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『東京タラレバ娘』『左江内氏』『日暮旅人』……日テレドラマなぜ好調? 各放送枠の傾向から考察

2017年01月27日 06:12  リアルサウンド

リアルサウンド

 日本テレビのドラマが好調だ。『東京タラレバ娘』の平均視聴率が13.8%(関東地区)、『スーパーサラリーマン左江内氏』が12.9%(同)、『視覚探偵 日暮旅人』が11.2%(同)と、それぞれ初回の平均視聴率が10%を超えている。


参考:2017年、ドラマ界に必要なのは“スター・クリエイター”だ ドラマ評論家が各局の現状を考察


 好調の理由は、それぞれの放送枠に迷いがないからだろう。放送枠はお店で言えば看板みたいなもので、ひと目で何屋かわからなければ、客を呼びこむことができない。視聴率が不安定なドラマ枠ほど、方向性が定まっていない。対して日本テレビのドラマは、方向性が明確でブランドイメージが確立されている。


 では、各枠では、どのような作品が放送されてきたのか、改めて過去作の傾向を振り返ってみたい。


■00年代以降の仕事と恋愛を描き続けた水曜ドラマ(水曜10時枠)


 現在、日本テレビでもっとも勢いがあるのは水曜ドラマだろう。女性を主人公にした仕事と恋愛をテーマにしたドラマが多く作られており、かつて月9で放送されていたようなトレンディドラマの役割を果たしている。


 しかし、かつての月9が80年代のバブル景気を背景にした華やかなものだったのに対し、水曜ドラマが描くのは00年代以降、雇用が不安定な不況の日本を背景としているため、描かれる題材は派遣社員として働く女性を主人公にした『ハケンの品格』や、綾瀬はるか主演の『ホタルノヒカリ』、『きょうは会社休みます。』のような、自分のことをイケてないと思っている恋愛に奥手の女性を主人公にした作品が中心となっている。憧れや夢を描いた月9よりは、現実に根ざした作品が多い。


 また、これは日本テレビ全体に言えるのだが人間を漫画やアニメのキャラクターのように見せる作品(キャラクタードラマ)が多く、『ハケンの品格』や『家政婦のミタ』のような、超人的な女性が周囲を翻弄するパターンが多いのもこの枠の特徴だろう。


 現在放送している『東京タラレバ娘』は女性にとっての恋と仕事を描くトレンディドラマの王道的作品だが、彼女たちの日常は、とてもしょっぱいものとなっている。その一方でタラとレバが喋り出す場面などの漫画的演出もあり、非常に水曜ドラマらしい作品となっている。


■子どもから大人まで楽しめる土9(土曜9時枠) 


 土9は子ども向けドラマ枠という特性を活かして意欲作を次々と生み出してきた枠で、新しいドラマは土9から生まれてきたといっても過言ではない。


 95年に放送された『金田一少年の事件簿』は、少年マガジンに連載されていた同名漫画をジャニーズアイドルの堂本剛が演じ、トリッキーでカット数の多い映像を得意とする堤幸彦が演出することで、後のミステリードラマの基本フォーマットを作った。


 00年代には『ごくせん』シリーズがヒットして以降、イケメン俳優が多数出演する学園ドラマのブームを作り、『野ブタ。をプロデュース』のような異色の学園ドラマも作られた。 


 2010年代は『怪物くん』や『妖怪人間ベム』、『ど根性ガエル』といった昔の漫画やアニメを現代風にリメイクしたものが多く、子どもの頃にファンだった大人を意識してか、主人公を大人の俳優が演じるものが多い。現在放送中の現在、藤子・F・不二雄の漫画をドラマ化した『スーパーサラリーマン左江内氏』もその系譜の作品で、子ども世代と親世代の人気を同時に取り込んでいる。


■土9ができなくなった青春の暴力性を補完している日曜ドラマ


 土9がファミリー層に向けて作られるようになった結果、土9で作ることが難しくなった男性向けエンタメ作品の受け皿となっているのが日曜ドラマだろう。


 死神のノートを手に入れた青年のピカレスクドラマ『デスノート』や、宮藤官九郎が脚本を書いたゆとり世代の若者の青春群像劇『ゆとりですがなにか』など、土9に較べると暴力や恋愛の要素が強い荒々しいドラマが多い。現在放送されている『視覚探偵 日暮旅人』は、『金田一少年の事件簿』や『サイコメトラーEIJI』の堤幸彦がチーフ演出を務めており、90年代の土9のテイストを思い出させる懐かしい作品となっている。


■総論 土9の終わり 土10はどんなドラマを生み出すのか?


 女性向けの水曜ドラマ、ファミリー向けの土9、男性向けの日曜ドラマ。大きく分けると日本テレビのドラマはこの3つに分類できる。 客層の住み分けと各放送枠のブランドイメージがしっかりとしているため、日本テレビのドラマはとても見やすく、安定した視聴率を維持している。しかし、それと引き換えに、放送枠をはみ出すような問題作は年々、減ってきているように感じる。


 例えば、土9で放送された木皿泉脚本の『すいか』と遊川和彦脚本の『女王の教室』。この二作は土9の棲み分けが緩かったからこそ、強烈な作家性によって生まれた名作だ。こういった問題作がテレビドラマの新しい流れを生み出していった。


 そんな土9が今クールで終了し、4月からは時間帯が10時に変わるというのは、歴史的な役割が終わったということなのかもしれない。愛着のある放送枠だっただけに土9の終了は寂しいが、10時台への移動は今までの土9とは違う新しい作風のドラマを生み出すのではないかと、期待している。(成馬零一)