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SHE’S 井上竜馬、自身の過去に向き合い導き出したこと「動こうと思うきっかけって理屈じゃない」

2017年01月23日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

SHE’S

 昨年6月のメジャー・デビューシングル『Morning Glow』、そして10月には2ndシングル『Tonight / Stars』をリリース。既存のバンドシーンとは一線を画し、洋楽志向のスケールの大きなピアノロックを鳴らしてきたSHE’S。彼らがついに初のフルアルバム『プルーストと花束』をリリースする。従来のエモーショナルなロックサウンドや繊細なバラードに加え、エレクトロニックなエレメントや、現行のR&Bに近いボーカル表現、洗練されたファンクネスなど、新たなアプローチも散見される11曲。だが、ジャンル的な広がり以上にソングライターの井上竜馬(Vo、Pf、Gt)が書くメロディの美しさ、彼自身の過去に向き合って導き出した覚悟が伺える歌詞に、フルアルバムならではの多様性が垣間見える。若き名ソングライターかつ、常に現状不満足な井上竜馬にアルバム、そしてそこに至るプロセスを訊く。(石角友香)


■“新しいものが一番いい”人でいたい


――メジャーデビュー1年目はどんな年でしたか?


井上:まず、音楽を作る側として……音楽のことばかり考えていた1年でした。良くも悪くも。すごく囚われてたし、心のやり場に迷った時期もあったし。でも音楽人として具体的に「こうありたいな」と思ったのが、まずいろんな曲を書きたいということ。SHE’Sってこういう感じのサウンドでこういう感じの曲をやるバンドやでって言われたくなかったんで、MVになっている曲に一貫性はあったとしても、アルバムを聴いたときに全然違うものでありたいという気持ちが強くなりました。と同時に、そのためにリスナーとしてもっと色々な音楽を聴かなあかんなと思って、「サブスクリプションなんか絶対入らんわ!」と思ってたのに入ったり(笑)。


――2016年はビッグアーティストも新しい存在感を持っている人にもヒットが多かったので、励まされる部分は多くなかったですか?


井上:一番大きいトピックスだとRADWIMPSですかね。あと、THE YELLOW MONKEYも復活して。正直、「若手にももっとチャンスを!」と思うんですけど、力を持ち続けてる人は変わらず評価されるということには納得しました。


――希望のある出来事だったんじゃないかと思います。洋楽はどうですか?


井上:洋楽だと、一回通ったバンドとかアーティストをもう一回通って行くことが多かったですね。新しいものはエレクトロやUKポップを聴いてみたりしたんですけど、やっぱり一貫して好きな感覚があって。改めて聴き込んだのはMumford & Sonsと、新しいのならParade of Lightsってバンド、フィリップ・フィリップスも聴いてましたね。


――井上さんがこれまで以上に音楽を作ることに良くも悪しくも囚われていたというのは、今までの自分を超えたいという意識があったからなんですか?


井上:すごくハードルが上がったというか、自分の中での審査が厳しくなった(笑)。別にメジャーがどうだとかではなくて、単純に“新しいものが一番いい”人でいたいから、自然とそのハードルは上がるんです。でも、それを客観的に見たら、新しい要素を取り入れようとしている自分も見えたし、それをやりすぎると、きっとこれまでのSHE’Sを好きなお客さんは目に見えて離れていくっていうのもわかりきってたことやから、そのバランスを取るのが大変でした。あとは、単純にリリースまでのペースに追いつけなくて、ずっと音楽のことを考えていたということでもあったんですけど。


――なるほど。初のフルアルバムにどういう気持ちで向かって行ったんですか?


井上:色々考えてたんですけど、そういうことよりも手を動かした方が自分のことをわかるタイプやなと思ってたんで、とりあえず曲を書きまくって。ある一定の段階でアルバムのコンセプトを作ったんです。それは「プルースト」って曲ができてから”プルースト効果”(※マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』に登場する、マドレーヌの味によって幼少期の記憶が鮮明に蘇るという現象に基づく言葉)にまつわるというか、自分の過去の話をしていこうかなと思って。そこからアルバムのバランスを考えていきましたね。


――バランスというと?


井上:自分たちの思い描くSHE’Sの音楽の多様性、まだ自分たちがやったことのない音楽のジャンルにも手をつけていきつつ、今までのSHE’Sがやってきた感覚も残したいなと思って。そういうなんとなくのバランスを考えていったので、最終的に完成したものは今までのミニアルバムとそれほど大きな差はなかったかな、と。


――全体をまとめるような曲として「プルースト」が最初にできたというのは意外です。


井上:でもこの曲ができたからこそ、なんですよ。この曲って過去のある一点にフォーカスを当てたというよりは大局で見ている曲だと感じて、じゃあここの話をもっともっと深くしていこうと、他の曲を作っていきました。「プルースト」は歌詞も最初からそのまま歌ってたんですよね。「プルースト」の他には、「Ghost」「Tonight」もパッと浮かんだ曲でした。


――「Ghost」はおおらかな、のびのびした曲で。


井上:結構お気に入りです。元々2ndシングルを出す前、「Tonight」の前に作った曲です。でも制作スタッフに「や、重すぎ。なんかもうちょい手に取りやすい曲にしよ?」って言われて(笑)、「ですよね」って。


――そしてバンドヒストリー的な「Freedom」は他の曲や歌詞に比べると正面から向かっている感じがすごくします。


井上:この曲ではポップパンク×ピアノをまずやりたかったんですね。ライブでもそういう曲があんまりないし、勢いがある曲を書こうと。アップテンポでわかりやすくて。今までの僕らのアップテンポな曲って、ハードだったりヘヴィなものやったんで、もうちょっと自分自身も聴きやすくて楽しい曲をやってみようという気持ちで書き始めた曲でしたね。


――歌詞からは井上さんの自由の捉え方みたいなものがわかるなと。


井上:自由についてはあまり意味を考えてないけど、とりあえず言ってる人が多いんじゃないかなと思っていて。18とか19の頃は僕自身も「縛られんの嫌やな、自由にやりたいなぁ、好きなことを」って考えるふりだけだったけど、改めて自分でもちゃんと自由について考えたし、聴いている人たちにも考えてほしいな、という気持ちで書きました。


――歌詞に何度か出てくる<It’s Freedom、理屈じゃないものに動かされてる>という気持ちって、いつまでも変わらないものですよね。


井上:変わらないですね。結局、自分を動かしていくとか、自分で動こうと思うきっかけって理屈じゃないし、目に見えへんもんばっかりやから、そういうものを歌っていきたいんですけどね。その、目に見えないものに対して自分でちゃんと考えることができる、考えて答えを出せる人間でいたいなとは思うんで。でもそれってなかなかきっかけがないと考えられないので、僕が見つけたものを曲にすることで、そこからヒントを受け取ってくれたらより良いんじゃないかというか。


■失くしたものばっかり追いかけてる


――無意識下の記憶に向き合うっていうテーマは、きっかけとは言えなかなか重いですね。


井上:この1年はほんまに……辛かった分、色々なことをゲットしましたね。というか、そういう時間の中でしか人間て得られへんのかな? とも思ってきました。すごい幸せの中で人間ってなんか得るんかな? って思うんですよね。


――物作りに関してはそうかもしれないですね。満たされてる時に何かを見つけるのは難しいのかもしれない。


井上:え? でもそうじゃないですか? 物作りじゃなくてもそう思うんです。すごい満たされてる時は麻痺してる感覚になるし、例えばめっちゃ楽しくて、友達と「うわー」っていう時に、一人ふと「でもこれって何時間かしたら終わるしな」って思う人はなかなかいないし、終わって気づくことが多いじゃないですか。だから「辛い」と思うけど、今年1年やり切れたおかげで、それが辛い時に「辛い」だけじゃなくなったのは、すごい糧じゃないかなと。


――確かに。音楽的な新しさでいうと「Say No」が面白かったですね。今の洋楽的なシンガロングのパートのある曲で、しかもそのメロディで「No」って歌う人は珍しいなと。


井上:そうですね。でもそこしかなかった(笑)。「No」でしたね。「Oh」は自分たちの曲でも結構色々やってきたし、無駄な音を入れたくないという感じもあったので。


――このメロディに乗ると怒りの「No」ではないというか。


井上:怒りではないですね。もっと柔らかいものや、しなやかさというか。でも強さもあるなと思ったんですよ。別に力強い曲で「Noって言え」って言いたかったんじゃなくて、あくまでもこの歌詞は隣にいることが目標やったというか。隣にいて欲しかったっていう自分がいたからこそ、過去を遡って、「あの時Noって言えてたらな」と思ったし。そうすれば大切な人を悲しませるもの全部、拒否できたなと思って書いた曲ですね。


――次の曲の「Tonight」につながりますね。


井上:この曲順じゃないと無理やなと思いましたね。


――中盤にはコミカルな曲も出てきます。「グッド・ウェディング」の設定は?


井上:設定というか、僕がある女の子と付き合ってた時の実話なんですけど。えー……その付き合った子はもともと彼氏がいて、なんていうんですか? 略奪で付き合った子やったんですけど、しばらくして……その子が「やっぱり罪悪感がある」と。「井上くんにもあの人にも私は悪いことをした、私は今、ひとりでいるべきや」と。で、フラれたものの秒速で元彼とヨリを戻し、子供が生まれ結婚したということがあって。それに対してウルトラ皮肉を込めて「グッド・ウェディング」みたいな、そんな感じですね(笑)。


――ある種のコミカルさが感じられるので、井上さんの中ではカタがついているのかなと思いました。


井上:そうですね。単純な失恋とも違うし。なんか明るく歌いたかったんですよね、こういう内容を。


――「もう恋愛こりごりやわ」みたいになってないですか?


井上:こりごりっすよ、だいぶ(笑)。めんどくさいんですよね……何がめんどくさいって自分が一番めんどくさいんですよ。恋愛してる時の自分が一番めんどくさくないですか? 「え? 俺、本心でこんなこと思ってんねや」って気付いた時の自分への苛立ちと情けなさと恥ずかしさと……まぁ、そこから変わってやろうっていう気持ちもあるんですけど、でも今は音楽に集中してたいですね(笑)。


――井上さんが生きていく上で、どの曲のテーマも解決はしてないわけじゃないですか。そのことについて今はこう考えているという内容で、全部連れて生きていくしかないわけで。


井上:まぁ、そうですね。


――自分に向き合うしかフルアルバムを作る手法が今回はなかった?


井上:うん。今回はそうですね。これからはわからないですけど。でもこのやり方以外で曲を書けんのかな? とも思うんです。もちろん自分にとってはヘヴィですよ。忘れたかったことをまた自分で思い返しにいくわけなんで。それはやっぱり恥ずかしくなるし、悔しみもあるし。でも、そもそも自分の中で隠したいこととか、秘めときたいことって絶対あると思うんですけど、それとはちょっとニュアンスが違うと思うんです。自分が判断してた悪い部分に見えてたそれは、自分の中で「あかんな、そのままにしてたら」と思ってたことやし、それを思い返したらどうなるかな? とも思った。けど、書き終えて一枚アルバム通して聴いたら、「プルースト」の最後の方で言ってるんですけど、結局それも抱えたまま生きていくわけやから、なんかやってよかったな、それがわかっただけでもって。それを死ぬまで持っていくなら、ちゃんと自分で理解したかったし、それができたから、自己満足かもしれないけど、よかったなと思いましたね。


――曲を書いていくことってドキュメントでもあり、パーソナルなことだからこそポピュラーなものでもあるのかなと思いました。


井上:ポピュラーなものでありたいですよね。サウンドとしてはファンタジーな感じも好きやし入れていきたいんですけど。歌詞に関してはそういうポピュラーな音楽に救われてきたから、自分もそういう音楽をやりたいなっていうのはありますね。


――このアルバムのイメージとして、もう会えない人に対しての祈りのようなものを感じたんですよね。


井上:そうですね。失くしたものばっかり追いかけてるなぁっていうのは思ってたんで、そういうアルバムになりましたね。でも、”花束”っていう言葉をつけたのは期待してるからというか、自分の感覚が今後変わっていくやろな、変わってほしいなと思うし、綺麗なものとして昇華されていってほしいなという思いもありつつ……でもそうですよねぇ、すごい赤裸々というか「自分」なアルバムになっちゃったなと(笑)。


――“花束”っていう言葉自体が一つ2016年らしいなと思っているんですよ。宇多田ヒカルさんのシングルのタイトルしかり、Gotchの2枚目のソロアルバム『Good New Times』のタイトル曲がメッセージを花束という比喩にして、花束を渡していくMVだったり、あとは小山田壮平さんと長澤知之さんのALの1stアルバムから最初にMVが公開されたのが「花束」って曲で。


井上:ぽいですね、小山田さん。


――井上さんにとって花束って言葉に象徴されるものはどういうものだったんですか?


井上:僕は単純に記憶自体を一つの花に例えていっただけやったんで、自分の記憶を遡って書いた曲たち11曲、答えが11個集まったから”花束”にしただけなんですけど。なんで花か? っていうのは、記憶って綺麗なものになっていくものやし、なっていってほしいから。今まだ綺麗になりすぎてもないし、なりきれてもないところやからきっとこういうコンセプトのアルバムを書いたんやと思うんです。


■邦楽ロックとはちょっと違う感覚を持ってほしい


――今作を機にSHE’Sの音楽はどう広がっていくのが希望ですか。


井上:どうなんですかね? シーンの中でまだ、僕らの音楽が自分がいるとは思ってもないようなラインと一緒にされてる気がして。


――はっきり言いますね(笑)。


井上:そこははっきり言います。常に思ってることやし。一緒にして欲しくないんで。だからこそ、より一線を画す曲を書かなあかんなと思う。自分が一番嫌なんですよ、そういう曲を聴いてる時が。「またこの曲?」「またこのメロディ?」みたいな。他人の音楽を聴いてて、唯一イラっとする瞬間です(笑)。あとEDMっぽく盛り上げる展開をバンドシーンでもやるじゃないですか。もちろん100%ピュアな新鮮味ある曲を作り出すのはもう無理やと思うんです。今、世界中に色々な音楽があるし。でも、その中でなるべく新鮮でキャッチーなものを作っていきたい。例えば、日本ではONE OK ROCKがそれをやっていると思う。海外で主流のことを日本で新鮮にやれているから成功してると思うし、僕らもそういうことをやっていきたいですね。


――マジョリティかマイノリティかなんて、リスナーに意識させないですからね。


井上:あと、なんか洋楽っぽいなと思われたい。それだけで終わってしまえばすごい陳腐なものだと思うんですけど、まずその入り口として、邦楽ロックとはちょっと違う感覚を持ってほしいですね。でも、そういう意味でいうと『プルーストと花束』は振り切った作品ではないんですよね。


――もうそういう総括に入ってるんですか(笑)。


井上:パラメーター的な意味で六角形を作りたかったんです。そのつもりで書いたということもあって、今回は洋楽的な要素はやや薄れてしまったかもしれない。正直このアルバムの曲を書いてる時期、めちゃくちゃ迷ってた時期でもあったんですよ。SHE’Sが向かうべき方向、向かいたい方向はメンバー4人一致の問題なんですけど。そうやってむちゃくちゃ迷ってたとき、とりあえず手を動かし始めて書いていった曲やったんで。でも結局こうやって並べてみたら......絶妙なバランスになっていて、「答え出てるやん」みたいな感じはありましたね。