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BiSHの波は、さらに大きなものになる!  柴 那典が探る、日比谷野音ライブにあった“熱気”の本質

2017年01月21日 13:32  リアルサウンド

リアルサウンド

BiSH

 ライブの空間が一つの“現象”として感じられるようなことは、そう多くはない。しかしBiSHが昨年に日比谷野外大音楽堂で行ったワンマンライブ『Less Than SEX TOUR FiNAL"帝王切開"』には、その匂いがあった。僕はよく「サイリウムが“生きている”かどうか」という言い方をするんだけれど、この日の満員の会場には、握っている手の力強さがそのまま伝わってくるような、“生きている”光が揺れていた。渦巻いている熱気に会場のキャパシティが追い着いていない感じがあった。そしてそれを生み出しているのは、間違いなく、「楽器を持たないパンクバンド」BiSHのメンバー6人がステージの上で繰り広げるパフォーマンスだった。これまでで最も豪華なステージセットが組まれ、アンコールではオーケストラも登場したこの日のライブ。それでもやはり、その中心にあったのは歌とダンスだった。


 2017年、BiSHのセールスや動員は間違いなく増していくだろう。そして多くのメディアが「ブレイク」という言葉でその現象を説明するだろう。けれど、あの場に居た人には、その本質が単なる話題性とか人気とかじゃなく、あそこに渦巻いていた「よくわからない熱気」だということを知っているはずだ。ステージから放たれる「もっと行きたい!」というエネルギー、そしてオーディエンスが呼応する「ならば一緒に」という興奮。それが混じり合って爆発していた。アイドルカルチャーとパンクカルチャーが真っ向から混在するのがBiSHの魅力なのだが、この日は、それが筆者が観た中でも最もカオスな形で放たれていた。言葉で説明しようとすると届かないような「エモさ」があった。だからこそ居合わせた人は何があったのかを語りたがるわけで、それが“伝説”とされるものの正体だ。


 1月18日にリリースされたBiSH初の映像作品『Less Than SEX TOUR FiNAL"帝王切開"日比谷野外大音楽堂』は、その日のステージを克明に記録したものとなっている。6人のメンバーにアップで迫った映像が多く、その表情や仕草が大きな見どころになっている。「BiSH –星が瞬く夜に-」の曲中でアイナ・ジ・エンドが「今日も最高にしようぜ!」と叫んだ時の挑むような目つき、「IDOL is SHiT」で目を剥いて絶叫するリンリンのヤバさに満ちた表情。「Is this call??」Aメロの歌唱パートのチェンジでお互いの身体にタッチする動作。序盤から顔を汗まみれにして、ラストの「ALL YOU NEED IS LOVE」では感極まって号泣しながら歌うアユニ・Dの表情。目を奪われる瞬間が沢山ある。


 以前に当サイトにて書いたアルバム『KiLLER BiSH』についてのレビューで、松隈ケンタのプロデュースの特徴は「声の演出」にあると書いた。


 そして、ライブはメンバーの声のキャラクターとBiSHの楽曲が持っている魅力を最も直接的に見せる場となっている。


 そこでも書いたが、BiSHの歌唱の中心を担っているのはやはりアイナ・ジ・エンドのハスキーで尖った声だろう。「オーケストラ」などダンスの振り付けを担うことも多く、グループの背骨のような存在になっている。ライブでも左手を突き上げ髪を振り乱し力強く歌い上げる姿が印象に残る。一方でセントチヒロ・チッチの声には正統派アイドルに近いキュートネスがあり、その陰陽の対比も楽曲の個性になっている。


 小柄でショートカットキーなモモコグミカンパニーは作詞を手掛けた曲も多く、BiSHのエモーショナルな世界観を支える役割も担っている。「本当本気」を作詞した最年少のアユニ・Dもそうだろう。BiSHに「持たざるものの逆襲」というイメージがあるのはこの二人によるところが大きい。


 リンリンは破天荒なところ、時折見せる狂気性がグループのアクセントになっている。ハシヤスメ・アツコの天然メガネキャラもグループのアクセントになっているのだが、彼女のパフォーマンス面での成長が今後のグループの鍵をにぎるような気もしている。


 アイナ・ジ・エンドの声帯結節の手術を経て、現在は1月8日から3月19日まで続く全国ツアー『BiSH NEVERMiND TOUR』の真っ最中であるBiSH。筆者はまだ未見なのだが、今回のツアーから松隈ケンタ率いるバンド編成が実現し、各地で評判を呼んでいる。続いて3月22日にメジャー2ndシングル『プロミスザスター』をリリースし、4月からはさらに規模を拡大したツアー「BiSH NEVERMiND TOUR RELOADED」を開催。


 おそらくこの先BiSHが巻き起こす波はもう一段階大きなものになっていくはずだ。(文=柴 那典)