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『ラ・ラ・ランド』最多14ノミネート! アカデミー賞ノミネーション結果と“初の試み”を考察

2017年01月25日 17:52  リアルサウンド

リアルサウンド

『ラ・ラ・ランド』本国公式Twitterより

 いよいよこの日、この時間がやってきた。1月24日、ロサンゼルス時間早朝5時18分(日本時間24日午後10時18分)。映画業界関係者はこの瞬間のために数年間創作に命をかけてきた。アカデミー賞授賞式本番よりもノミネーション発表の時が重要なのは、ここでようやく戦いの火蓋が切って落とされるから。ノミネートされた公開中作品はこれから1ヶ月間観客動員数を伸ばし、人々はそれぞれのオスカー予想を繰り広げる。さて、例年とは異なるネット配信形式で行われたノミネーション発表はどんな評価を得たのだろうか。


参考:『ラ・ラ・ランド』はオスカー戦線を走り抜くことができるか? 米在住ライターによる5つの考察


 『ラ・ラ・ランド』強し! ゴールデングローブ賞の7部門受賞も驚いたが、アカデミー賞では史上最多14部門でノミネート。実際には歌曲賞で「Audition (The Fools Who Dream)」と「City of Stars」の1曲がノミネートされているため、13部門14賞でノミネートだ。14部門ノミネートは、1950年の『イヴの総て』、1987年の『タイタニック』に次ぐ記録で、受賞においては『タイタニック』と『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003年)の11部門が最多、『ラ・ラ・ランド』が記録を塗り替える可能性もある。現在のアメリカにおける興行収入は8,900万ドル(約107億円)で、今週末には1億ドルを超えるだろう。公式ツイッターではノミネーション発表直後に「14部門ノミネート!」のバナーを出しており、『ラ・ラ・ランド』陣営にとって想定内のノミネーション結果だったようだ。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『ムーンライト』もそれぞれ8部門ノミネートで、ほぼ下馬評通りとなった。


 日本勢のノミネートは、長編アニメーション部門の『レッドタートル ある島の物語』のみ。スタジオジブリの初の海外共同製作で、今作によって2014年の『風立ちぬ』以来4年連続のノミネートだ。同じく長編アニメーション部門には、日本を舞台にしたストップ・モーション・アニメーション『Kubo and the Two Strings』が入っている。米ポートランドに拠点を置くアニメーション・スタジオ、LAIKAによる作品で、三味線を武器に悪霊と戦う少年クボが主人公。『沈黙ーサイレンスー』の窪塚洋介は助演男優賞のノミネートを逃したが、こちらのクボくんは見事ノミネートを果たした。


 今年の“サプライズ枠”は主演女優賞のルース・ネッガ(『ラビング 愛という名前のふたり』)で、初ノミネートとなった。ゴールデングローブ賞でのトランプ政権批判スピーチで大喝采を受けたメリル・ストリープ(『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』)は自身20回目のノミネート。下馬評では歌曲賞(「Audition」)にもソロ楽曲がノミネートされているエマ・ストーンが主演女優賞最有力だが、メリルのスピーチをもう一度聞きたいという勢力が奇跡を起こす可能性もある。また、脚本賞の『ロブスター』はギリシャ出身のヨルゴス・ランティモスとエフティミス・フィリップによる初の英語作品で、昨年のカンヌ映画祭審査委員特別賞に続く快挙となった。


 昨年のノミネーションが白人俳優に偏っていたことから「Oscar So White(白すぎるオスカー)」と批判を浴びたが、今年の俳優賞は各賞ともきれいにミックスされている。これはトランプ政権発足に伴う白人至上主義への不安感、先週末の女性たちによるデモ行進など世相を反映した結果と言えるかもしれない。アメリカにとって映画産業は単なる芸能エンターテイメントではなく、国全体の景気や世相を表す重要なファクターだ。アカデミー賞は昨年1年の空気を形にし、これからの映像産業を予見する重要な祭典なのである。


 今年初めての試みとして、ノミネーション発表をアカデミー賞公式ホームページ上のネット配信で行ったことに関しては、今のところ大きな批判は出ていない。だが、ノミネーション発表直後のホームページでは主演女優賞にエイミー・アダムス(『メッセージ』)、主演男優賞にトム・ハンクス(『ハドソン川の奇跡』)の名前が誤って記載されてしまった(現在は修正済)。アダムスの枠はルース・ネッガ、ハンクスの枠はデンゼル・ワシントン(『Fences』)が正しいノミネート結果だ。


 アダムスもハンクスもそれぞれ5度のノミネートを誇るオスカー常連俳優だが、ホームページ制作者にとっても今年のノミネーション発表はチャレンジングな試みだったのだろう。昨年の主演女優賞受賞のブリー・ラーソン(『ルーム』)や2006年の助演女優賞受賞のジェニファー・ハドソン(『ドリーム・ガールズ』)、2003年の『ラスト・サムライ』で助演男優賞にノミネートされた渡辺謙らがノミネーションを読み上げるスタイルは、従来の記者会見形式と比べると味気ない気もするが、全世界同時配信はアカデミー賞をアメリカだけのお祭りではなく、世界に発信する文化の祭典として位置づけたいのだろう。


 実績のあるパブリシストやロビイストは、映画の製作が決定した瞬間から数年後のアカデミー賞に向けて身柄が拘束されると言われている。彼らの努力が実を結んだ瞬間にも、ノミネートを逃しがっくり肩を落としているパブリシストもいる。失意の中記者会見場のホテルから車を走らせるより、ネット配信を見ていたコンピュータで次のプロジェクトに向けて走りだす。そうした落選組の彼らにとって、今日は新しいオスカーへ向けた第一歩を切る日でもあるのだろう。(小川詩子)


<第89回アカデミー賞ノミネート結果>


■作品賞(BEST PICTURE)
『メッセージ』
『Fences(原題)』
『ハクソー・リッジ(原題)』
『最後の追跡』
『Hidden Figures(原題)』
『ラ・ラ・ランド』
『LION/ライオン ~25年目のただいま~』
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
『ムーンライト』


■主演男優賞(ACTOR IN A LEADING ROLE)
ケイシー・アフレック 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
アンドリュー・ガーフィールド 『ハクソー・リッジ(原題)』
ライアン・ゴズリング 『ラ・ラ・ランド』
ヴィゴ・モーテンセン 『はじまりへの旅』
デンゼル・ワシントン 『Fences』


■主演女優賞(ACTRESS IN A LEADING ROLE)
イザベル・ユペール 『Elle(原題)』
ルース・ネッガ 『ラビング 愛という名前のふたり』
ナタリー・ポートマン 『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』
エマ・ストーン 『ラ・ラ・ランド』
メリル・ストリープ 『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』


■助演男優賞(ACTOR IN A SUPPORTING ROLE)
マハーシャラ・アリ 『ムーンライト』
ジェフ・ブリッジス 『最後の追跡』
ルーカス・ヘッジズ 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
デヴ・パテル 『LION/ライオン ~25年目のただいま~』
マイケル・シャノン 『Nocturnal Animals(原題)』


■助演女優賞(ACTRESS IN A SUPPORTING ROLE)
ヴィオラ・デイヴィス 『Fences(原題)』
ナオミ・ハリス 『ムーンライト』
ニコール・キッドマン 『LION/ライオン ~25年目のただいま~』
オクタヴィア・スペンサー 『Hidden Figures(原題)』
ミシェル・ウィリアムズ 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』


■長編アニメ賞(ANIMATED FEATURE FILM)
『Kubo and the Two Strings(原題)』
『モアナと伝説の海』
『My Life as a Zucchini(原題)』
『レッドタートル ある島の物語』
『ズートピア』


■撮影賞(CINEMATOGRAPHY)
『メッセージ』(ブラッドフォード・ヤング)
『ラ・ラ・ランド』(リヌス・サンドグレン)
『LION/ライオン ~25年目のただいま~』(グレッグ・フレイザー)
『ムーンライト』(ジェームズ・ラクストン)
『沈黙ーサイレンスー』(ロドリゴ・プリエト)


■衣装賞(COSTUME DESIGN)
『マリアンヌ』(ジョアンナ・ジョンストン)
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(コリーン・アトウッド)
『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(コンソラータ・ボイル)
『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(マデリーン・フォンテーヌ)
『ラ・ラ・ランド』(メアリー・ゾフレス)


■監督賞(DIRECTING)
ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『メッセージ』
メル・ギブソン 『ハクソー・リッジ(原題)』
デイミアン・チャゼル 『ラ・ラ・ランド』
ケネス・ロナーガン 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
バリー・ジェンキンス 『ムーンライト』


■長編ドキュメンタリー賞(DOCUMENTARY (FEATURE))
『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』
『I Am Not Your Negro(原題)』
『ぼくと魔法の言葉たち』
『O.J.: Made in America(原題)』
『13th -憲法修正第13条-』


■短編ドキュメンタリー賞(DOCUMENTARY (SHORT SUBJECT))
『最期の祈り』
『4.1 Miles(原題)』
『Joe's Violin(原題)』
『Watani: My Homeland(原題)』
『ホワイト・ヘルメット -シリアの民間防衛隊-』


■編集賞(FILM EDITING)
『メッセージ』(ジョー・ウォーカー)
『ハクソー・リッジ(原題)』(ジョン・ギルバート)
『最後の追跡』(ジェイク・ロバーツ)
『ラ・ラ・ランド』(トム・クロス)
『ムーンライト』(ナット・サンダース&ジョイ・マクミラン)


■外国語映画賞(FOREIGN LANGUAGE FILM)
『ヒトラーの忘れ物』(デンマーク)
『幸せなひとりぼっち』(スウェーデン)
『セールスマン』(イラン)
『Tanna(原題)』(オーストラリア)
『ありがとう、トニ・エルドマン』(ドイツ)


■メイクアップ&ヘアスタイリング賞(MAKEUP AND HAIRSTYLING)
『幸せなひとりぼっち』(エヴァ・フォン・バール&ラブ・ラーソン)
『スター・トレック BEYOND』(ジョエル・ハーロウ&リチャード・アロンゾ)
『スーサイド・スクワッド』(アレッサンドロ・ベルトラッツィ)


■作曲賞(MUSIC (ORIGINAL SCORE))
『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(ミカ・レヴィ)
『ラ・ラ・ランド』(ジャスティン・ハーウィッツ)
『LION/ライオン ~25年目のただいま~』(ダスティン・オハロラン&ハウシュカ)
『ムーンライト』(ニコラス・ブリテル)
『パッセンジャー』(トーマス・ニューマン)


■歌曲賞(MUSIC (ORIGINAL SONG))
Audition (The Fools Who Dream) 『ラ・ラ・ランド』
Can't Stop The Feeling 『Trolls(原題)』
City Of Stars 『ラ・ラ・ランド』
The Empty Chair 『Jim: The James Foley Story(原題)』
How Far I'll Go 『モアナと伝説の海』


■美術賞(PRODUCTION DESIGN)
『メッセージ』(パトリス・ヴァーメット)
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(スチュアート・クレイグ)
『ヘイル、シーザー!』(ジェス・ゴンカー)
『ラ・ラ・ランド』(デヴィッド・ワスコ)
『パッセンジャー』(ガイ・ヘンドリックス・ディアス)


■短編アニメーション賞(SHORT FILM (ANIMATED))
『盲目のヴァイシャ』
『Borrowed Time(原題)』
『Pear Cider and Cigarettes(原題)』
『Pearl(原題)』
『ひな鳥の冒険』


■短編実写映画賞(SHORT FILM (LIVE ACTION))
『Ennemis Interieurs(原題)』
『彼女とTGV』
『Silent Nights(原題)』
『合唱』
『タイムコード』


■音響編集賞(SOUND EDITING)
『メッセージ』(シルヴァン・ベルマール)
『バーニング・オーシャン』(ワイリー・ステイトマン&レニー・トンデリ)
『ハクソー・リッジ(原題)』(ロバート・マッケンジー&アンディ・ライト)
『ラ・ラ・ランド』(アイリーン・リー&ミルドレッド・イアットルー・モーガン)
『ハドソン川の奇跡』(アラン・ロバート・マレー&バブ・アズマン)


■録音賞(SOUND MIXING)
『メッセージ』(ベルナール・ガリエピー・ストロブル&クロード・ラ・アヤ)
『ハクソー・リッジ(原題)』(ケヴィン・オコネル、アンディ・ライト、ロバート・マッケンジー、 ピーター・グレース)
『ラ・ラ・ランド』(アンディ・ネルソン、アイリーン・リー、スティーヴ・A・モロー)
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(デヴィッド・パーカー、クリストファー・スカラボシオ、スチュワート・ウィルソン)
『13時間 ベンガジの秘密の兵士』(グレッグ・P・ラッセル、ゲイリー・サマーズ、ジェフリー・J・ハバッシュ、マック・ルース)


■視覚効果賞(VISUAL EFFECTS)
『バーニング・オーシャン』(クレイグ・ハマック、ジェイソン・スネル、ジェイソン・ビリントン、バート・ダルトン)
『ドクター・ストレンジ』(ステファン・セレッティ、リチャード・ブラフ、ヴィンセント・シレリ、ポール・コーボールド)
『ジャングル・ブック』(ロバート・レガート、アダム・バルディーズ、アンドリュー・R・ジョーンズ、ダン・レモン)
『Kubo and the Two Strings(原題)』(スティーヴ・エマーソン、オリヴァー・ジョーンズ、ブライアン・ マックリーン、ブラッド・シフ)
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(ジョン・ノール、モエン・レオ、ハル・ヒッケル、ニール・コーボールド)


■脚色賞(WRITING (ADAPTED SCREENPLAY))
『メッセージ』(エリック・ハイセラー)
『Fences(原題)』(オーガスト・ウィルソン)
『Hidden Figures(原題)』(アリソン・シュレーダー&テオドール・メルフィ)
『LION/ライオン ~25年目のただいま~』(ルーク・デイヴィス)
『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス&タレル・アルバン・マクレイニー)


■脚本賞(WRITING (ORIGINAL SCREENPLAY))
『最後の追跡』(テイラー・シェリダン)
『ラ・ラ・ランド』(デイミアン・チャゼル)
『ロブスター』(ヨルゴス・ランティモス&エフティミス・フィリップ)
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(ケネス・ロナーガン)
『20センチュリー・ウーマン』(マイク・ミルズ)