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SKY-HI、ポップミュージックの最前線へ 意欲作『OLIVE』で見せた変化とは?

2017年01月25日 13:03  リアルサウンド

リアルサウンド

SKY-HI

 カッティング・エッジなトラックとともに自らの死生観を赤裸々に表現した2ndアルバム『カタルシス』(2016年1月リリース)以降、SKY-HI(AAA日高光啓)の音楽スタイルは目に見えて変化していった。“別れを愛する”というコンセプトを中心に据えたシングル『クロノグラフ』(2016年5月リリース)の制作の後、4月に喉の手術のために入院。5月に活動を再開し、「歌えることの幸せを実感した」という彼は、音楽を生み出せることの楽しさを爆発させたかのような『ナナイロホリデー』(2016年7月リリース)を生み出す。さらに夏フェスへの出演を経て、バウンシーなビートとホーン、ギターの生々しいサウンドがひとつになった『Double Down』(2016年12月)をドロップ。この一連の流れから感じられるのは、SKY-HI自身のモチベーションがよりポジティブな方向に吹っ切れたということだ。


 2010年頃、AAAの日高光啓というあまりにも強いパブリックイメージを背負いながらヒップホップ・アーティストとしてのキャリアをスタートさせた彼は、周囲の先入観、誤解(ときには揶揄)とも戦わざるを得なかった。それが“ネガティブなものを払拭し、ポジティブに変換してみせる”というスタンスにつながっていたわけだが、アルバム『カタルシス』に向けられた称賛、音楽性、リリック、ラップ、パフォーマンスに対する評価、そして、喉の手術を経て、再び取り戻した音楽への純粋な喜びによって、彼自身も“すべてを肯定する”というモードになったのではないか。その最初の到達点が“何度でも生きる”をテーマにした3rdアルバム『OLIVE』なのだと思う。


 本作『OLIVE』の根底に流れているのは、“人間は何度でも生き直せる”というメッセージと“良いことも悪いことも、ネガティブもポジティブも引き連れて、未来に向かって進んでいこう”という意志だ。そのことをもっとも端的に示しているのが、1曲目の「リインカネーション」と2曲目の「BIG PARADE」だろう。


 「リインカネーション」はタイトル通り、輪廻転生という考え方を下敷きにしたナンバー。温かい手触りのトラック(子供の声を取り入れたアレンジも印象的)のなかで彼は、悲惨な出来事と疑心暗鬼が蔓延る現実をまっすぐに見つめながら、〈いま君は生まれ変われるんだ 君が望む君に会いに行くんだ〉というラインを明確に記している。


 「BIG PARADE」はカラフルなパーティ感に彩られた楽曲だ。ジャズ、ブギウギのテイストを感じさせるピアノと絡み合うメロディとともに描かれるのは、“しっかり前を向いて歩こう。君が歩けばそこが道になるはずだ”とリスナーを鼓舞するメッセージ。この2曲から伝わってくる穏やかで力強いポジティビティがアルバム全体を牽引していることは間違いないだろう。


 さらに特筆すべきは、ギター、ピアノ、ホーンなどの生楽器の響きを効果的に活かしたサウンドメイク。ソウル回帰、ディスコ・リバイバルの流れを汲みつつ、良い意味で聴き手を選ばない、間口の広いサウンドが体現されているのだ。「ナナイロホリデー」に関するインタビューで彼は「ポップソングをやるということは、勝負の対象はマイケル・ジャクソンやプリンスだと思っていて。そのためには出来る限り音楽的に上り詰めないといけないと思っています。“売れる曲にするためには、わかりやすくしないといけない”という言葉がひとり歩きしていた時期もあったんですけど、それは違う。上り詰めたうえで削ぎ落とすということが大事なので」と語っていたが、その言葉通り、そのクリエイティブのレベルは確実に向上していると思う。


 リリック、トラックメイクの両面に自分自身の変化をリアルに反映させながら、よりポップな(≒より大衆的な)音楽へとナチュラルにつなげることに成功した『OLIVE』。J-POPシーン、ヒップホップシーン、ロックシーンといったジャンルを超えた、きわめて汎用性の高いポップミュージックがここにある。(文=森朋之)