1月20日、東京都港区のラ・ジョコンダ・セントラルキッチンで、Car-ingとMSジャパン・サービスによる新たな『カレッジ・カート・プロジェクト』の発表会とキックオフパーティが行われた。
この『カレッジ・カート・プロジェクト』は、学生時代も自動車部だったというCar-ingの公木一成代表が発案し、さまざまなかたちで日本のモータースポーツを支えているMSジャパン・サービスとともに展開しようといううものだ。
公木代表はこの日のプレゼンテーションのなかで、「野球などメジャーなスポーツでは、テレビで観戦したらバットとグローブ、ボールさえあればすぐにできて、少年野球や中学、高校、大学の部活動を経てプロまでの道が教育機関のなかにある。でも、モータースポーツは素晴らしいコンテンツなのに、プロへの道が教育機関にはない」と述べた。
そこで、公木代表が目指すものは、教材としてのレーシングカートだ。多くの大学には、運動部として自動車部が存在しており、多くを学び将来モータースポーツ界に進んだり、自動車関連企業に進んだりしている。しかし、自動車部の活動はジムカーナ等のスピード競技が多く、市販車ベースのものを使うためコストもかかる。
「実際は、資金的に優れたチームが勝ってしまうのは否めない。モータースポーツとしては正しいが、学生スポーツとしてはどうか」と公木代表は言う。
■学生スポーツとして、イコールコンディションのカートレースを
自動車部のモータースポーツとして、公木代表は「学生のためになるレースを。自動車部がもっと認知されるように、道具の戦いよりも人の戦いへ。そして費用対効果があるスポーツにしたい」と、『カレッジ・カート・プロジェクト』を発案。今回、MSジャパン・サービスのマルコ・スタチオーリ社長が賛同し、プロジェクトがスタートしたのだ。
プロジェクトのプロデューサーはスタチオーリ社長が務め、ディレクターを公木代表が務めるが、学生や参加者たちにアドバイスを行い、スーパーバイザーとしてプロジェクトの“マエストロ”として関わることになったのは、スーパーGTで前人未踏の四度のチャンピオンを獲得したロニー・クインタレッリだ。
「イタリアでは誰もがカートのことを知っているけど、日本ではなかなかレーシングカートといってもなかなか話が通じないのがショックだった。子どものころからカートに親しむことができれば、モータースポーツも盛んになると思う」とクインタレッリ。
具体的には、2017年に向けいきなりカートレースを行うのではなく、5月から毎月オートパラダイス御殿場で毎月練習会と模擬レースを定期的に開催。9月に『カレッジ・カート・チャンピオンシップ』としてまずはレースを開催するという。
使用されるカートは、イコールコンディションを目指すべくMSジャパン・サービスが輸入するゴールドカート/tmエンジンのものになる。クインタレッリもかつて使用したことがあるカートだ。ただ、学生たちにはカートを買うのも大きな負担になるため、カートのレンタルシステムを用意し、参加しやすい環境が整えられている。また、カートメンテナンスはマスダスピードの増田二三四氏が担当し、イコールコンディションを保つ。
もちろんこのプロジェクトに参加できるのは、大学生の自動車部だけでなく、自動車部OBのクラブチームや、将来的には高校生や中学生の参加も考えていきたいとしている。こちらはオーバー20、アンダー20等のカテゴリーを設けていくという。
■多くのモータースポーツ関係者も注目
「競い合うことこそ、人の成長を促します。2017年はしっかりと準備を整えつつ、レースをしていきたい」と公木代表。ただ、速さや勝利だけを求めるのではなく、教育の部分を重視し、マナー違反等には厳しく接しながらレースを作っていきたいという。
さらに将来は、モータースポーツが教育のひとつとして成立し、これからモータースポーツが発展していく国に、カートを使った教育を“輸出”したいという。また、「2020年の東京オリンピックをやっている横で、お台場で学生カートの日本一決定戦をやってみたい」と夢を語った。
この日は、12ほどの大学自動車部やインカレチームの主将や代表者が参加し、積極的な姿勢をみせてくれた。公木代表によれば、17年9月のチャンピオンシップには、20台ほどの参加を期待しているという。
また、会場にはGT300クラスに参戦する中山雄一や、16年のFIA-F4チャンピオンの宮田莉朋も姿をみせ、カートの面白さ、可能性について語った。さらにニスモの片桐隆夫社長や柿元邦彦アンバサダー、トムス関谷正徳氏も訪れ、若者にアドバイスを行った。この日はさらに、かつてセリエAで活躍し、現在は日本でACミランのスクールのテクニカルディレクターを務めるマヌエル・ベレッリも訪れ、若者たちにスポーツの面からアドバイスを行った。
ニスモ片桐隆夫社長は、「何も知らされずに今日は来ましたが、大変素晴らしいプロジェクトだと思う」と大いに関心を示したほか、スタチオーリ社長のもとには、トヨタ自動車の豊田章男社長からも手紙が届いたという。
例えばサッカーでは、高校や大学の部活動から多くのプロを輩出するとともに、クラブチームのユースからもプロが出ている。しかし、モータースポーツでは学生スポーツからのステップアップはなかなかない。一方で大学スポーツはラグビーや駅伝など、大いに盛り上がりを秘める可能性ももっている。
レースで勝つためにはドライバーが速ければいいだけでなく、チームを支える人々とのチームワークや、資金を確保するための営業努力なども必要になる。これらは社会に出てからも大いに役立つものだ。今後『カレッジ・カート・プロジェクト』がどんな盛り上がりをみせ、自動車業界やモータースポーツ界にどんな人材を生んでいくのか、大いに注目していきたい。