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パスピエが表現した、バンドとしての“最新バージョン” 「5年間の遺伝子が形になってきた」

2017年01月23日 18:13  リアルサウンド

リアルサウンド

写真=松木宏祐

 2017年1月25日、パスピエが4thアルバム『&DNA』をリリースする。2016年リリースされたシングル『ヨアケマエ』『永すぎた春 / ハイパーリアリスト』『メーデー』を含む全12曲を収録した本作は、80sニューウェイブ、和の要素を取り入れたメロディといった従来の個性をさらに進化させながら、サウンド、歌詞、演奏のすべてにおいて新たなトライアルを反映させた充実の仕上がり。「“バンド・パスピエ”として、いちばん新しくて、いちばん良いものが今回のアルバムだと思う」という成田ハネダ(Key)のコメント通り、現時点におけるパスピエの最高傑作と言っていいだろう。


 今回はメンバー全員にインタビュー。2015年12月の日本武道館公演以降の意識の変化、シングル3作からアルバムへの流れ、メンバーの役割が明確になったというパスピエの現状などについて語ってもらった。(森朋之)


・いちばんソリッドな音作りを意識した(成田ハネダ)


ーー4thアルバム『&DNA』が完成しました。間違いなく最高傑作だと思いますが、まずはメンバーのみなさんの手応えを教えてもらえますか?


大胡田なつき(以下、大胡田):まだ「『&DNA』というアルバムが出来たんだな」ということしかないですね(笑)。ぜんぜん気持ちが追い付いてないです。


やおたくや(以下、やお):出来たばっかりだからね(笑)。デビューからほぼ1年に1枚のペースでアルバムを出してるんですけど、常にいちばん良い作品を目指していて。いま「最高傑作」って言葉にしてもらって、感慨深いものがありますね。


三澤勝洸(以下、三澤):2016年はシングルのリリースが多くて。その4曲が柱になってくれたおがけで、いままでよりも自由に制作できた印象もあります。盛りだくさんのアルバムになったと思いますね。


露崎義邦(以下、露崎):毎作ごとに違った感覚があるんですけど、今回のアルバムに関しては、以前よりもすんなり出来たというイメージがあって。5周年を迎えられたことも自信になっているし、アレンジ、ミックス、マスタリングを通して、迷うことが減ってきたのかなと。


ーーなるほど。アルバムの制作前、成田さんのなかではどんなビジョンがあったんですか?


成田ハネダ(以下、成田):そうですね……。2016年はシングルのリリースが続くことが決まっていたので、それをどう見せていくかというところから始まっていて。以前のインタビューでも話したと思いますけど、シングル3作を通して“対”というテーマがあったんですね。そのうえでアルバムとしての重みをしっかり伝えたいという気持ちもありました。あとは「バンド・パスピエとしての最新バージョンを作る」ということですかね。


ーー“バンド・パスピエ”というと?


成田:アルバムの制作では、ライブでは再現できないこともたくさん出来るじゃないですか。いままでのアルバムはそういう“実体かどうかわからないおもしろさ”を意識して制作してきたんですけど、今回は“バンド・パスピエ”が出来る、いちばんソリッドな音作りを意識して。このメンバーで出し得る、いちばん新しくて、いちばん良いものが今回のアルバムだと思います。


やお:(アーティスト写真、MVなどのビジュアルに)顔を出してから初めてのアルバムということも影響してると思いますね。意識の変化が出ているというか。


大胡田:顔を出したことで、逆に「ここはボカしてもいいのかな」という部分も増えた気がするんですよね。聴いてくれる人に想像してもらうことのおもしろさもあると思うんですけど、私たちの見た目がハッキリわかった分、「歌詞では少しぼんやりさせたほうがいいのかな」という書き方をしてみたり。


ーーいろいろな面で変化があったと。2015年12月の日本武道館ライブ以降、バンド自体も新しいタームに入ってますからね。


やお:そうですね。2015年は武道館に向けて1年間活動していて。あのステージに負けないというか、あそこに立てる資格が持てるようにがんばっていたんですよね。それを超えたことで、大胡田にも「少しは任せられるようになってきた」って言ってもらったり(笑)。


大胡田:インタビューのときの話ですけどね(笑)。ふだんからそんなこと言ってるわけではないので。でも、安心して任せられますよ。


やお:バンドとして地が固まったというか。今年は楽曲の制作にもしっかり集中できましたからね。


三澤:気持ちの上でも、ひとつのタームが終わる感じがあって。2016年の年始は「ここから新しいことをやっていこう」という意気込みもあったし、そこから1年間がんばってきた結果が今回のアルバムなんだと思います。


露崎:そういう積み重ねが、いい意味でプレッシャーになったところもあって。辛いとかではなく、わかりやすくシャキッとしなくちゃいけないという部分もあったんですよね。その気持ちが根っこにある状態で1年過ごしてきて、このアルバムを作ることが出来て。流れ的には2015年12月22日から地続きだと思います。


ーー成田さんは「2016年は改めて自己紹介していきたい」と言ってましたが、それは達成できた実感がありますか?


成田:自分がやろうと思っていたことは実現できましたけど、それが世の中的にどうかはまだわからないですね。ただ、いままでとは違うアルバムにしようとは思っていました。過去の3作はバンドそのもの見せ方を考えながら、変化球を投げようとしてたところもあって。今回はそこまで肩肘張らずやりたかったんですよね。シングルの“対”というテーマ自体にフックがあるし、その世界観を崩さずに制作していけば新しいものになるんじゃないかなって。『娑婆ラバ』以降、このアルバムからは違う感じになっていくと思いますね。


ーー「&DNA」というタイトルについては?


大胡田:制作が終わってから考えたんですけど、意外とサッと出てきて。


やお:大胡田から「&DNA」というタイトルが下りてきて、全員「めっちゃいいじゃん!」ってなって。即決でした。


三澤:満場一致でしたね。しかも今回のタイトルは回文になっていて。


ーーインディーズ時代のミニアルバム『わたし開花したわ』『ONOMIMONO』、1stフルアルバム『演出家出演』以来の回文を使ったタイトルですね。


大胡田:5周年というのもあって、最初の頃にやっていたことをもう一度使ってみようと思って。最初は「AND DNA」だったんですけど、成田さんに「“AND”は記号(&)がいい」と言われて、この表記になりました。意味としては、5年間活動してきて、パスピエのDNA、遺伝子が形になってきたというか。それが入ったアルバムだと思うんですよね、今回は。


成田:その時期のモードに偏っているというより、いろんなタイプの曲が入っているアルバムですからね。そういう意味では(2ndアルバム)『幕の内ISM』に近いんだけど、さっき言ったようにいちばん新しいことが出来ているし、いままでやったことないことも含めて、全部が入っている感じもあって。


やお:メンバーの信頼感が一段と強まっているのも大きいですね。3人で(やお、露崎、三澤が)ベーシックを録って、それを成ハネがジャッジして、その間、大胡田はずっと家で歌詞を書いて。役割分担がしっかり出来るようになったから、レコーディングもスムーズだったんです。


ーーメンバー自身のプロデュースで進んでいるバンドですからね。外部のプロデューサーを必要しないほどのクリエイティビティをメンバーが持っているというか。


大胡田:確かにプロデューサーって、ぜんぜん想像つかないですね。


やお:何をしてもらえるんだろう?(笑)


成田:まあ、プロデューサーと一緒にやることで、それが自分たちの血となり肉となるんだったらいいんじゃないですかね。いまは考えてないですけど、そういうチョイスが必要だと判断したら、お願いすることもあると思います。


・言葉のおもしろさと、それが音に乗ったときの力を重視している(大胡田なつき)


ーー個性の強い楽曲が揃っていますが、みなさんのなかで特にインパクトのある楽曲というと?


三澤:個人的には5曲目の「ああ、無情」ですね。初めてアコギを使ったんですけど、そのままの音だと曲のイメージから離れてしまうから、コーラス(エフェクター)を使ってニューウェイブ感を出して。パスピエらしいアコギの使い方が出来たと思うし、新しいサウンドになっていると思います。あとは3曲目の「DISTANCE」。ヘビィメタルっぽいタッピングで演奏してるんですけど、飛び道具的な感じではなく、それを繰り返しループするフレーズとして使っていて。


露崎:「DISTANCE」は一聴して「こういうことはやってなかったな」という印象を持ってもらえる気がしますね。個人的には「おいしい関係」も印象に残っています。すごくポップなんだけど、楽器的にはいろいろと手の込んだことをやっていて。実は振り切ったことが出来た曲じゃないかなと。


やお:どの曲もそうなんですけど、ドラムに関してはシンプルにやれたかなと思っています。基本的には成田が持ってきたフレーズをなるべく再現してるんですが、ドラマーとしての自分の場所が少しずつ理解できるようになってきて。


ーーちなみにパスピエの音楽性の柱のひとつである80sニューウェイブも、みなさんのルーツに入ってるんですか?


三澤:YMO、矢野顕子さんなどは好きですね。あとはザ・スミスとか。いま言った「ああ、無情」のギターは、そういう影響もあるかもしれないです。もともとのルーツはヘビィメタルなんですけどね。


やお:矢野さんの音楽は好きですけど、ニューウェイブ自体はあまり通ってなくて。最初はJ-POP、J-ROCKなんですよ。BUMP OF CHICKENとか、サザンオールスターズとか。その後、フュージョンやジャズも聴きましたけど、それは勉強のためというところが大きいですね。


露崎:僕もどちらかと言うと(ニューウェイブ系の音楽を聴いたのは)パスピエに入ってからかもしれないですね。YMOから始まって、高橋幸宏さんがやっているMETAFIVE、pupaなども聴いて。僕自身の入り口はL’Arc~en~Cielなんです。あと、(L’Arc~en~Cielのプロデューサー)岡野ハジメさんがやっていたPINKの影響もありますね。


ーーなるほど。大胡田さんはどの曲が印象に残ってますか?


大胡田:私は「夜の子供」と「スーパーカー」ですね。「夜の子供」は漂うような感じというか、ちょっとボンヤリした世界観の曲で。シングルの4曲はカチッと作っているから、「夜の子供」みたいな曲があるか否かで、アルバム全体の雰囲気も違ったんじゃないかなって思います。「スーパーカー」は私がパスピエに誘われたときから存在していた曲なんですよ。


やお:そうだよね。


大胡田:デモを聴かせてもらったときから「いいな」って思ってたから、今回レコーディング出来たのは嬉しかったですね。


成田:作ったのはだいぶ前ですね。作ったはいいけど、レコーディングしないで闇に葬られた曲もけっこうあるんですよ(笑)。


大胡田:ときどき「そういえば、あの曲はどうしたんだっけ?」みたいな話になります(笑)。


ーー「スーパーカー」はエレクトロ的なテイストも感じられる楽曲ですが、これを収録しようと思ったのはどうしてですか?


成田:これは『幕の内ISM』くらいから意識しているんですけど、EDMのクリエイターとか、トラックメイカーが作るものが5~6年前から目立っているなかで、そういう音とバンドの融合というのも自分のなかでひとつのテーマになっていて。『&DNA』はそのテーマを具現化できるポイントだと思ったし、それには「スーパーカー」がいちばんいいだろうと。バンドを組む前にひとりで作った曲だから、もともと打ち込みの要素も入っていたので。


ーーそれもパスピエのDNAの一部なんでしょうね。歌詞についても聞きたいのですが、人と人の距離、関係性を描いた「DISTANCE」「おいしい関係」、実像と虚像を対比させた「やまない声」「マイ・フィクション」など、シングル3作のテーマだった“対”はアルバムにもそのまま反映されているんでしょうか?


大胡田:そうですね。“対”というテーマはずっと意識していたので。対・人、対・自分、世界と自分だったり。


成田:テーマについてはいろいろと話しましたけど、歌詞を見て「あ、なるほど」と思うことも多くて。僕と大胡田の“対”に対する考え方も違うだろうし、大胡田が書きたいこともありますからね。あと、これは“対”というテーマにした理由でもあるんですが、パスピエにとっての“対・人”を考えたときに、外側にいる人たちに自分たちからつながりに行くというよりも、外側にいる人たちにこちらの内側に入ってきてもらうという感覚がずっとあって。それを音楽のなかで言葉にしていくことにも意味があると思ったんですよね。


ーー確かにパスピエは、積極的にリスナーとコミュニケーションを取るというより、音楽、ビジュアルなどを通して、興味深い入り口を用意するほうが合っている気がします。


成田:そうですよね。いちばんピュアなのは、たとえばCDショップでアルバムを試聴して「いい音楽を見つけた」と手に取ってもらったりすることだと思うんですけど、そういう出会いに紐付けるためにも、言葉による発信も続けていきたいなと。


ーーそのスタンスは、歌詞にも影響しているんですか? より生々しくて、フィジカルな歌詞のほうが伝わりやすいとか。


成田:それも話したことあるよね? フィクションかどうか、とか。


大胡田:うん。でも、よくわかんない歌詞の曲が売れていたりもするし。


やお:ハハハハハ。


成田:いまのは大胡田の発言です(笑)。


大胡田:(笑)。いや、歌詞がよく聞き取れないけど、ヒットしてる曲もあるじゃないですか。だから、わかりやすければいいというのも違うと思うんですよね。パスピエの場合は、言葉のおもしろさと、それが音に乗ったときの力を重視しているのかな。


・「この5人で音を合わせるとパスピエになる」という土台は出来上がった(三澤勝洸)


ーーアルバムタイトルに絡めて、もうひとつ聞かせてください。パスピエにとってのDNA、つまり、いちばん根幹にあるもの、大事にしていることは何でしょう?


成田:うーん……。いちばん大事にしているのは“現在”でしょうね。たとえば今回のアルバムにしても、聴く人によって「昔のパスピエっぽい」とか「最近の新しい流れを感じる」とか、捉え方はいろいろだと思うんです。そこまで自己分析しているわけでもないし、自分たちとしては、そのときに興味があることをやるしかないと思うんですよね。メンバーの趣味趣向もその時期によって変わるだろうし、それは当然、プレイにも表れるだろうし。大胡田の歌い方も少しずつ変わってますからね。


大胡田:うん。


成田:そのなかでメンバーそれぞれが「パスピエとして」ということも考えているだろうし。曲作りもライブも“そのときに出来る、いちばんおもしろいことをやる”というのが大事だと思います。


やお:「今年はこういう感じでやろう」みたいなことも話さないんですよ。それぞれにやりたいことがあって、それをパスピエに持ち寄ってる感じというか。自分も影響を受けやすいですからね。そのときに聴いてる音楽、好きなものが演奏にも出やすいし。ただ、そこで右往左往することはなくなってきましたけどね。


三澤:確かにプレイは変わりますよね、毎年。


やお:機材も毎年変わってるしね。


三澤:楽器が好きなんですよ(笑)。ただ、5年間やってきて「この5人で音を合わせるとパスピエになる」という土台は出来上がったのかなって。


露崎:常に新しいものを求めているし、その欲求は日々、強くなっている感覚もあって。パスピエというバンド、メンバーに対する信頼感もあるし、この先もどんどん新しいことが出来ると思います。


ーー大胡田さんはどうですか?


大胡田:私は……自分がパスピエだってことですね。それくらいかな。


ーーそれ、すごく大きなことだと思います。大胡田さんの存在がパスピエを象徴しているということですよね?


大胡田:象徴というか、私がやったことは、パスピエがやったことになるっていう。その気持ちが大きくなってきたのも、2016年なんですよ。それもたぶん、顔を出して、目に見えるようになったからだと思うんですけど。まあ、それは他のメンバーも同じでしょうけどね。


ーー『&DNA』の楽曲をライブで聴けるのも楽しみです。


成田:3月から全国ツアーがあるので、まずはそれをしっかりやりたいですね。あと「印象シリーズ」が2016年でいったん終わったので、それに代わるものというか、何かおもしろいことをやりたいと思っていて。それはさっき言った、外側の人にこちらの内側に寄ってきてもらうことにもつながると思うので。斜め上のアイデアなんだけど、求心力があることを考えていきたいですね。


(取材・文=森朋之)