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F1燃料規定の変更はマクラーレン、レッドブル、ルノーにどう影響するのか【2017年F1技術分析】

2017年01月26日 17:12  AUTOSPORT web

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マクラーレン・ホンダMP4-31
2017年の新しいF1レギュレーションでは、もっぱら空力面の大きな変更が注目を集めている。だが、背びれのあるエンジンカバーに隠された部分についても、いくつかの重要な変更点がある。

 エンジンの開発トークンシステムの廃止に伴い、マニュファクチャラーの出費が高騰するのを防ぐための新たな試みとして、燃料のブレンド、比重、組成が制限されるのだ。

■燃料規則の変更とそれがもたらすチャレンジ

 2017年から、チームがノミネートできる燃料ブレンドはシーズンを通じて5種類となり、ひとつのレースの週末に使えるのは、そのうち2種類のみとされる。これまで、使用できるブレンドの種類に制限はなかった。

 これによって、予選とレースでエンジンの出力や特性を大幅に変えたりするのは、従来よりも難しくなるだろう。また、チームがサーキットの特性に応じて専用の燃料ブレンドを使う自由も、一定の範囲内に制限されることになる。

 メルセデスとペトロナスのように、燃料や潤滑油のサプライヤーとチームの間に密接で安定した関係が築かれていても、このルール変更に向けて、様々な対応を強いられるはずだ。

 その意味において、今年から燃料のパートナーが変わったチームは、ルール変更の影響をより強く感じることになるかもしれない。ご存知のように、今季はレッドブルの燃料とオイルのサプライヤーがエクソン・モービルになり、昨年までモービルをパートナーとしていたマクラーレンはBP/カストロールと契約したといわれている。そしてルノーも、トタルとの関係を解消し、BPにスイッチするものと予想されている。

 少なくともレッドブルは、これまでモービルがマクラーレンとそのエンジンパートナー、すなわちメルセデスやホンダと共に築いてきた長年の経験の恩恵を受けることができる。

 その点、BPには開発ノウハウの面で、3シーズン分の遅れがあるのは確かだ。しかし、特に今後ルノーとトロロッソも陣営に加えることになれば、データベースを急速に充実させていくことは可能だろう。

■燃料サプライヤーの現場での取り組み

 潤滑油の性能は、F1エンジンの回転数全域での出力、効率、信頼性に大きな影響を及ぼしうる。それゆえに、サプライヤーのエンジニアは常にチームに帯同し、ピットガレージに専用の研究室を設けている。

 そこで彼らは、燃料とオイルのルールへの適合性を確認し、自社製品の性能をモニタリングし、チームがどの仕様を用いるべきかを決めるにあたって助言を行い、場合によってはトラブルの可能性をそれが実際に起きる前に発見したりもする。

 レースの現場でこなすべき仕事は多い。燃料は各グランプリのサーキットに直接搬送されるため、まずエンジニアたちは、届いた燃料に汚染や劣化がなく、FIAの検査に合格できるものであることを確認しなければならない。

 彼らは、ガスクロマトグラフィー装置を用いて燃料を分析し、FIAが保管しているサンプルと分子組成が一致することを確かめる。ひとつのグランプリの週末だけで、およそ40点のサンプルが検査される。

 サプライヤーのエンジニアたちがサーキットでチェックするのは、燃料だけではない。V6ハイブリッド・パワーユニットとギヤボックスを潤滑するオイルについても、様々な検査やテストが行われている。

 たとえば、シェルは「回転ディスク電極可視光分光撮像装置」(略称RDEOES)を用いて、潤滑油に微細な金属片の混入がないか調べている。これによって、過大な摩耗やトラブルの予兆を察知できるからだ。

 また、新しい空力レギュレーションは、潤滑油のサプライヤーにも課題を突きつけることになる。コーナリング速度が上がるため、クルマのあらゆる部分に加わる横Gが大きくなり、オイルの循環にも影響を及ぼす可能性があるのだ。もしオイルが各部に行き届かなくなれば、潤滑を必要とするコンポーネントにとって致命的であることは言うまでもない。

■廃止されたトークンシステムの代案

 ターボ・ハイブリッド時代の到来に先立って、コストと開発競争を抑制したいと考えたFIAが、トークンシステムを導入したのは理に適ったことだった。

 ただ、実際にその時代が始まった時、メルセデスに圧倒的なアドバンテージがあったために、このシステムは完全に裏目に出た。結果として、ライバルたちが開発によってメルセデスに追いつく機会を奪ってしまったのである。

 2017年に向けて、マニュファクチャラーとFIAは、これとは違うアプローチを採ることで合意した。それが、部品やコンポーネントの重量と寸法に焦点を当てた、新しい開発制限の考え方だった。

 たとえば、MGU-KとMGU-Hの重量は、それぞれ7kgと4kgを下回ってはならない。ピストン、コンロッド、クランクシャフトの最低重量も規定されている(それぞれ、300g、300g、5300g)。

 また、この新規定では、クランクシャフトベアリングのサイズ、圧縮比(18.0以下)、金、プラチナ、ルテニウム、レニウムを用いたコーティングの厚さ(0.035mmまで)の制限も追加された。

 こうした変更は、いずれも開発を制限し、マニュファクチャラーがどこまでもゲインを追い求めて、競争がエスカレートするのを防ぐことを意図している。また、ドライバーがシーズン中に使えるパワーユニットの数が4基までなるため、アップデートの投入についても、これまで以上に慎重なプランニングが必要になるだろう。