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上白石萌音は映画女優としてさらに伸びる! 『ホクサイと飯さえあれば』で見せた新たな一面

2017年01月25日 18:13  リアルサウンド

リアルサウンド

『ホクサイと飯さえあれば』(c)鈴木小波/講談社・「ホクサイと飯さえあれば」製作委員会・MBS

 2016年に最も活躍した若手女優といえば、上白石萌音ではないだろうか。春に公開された『ちはやふる』2作での大江奏役、そして11月に公開された『溺れるナイフ』でのカナ役はもちろんのこと、極め付けは、今なお大ヒット公開中の『君の名は。』でのヒロイン・宮永三葉であろう。


参考:声優は演技賞の対象とすべき? 傑作アニメ続出の2016年、各映画賞の結果を踏まえて


 そんな彼女の、2017年最初の演技仕事である主演ドラマ『ホクサイと飯さえあれば』(TBS系)が24日深夜(関西圏では22日深夜)からスタートした。連続ドラマ初主演と言われてもさほど違和感はないのだが、実はこれが初の民法連ドラ出演。しかも、これまでテレビドラマ自体、NHKの大河ドラマ『江~姫たちの戦国』へのゲスト出演と、スペシャルドラマの2回しかないというのは少々意外である。


 2011年の東宝シンデレラオーディションで審査員特別賞を受賞し、2013年には主演に抜擢された映画『舞妓はレディ』で新人賞を多数受賞。彼女は一躍注目を集めた。同じ年の東宝シンデレラオーディションでグランプリに輝いた妹・上白石萌歌がドラマを中心に出演作を増やしているのに対し、彼女は映画をメインとしているのだ。まさに、最近では少なくなった生粋の映画女優の片鱗がうかがえる。


 そんな彼女は、主戦場の映画を離れても、期待値を大きく上回るパフォーマンスを見せてくれた。今回のドラマで彼女が演じるのは一人暮らしの大学生・文子。名前の文字を取って、“ブン”という愛称だ。極度の人見知りで友達はおらず、ぬいぐるみの“ホクサイ”が唯一の話し相手という設定だけ聞くと、かなりの根暗キャラか不思議ちゃんなのかと邪推してしまう。


 どうやら後者のほうで間違ってはいないようだ。寝坊して大慌ての朝に、身支度をすることよりも朝ご飯を作ることの方に重点を置くという食い意地の張ったキャラクターというのは実に可愛らしい。また、寝間着姿のままで商店街をダッシュして、休みの日だと気が付くドジっぷりときたら、今までの彼女のイメージとはかなりかけ離れている。


 これまで彼女が演じてきた役柄といえば、おっとりとした優等生キャラばかりであった。それとは対照的な今回の“ブン”というキャラクターからは、彼女の新しい一面を見ることができるに違いない。それも、決して無理をして演じているわけでもなく、とても自然体な演技であるからこそ魅力的に映るのだ。


 しかも、梶裕貴が声をあてているぬいぐるみのホクサイとのやりとりが中心であるから、画面の中ではもっぱら彼女の一人芝居になる。これは演技力を試される場所である。それでも、河川敷でマヨネーズを作るために大きくシェイクしたり、鼻歌を軽やかに歌い上げながら歩いたりと、なかなかダイナミックな演技の数々を披露する。やはり自分の存在感を高めることに長けている、スケール感を持った映画女優なのだ。


 もちろん、作品の要でもある、料理シーンもこのドラマの見所の一つ。第1話ではホワイトソースを猛スピードで作ったり、100円均一の安物サンドイッチに、自作のマヨネーズをトッピングしてツナマヨサンドに変えるというアイデア料理を披露した。『深夜食堂』や『孤独のグルメ』に続く、深夜の“飯テロ”ドラマとして高い人気を集めそうな予感が漂う。


■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。