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スーパーGT300クラスにマークXで参戦。埼玉トヨペットを牽引する専務 平沼貴之の挑戦

2017年01月23日 18:12  AUTOSPORT web

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平沼貴之
マザーシャシーベースのマークXで2017年のスーパーGTに参戦する埼玉トヨペットGreen Brave。東京オートサロン2017で行われたカンファレンスでは、平沼貴之と番場琢がドライバーを務めることが発表されている。

 多くのスーパーGTファンにとって、番場は2011年のスーパーGTチャンピオンとして知られた存在だが、平沼貴之と聞いてピンとくる人は少ないはず。平沼のレーシングドライバーとしてのキャリアを紹介しよう。

 平沼のキャリアを簡単にまとめると2014年がスーパー耐久とGAZOO Racing 86/BRZレース(スポットで4戦)、2015年がスーパー耐久(ここまですべて86)、2016年がスーパー耐久(マークX)とGAZOO Racing 86/BRZ レース(全戦出場)。インタープロトシリーズ(CCS-R)や岡山チャレンジカップレースの参戦歴もある。

 ちなみに、2013年以前のモータースポーツの経験はカート程度。キャリアをスタートさせてわずか3年で最高峰カテゴリーへの挑戦権を手に入れたのだ。

 平沼の本職は埼玉トヨペット株式会社の代表取締役専務。グループ総勢1600人を率いる役員として忙しい日々を送っている。

 一般的に本業で要職に就いているドライバーの場合、名前だけのエントリーで実際は出走しないというケースも見受けられるが、平沼選手には当てはまらない。平沼の場合、むしろまったく逆で、まわりが心配するくらいガチでレースを戦っている。

 チームもこれに呼応するかのように、スーパー耐久の決勝ではスタート、中継ぎ、フィニッシュとすべてのパートで起用。デビューレースとなった2014年のスーパー耐久開幕戦(もてぎ)は雨だったが、チームは躊躇することなくステアリングを平沼に託した。

 その後も初優勝を記録した2015年のスーパー耐久第4戦(オートポリス)ではスタートドライバーの大役を務めリザルトに貢献。2016年からはよりパワフルかつ特殊なミッションを搭載するマークXに乗り換えたが、すぐに順応。

 第3戦鈴鹿では濡れた路面をスリックで走りながらライバルとバトルを繰り広げ、マークX初の3位表彰台を獲得する原動力となった。

 ここまで短時間でスキルアップを果たすことができた要因は何か? パートナーの番場をはじめとする経験豊富なドライバー陣によるコーチングの成果や、信頼性のあるクルマを常に用意しているサービスエンジニアの活躍も確かにある。

 しかし、一番の理由は本人のモチベーションの高さだ。セッションが終わってマシンを降りるとすぐに車載動画をチェック。他のドライバーとディスカッションしながらタイムを削れる余地がないか探している。その表情は真剣そのもので、おいそれと声をかけづらいほど。

 また、フィジカルの強化にも取り組んでおり、レースウィーク中もジョギングやトレーニングを怠らない。鈴鹿で行われたレースの夜、コンビニの駐車場で暗闇の中をランニングしてきた平沼にばったり遭遇したのは本当の話。プロドライバーに追いつけ追い越せというストイックな姿勢でレースに取り組んでいるのだ。

 自動車の販売を本業にする者が、なぜ、そこまで体を張ってレースに参加するのか。以前、平沼本人に聞いたことがあるが、その答えは明快だった。「自分が乗れば話題になり、お客様を呼べるから」。ドライバーとして単にリザルトを追求しているのではなく、ディーラーの経営者としてレースに参加している。

 クルマの楽しさを多くの人に伝え、若者のクルマ離れを防ぐために、自らリスクをとり、客寄せドライバーになることを決意したのだ。

 平沼は昨年からGT3のマシンに乗りトレーニングを重ねてきた。昨年12月にはセパン12時間レースにも出走し、海外の強豪ドライバーとバトルも経験済み。

 スーパーGT開幕戦(岡山)に向けてますます自信を深めていると思いきや、実はそうでもないらしい。

「未経験で怖いですし、自分で乗ると言ったことを後悔しています」

 いかにも平沼らしい正直なコメントだが、国内最高峰カテゴリーに挑もうとするジェントルマンドライバーの本音として十分に理解できるものだ。

 開幕まで3か月をきった。平沼は本業の合間をぬってスーパーGTデビューに向けたプログラムを粛々と進めている。

 また、記念すべきマークXのシェイクダウンも間近に迫りつつある。今年のスーパーGT開幕戦で、平沼がどんな走りを見せてくれるのか、楽しみでならない。

(奥野大志)