2017年01月26日 10:13 弁護士ドットコム
時間や場所に縛られない多様な働き方が広まる中、在宅勤務など社外で働く「テレワーク」用のシステムを販売してきたキヤノンITソリューションズは2月、従業員がパソコンの前にいることをカメラで確認し、勤務時間に反映するシステムを発売する。
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日本経済新聞によると、新システムでは、パソコンに備えたカメラで顔を撮影し、顔認証機能で登録した本人の在席と離席とを判別するという。映像は在席・離席を区別するためだけに使い、システムの管理画面には登録した顔の画像のみ表示する。
拒否感の強そうなシステムだが、先行導入したITサービス会社の社長は「できる社員を発掘するためと納得してもらっている」という。システムを導入したことで同じ仕事でも早い人と遅い人がいることがわかり、発注や指示の仕方の見直しにつながったそうだ。
在宅勤務のメリットの1つは、自分の生活リズムで働けることだが、仕事をしているかどうかカメラで確認されるこのシステムは、そのメリットに反しているようにも思える。ネット上でも「在宅勤務の意味ない」「椅子に座った時間じゃなくて成果物を評価しろよ」などのコメントが上がっていた。このシステムは果たして有効なのだろうか。神内伸浩弁護士に聞いた。
「確かに、テレワークの代表例である在宅勤務のメリットは、たとえば、小さい子どもの世話や家族の介護など、事情があって自宅を離れることができない人が、仕事をする場所に拘束されないという意味で、場所的自由を得ることで仕事との両立を図ることにあるといえます。
また、職場と自宅との距離や通勤手段、時間帯等にもよりますが、通勤時間がゼロなるという面も、在宅勤務の大きなメリットといえるでしょう。そのようなメリットを引き続き享受できることを考えれば、今回のようなシステムを導入したとしても、ただちに在宅勤務の趣旨に反するということにはならないのではないかと思われます」
しかし、成果物で評価すれば、そもそも席にいる時間をカメラで確認する必要はないのではないか。
「労働契約は、労働者が労働力を提供し、その見返りとして使用者が賃金を支払うという双務契約です。極端なことをいうと、労働者は決められた時刻に出勤し、自らを労働力の提供が可能な状態に置くことで『債務を履行した』といえるのです。
つまり、決められた時間、誠実かつ真面目に勤務しているのであれば、それで当該労働者は自らの義務を果たしていることになるのです。そのうえで、成果を上げているかどうかということは、提供される労働力の『質』の問題であって、労働者が本来負うべき債務とは別次元の問題です。
そう考えると、監視も行き届かず、仕事と私的行為との境界線が混然一体となりがちな在宅勤務において、今回のようなシステムを導入することは一定の意義があるのではないかと思います。レアケースかもしれませんが、在宅勤務で長時間労働が行われている場合にも警鐘を鳴らす契機になってくれるでしょう。
もっとも、室内が写り込む可能性は否定できず、在宅勤務者が快く思わないとしても無理のない話です。目的外の利用はないこと等をきちんと説明し、在宅勤務者の同意を得て、正しく運用することが肝要です」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神内 伸浩(かみうち・のぶひろ)弁護士
事業会社の人事部勤務を8年間弱経て、2007年弁護士登録。社会保険労務士の実績も併せ持つ。2014年7月神内法律事務所開設。第一東京弁護士会労働法制員会委員。著書として、『課長は労働法をこう使え!―――問題部下を管理し、理不尽な上司から身を守る 60の事例と対応法』(ダイヤモンド社)、『管理職トラブル対策の実務と法【労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ】』(民事法研究会 共著)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』(労務行政研究所 共著)ほか多数。
事務所名:神内法律事務所
事務所URL:http://kamiuchi-law.com/