きをおこなっている店の前を捜査員が一般通行人を装って歩いて、違法な客引きを受けて摘発するような場合などは、適法とされる典型です」
今回の捜査は「おとり捜査」だったのだろうか。
「今回の捜査は、報道の内容からすると、後者の機会提供型の『おとり捜査』だったと考えられます。したがって、『適法』と判断されることになるでしょう。
捜査員は、ネットカフェの個室を使用し、個室内に財布を置いて個室を出るという手法を使ったようです。
おそらく、捜査員は手に何も持たずに個室を出たのでしょうが、それでも、ほかの一般の利用者がその様子を見ても『この人は個室内の財布を置き忘れているのではないか』『財布を盗むことができるのではないか』とは考えないでしょう。
実際、捜査員が個室内に財布を置いて出たのかどうかは、個室内をのぞいたり、入ってみて物色してみなければわかりません。
つまり、この手法は、個室内に財布を置き忘れている人がいれば、それを盗み出そうと考えている人に対してだけ『おとり』としての効果があるといえます。犯罪をおこなう意思を持っている人に機会を与えたという評価になるでしょう。
同じネットカフェでも、たとえば、トイレ内に捜査員が財布を置き忘れたように装う場合、道路に財布を置く場合と同じように『違法』と判断される可能性が出てくるように思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
片田 真志(かただ・まさし)弁護士
弁護士法人古川・片田総合法律事務所 代表。2014年弁護士登録。大阪弁護士会所属。2004年大阪地裁にて裁判官に任官。2014年に退官して弁護士登録。元・刑事裁判官の経験を活かし、刑事事件にも力を入れている。
事務所名:弁護士法人 古川・片田総合法律事務所 大阪事務所
事務所URL:http://www.fk-lpc.com/