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宇多田ヒカル、SuchmosらMVで注目 映像作家・山田健人の“ストイック”な手腕を読む

2017年01月23日 14:02  リアルサウンド

リアルサウンド

yahyel『Flesh and Blood』

 先日1月19日に公開された、宇多田ヒカル「忘却 featuring KOHH」のMV。若手ラッパー・KOHHが参加している同楽曲のMVは、血や細胞を思わせる混沌とした映像から始まる。暗い中でどこか切なげに<好きな人はいないもう 天国か地獄>とストレートすぎるリリックを歌い上げるKOHHの姿や、<熱い唇 冷たい手>と淡々と歌う宇多田の顔が逆光で見えなくなっているのが印象的だ。このMVを手がけたのは映像作家のdutch_tokyoこと山田健人。20代の若さでありながら、今回MV監督に宇多田自らが指名したというほどのセンスを持つ彼は、一体何者なのか。


(関連:yahyelのライブにおける音楽+映像演出の重要性 『Flesh and Blood』リリースパーティーレポ


 山田はyahyelのメンバーとしてVJを務めていることでも知られている。yahyelは“国境のない音楽集団”であり、VJがライブのステージに立つなど音楽と映像を密接に結びつけて活動している。yahyelのMVはまるで1本の映画を見ているようだ。セリフこそないものの、「Alone」で男性が煙草を吸う姿や物憂げな表情に“何かストーリーがあるのでは”と想像力を掻き立てられる。「Once」では女性が踊る姿に渦のような加工がなされており、まるで別の生き物のように映るが、それが楽曲やボーカルのミステリアスな雰囲気とマッチしていて思わず釘付けになる。


 さらに彼は、Honda「VEZEL」のCMソングとしてオンエア中のSuchmos「Stay Tune」のMVも制作。同MVはメンバーの持つ洒脱な雰囲気をピックアップした映像になっている。キャッチーなメロディに乗せ、Yonce(Vo)がセクシーな声で歌う<東京 Friday night>という歌詞にぴったりな“大人の夜”を感じる雰囲気の中で踊る姿に引きこまれる。また「YMM」では、タイトル通り「YMM=横浜みなとみらい」の夜景を思わせる光を使う場面もあるが、全体的に無国籍な印象を受ける。同MV中、黒い壁をバックにシンプルなTシャツ姿でYonceが踊る姿は「忘却 featuring KOHH」で歌う宇多田の姿と重なった。


 派手な衣装やセットに頼らず、あくまで映像効果でダークな世界観を生み出し、楽曲により深みを感じさせる山田の映像。過去にインタビューで「「いま、ここ」ではないどこかを夢見て想いを馳せるというよりは、置かれている環境をフルに生かして、決して甘えることなくやりたいことをやる」と語っていたが、そのストイックな精神が映像からも伝わってくる(参考:http://www.sensors.jp/post/dutch-tokyo-yahyel.html 東京の音楽シーンを支える映像作家 dutch_tokyoに聞いた「いまを生きる」若手ミュージシャンの肖像とは)。そのように作られた映像だからこそ、私たちはそこから目が離せなくなってしまうのだ。同インタビューで「人が作って伝えるものという意味では、音楽も映像も写真も絵もビジネスも同じ。人間として波長があうことが前提にある」と語った山田。宇多田に続いて次はどんなコラボレーションを見せてくれるのか、考えるだけで胸が高鳴る。(村上夏菜)