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Suchmos、ぼくりり、パスピエ、SHE’S、港カヲル…自らのスタイルでムーブメントを生み出すか?

2017年01月24日 13:13  リアルサウンド

リアルサウンド

Suchmos『THE KIDS』(DVD付)

 年々短くなっている気がする正月もあっという間に終わり、あっさりと日常が戻ってきましたが、音楽シーンには年初から素晴らしい作品が次々と誕生しています。特に1月25日は傑作が目白押し。その共通点は、音楽的なクオリティの高さ、そして、現在のトレンドにおもねることなく、自らのスタイルを突き詰め、新しいムーブメントを生み出そうとする姿勢です。


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 筆者の小5の息子も自動車のCMに合わせて「Stay tune in 東京 Friday night~」と口ずさむほど早くもお茶の間レベルで浸透しているSuchmosのニューアルバム『THE KIDS』。デビュー当初は“和製ジャミロクワイ”的な捉え方をされることが多かったが、本作によって彼らはロック・モードへと完全に移行した。それをもっとも強く示しているのが1曲目の「A.G.I.T.」(“アジト”と読みます)。2016年のフジロック(ホワイトステージ)のために作られたというこの曲は、まさにスタジアムサイズのロックチューン。やりたいことをやる、言いたいことを言うとアティチュードをさらに強く提示したこの曲によって、Suchmosはロックスターへの階段を駆け上ることになるはず。


 Suchmosが現状に対する強烈なカウンターだとしたら、ぼくのりりっくのぼうよみは現状を的確に捉え、そのなかでどうサバイブするか、やりたいことをやり続けるかを高い知性と音楽スキルで体現しているアーティストと言えるだろう。メジャーデビュー作『hollow world』(2015年12月)はそれまでの活動の集大成的な性格の作品だったが、本作は『Noah’s Ark』というタイトル通り“ノアの箱舟”をモチーフにしたコンセプチュアル・アルバム。ポスト・トゥルースが前提となり、無限に増大していく情報に対し“鵜呑みにするか、無視するか”というふたつの選択肢しか持てなくなりつつある人々を照射しながら“現在における救い”を描き出す。この一大抒情詩は現実を映し出すメディアのよう……と思っていたら、彼は自身のメディア「Noah’s Ark」を立ち上げた。音楽家の活動はもはや音楽だけに留まらない。当たり前だけど。


 ポップミュージックが社会の在り方に影響されることは避けられないが、デビュー以来、“対・リスナー”“対・音楽シーン”を慎重にリサーチし、独自の発信を続けてきたパスピエは本作『&DNA』によって、バンドとしてのアイデンティをしっかり掴み取った。ビジュアル、MVなどで“顔出し”を解禁したことも影響していると思うが、成田ハネダ(Key)を中心にメンバー全員のプレイヤビリティがさらに強く反映されているのだ。“印象派のクラシック×80sニューウェイブ”という独創的なコンセプトを維持しながら、ヘビィメタルからエレクトロまで、きわめて幅広い音楽要素をプラス。アレンジセンスの鋭さ、アンサンブルの質の高さは、現在のバンドシーンのなかでも確実に際立っている。


 Copeland、Maeなど、海外のピアノ・エモをルーツに持つ井上竜馬(Vo、Pf、Gt)を中心としたSHE’Sも、シーンの潮流に流されない、確固たる独創性を備えたバンドだ。シングル曲「Morning Glow」「Tonight」「Stars」を含む1stフルアルバム『プルーストと花束』にも、洋楽的なテイストを汎用性の高いポップチューンに導くソングライティング・センス、エモ、ハードロック、ギターポップなどをナチュラルに融合させたバンドサウンドを含め、このバンドのオリジナリティが的確に反映されている。一見、柔らかく、フェミニンな(?)イメージもある井上の(じつは)ダイナミックなボーカルもきわめて魅力的。その秘めたる情熱が放出された瞬間が、SHE'Sのブレイクポイントになりそうだ。


 最後は個人的にどうしても紹介したい港カヲル(グループ魂)のソロデビュー作『俺でいいのかい ~港カヲル、歌いすぎる~』。グループ魂の“永遠の46歳”港カヲル(皆川猿時)が2017年2月1日の誕生日に本物の46歳になることを記念して制作された本作には、破壊(阿部サダヲ)、暴動(宮藤官九郎)などのグループ魂のメンバーのほか、前山田健一、坂本慎太郎、ASA-CHANG、向井秀徳、私立恵比寿中学、神田沙也加、松尾スズキといった豪華ゲスト陣が参加。カヲルさんが気持ち良さそうに歌い上げる「HOWEVER」(GLAY)、「ランニング・ショット」(柴田恭兵)などのカバー曲、下ネタ満載のオリジナル曲を含め、「ひどい! 最高!」と盛り上がってしまう。メッセージとかコンセプトに逃げず、ただひたすら“おもしろ”だけを追求する宮藤官九郎、それに全身全霊のパフォーマンスで応えるカヲルさんのある意味ストイックな姿勢に心を打たれるのだった。(森朋之)