2017年01月28日 10:13 弁護士ドットコム
カジノ解禁を含む「IR推進法」が昨年12月、成立した。だが、「ギャンブル依存症の人」が増えるのではないかという懸念は根強い。厚生労働省研究班の調査によると、「ギャンブル依存症」の疑いがある人は約536万人と推計されている。パチンコ・パチスロや公営競技(競馬、競輪、競艇)など、日本は事実上「ギャンブル大国」であることが背景にある。
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一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の代表、田中紀子さんは「ギャンブル依存症で苦しんでいる人はたくさんいる。カジノができようができまいが、今こそ対策に取り組むべきだ」と主張する。自身もギャンブル依存症に悩んだ田中さんに、対策のあり方を聞いた。
――ギャンブル依存症とはそもそも、どういうものなのか?
要するに、「病気」です。だから、誰が、いつ、どこで発症するかわかりません。私自身も、自分がどの時点で発症したか、わかりません。いつの間にか発症していて、気がついたら問題が山積みになっていたんです。風邪にせよ、ガンにせよ、どんな病気もいつの間にか発症して、だんだん進行していくものですよね。普通の病気として考えてもらうと一番わかりやすいです。
――どんな症状があるのか?
たとえば、虫に刺されたとき、ものすごく痒くなって、かきたくて、かきたくてたまらなくなることがありますよね。その欲求を我慢したら、痒みを感じなくなるとわかっていても、なかなか我慢できるものではありません。ギャンブル依存も同じです。とにかく、ギャンブルをやらないとイライラ、そわそわして、居ても立ってもいられなくなるんです。
――生活にはどんな影響があるのか?
人によって程度差がありますが、お金と時間に影響があります。依存症の人は、借金をつくってまでギャンブルをするようになるので、中には、会社の経費を水増し請求したり、預かっていた売上金をちょろまかしたりする人もいます。
また、時間のほとんどをギャンブルに費やすようになるので、まともな日常生活を送れなくなります。仕事をサボったり、夜に寝れなくて会社を休んだり、仕事中も落ち着かず、トイレに行ってスマホでレース結果を見たり。
――家族や周囲はどう接するべきか?
ギャンブルに対して「自己責任」という風潮があるため、周囲も依存症について理解せず、「だらしのない人」とバカにしがちです。だから、理屈っぽく「勝てる奴はいないぞ」などと説教してしまう。しかし、本人も「勝てないこと」くらいわかっています。そんな言葉を投げかけられると、「この人にはわかってもらえない」と、悪循環にはまりやすい。家族や周囲は、正しい知識をもつことが大事です。
もちろん、「みんながみんな、ギャンブル依存症になるわけでない」という批判もあるかもしれませんが、病気とはそういうものです。そこを責められてもつらいですよ。健康に気をつけて、バランスのいい食事を心がけても、生活習慣病になる人はいます。ギャンブル依存症も同じなんです。
――どうすれば乗り越えることができるのか?
ギャンブル依存症は、なかなか1人で乗り越えられません。ただ、周囲が無理解のまま中途半端に手助けすることも逆効果です。同じ症状に苦しむ人たちと自助グループなどでつながって、自分の身の上でおきたことを言語化し、他者に共感してもらうことで、少しずつ自分と向き合うことができるようになります。
依存症の人はもともと、「自分でなんとかしなきゃ」と考える責任感の強い人が多いと思います。弱音を吐けない性格だから、ストレスが溜まる。人はストレスに向き合う中で、酒を飲みに行ったり、映画を観に行ったりしますよね。その息抜きの一つにギャンブルがあり、そのギャンブルで発症してしまっただけなんですよね。
ギャンブル依存症を乗り越える方法の一つとして、ストレスとの向き合い方を学ぶことは非常に有効です。人間関係のあつれきがあったときや、ストレスがたまったときに誰かに話したり、助けを求めて良いんだと学ぶことで、健康的なストレスの解消方法を学んでいきます。
――カジノができると「ギャンブル依存症」の人が増えると懸念されている。どういうことが課題になるのか?
実際にカジノができるのは、早くても4~5年くらい先のことでしょう。それまでに、どれだけ既存のギャンブル依存症対策ができるかどうかにかかってくると思います。私たちは、パチンコ・パチスロ、公営競技を事実上のギャンブルと捉えています。
カジノについては、これだけギャンブル依存症について厳しく言われているので、私たちからみれば、逆に安心感があります。決められた区域にしかないし、入場制限などの規制が入るでしょう。
一方で、今でも、パチンコ・パチスロ、公営競技、オンラインカジノが身近にあります。公営競技にはいくつも外郭団体があって、天下りの温床になっています。だから、既存のギャンブル産業をきちんと規制しようということになっていません。
手軽なギャンブルはたくさんあるのに、どうしてそのことについて騒がないのか。現在起きている問題に対してまず対策を打ち出すべきです。カジノができるまでに、どれだけ既存のギャンブル産業に対してどれだけ切り込めるか、どれだけ大鉈がふるえるかが、すごく重要になると思います。
――どんな法整備を考えていくべきか?
既存のギャンブルに関する依存症対策法をつくってほしいと思います。啓発や予防教育、回復施設の支援のほかに、射幸性を高くしないとか、年齢制限もきっちりしてほしいと思います。
たとえば、パチンコ・パチスロについては、事実上、中学生も高校生も入場しています。法律があったとしても、きちんと運用されていません。タバコを購入するときに使用する「taspo(タスポ)」のようなカードをつくって、年齢制限をチェックして、入場させるなどの対策が考えられます。
また、広告にも規制を入れるべきです。競馬などはテレビCMをやりすぎです。マスコミはカジノは叩くけれど、広告主のギャンブル業界をまったく叩きません。ある大手新聞社は、カジノのネガティブキャンペーンをはりながらも、競馬の広告を大々的に出しました。そんな矛盾が私たちを苦しめているんです。
あと、現在は、同じ省庁が規制と振興をやっていますが、規制分野を切り離して、一元化する省庁をつくってほしい。そうじゃないと規制なんか進まないですよ。繰り返しになりますが、既得権益に本格的に切り込むことができるなら、むしろIRは画期的です。ギャンブル政策の大きな転換点になると思います。
ギャンブル依存症の問題は、思い込みや偏見がものすごく強い。依存症の人が回復しやすい社会にすることで、結局は、社会負担が減ると思います。私たちは、ギャンブルやギャンブル産業、カジノそのものは否定していません。だけど、既存のギャンブルが原因で苦しんでいる人がいます。そのままでいいのかと、ぜひ思い至ってほしいです。
(弁護士ドットコムニュース)