2017年01月21日 09:03 弁護士ドットコム
大田区仲六郷の京急線雑色駅で、1月8日午後8時35分ごろ、進入してきた電車にはね飛ばされた男性の体が、ホーム上にいた20代の女性に直撃する事故が起きた。報道によると、女性は頭や腕を打撲する軽傷を負ったという。男性は20代と見られ、約1時間後に死亡が確認された。
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防犯カメラには男性がホームから線路に飛び込む様子が写っており、蒲田署は、男性が自殺したとみて身元などを調べている。
このニュースに対してネット上では、「被害者女性、可哀想すぎる」「全駅に飛び込み出来ないようにホームドア設置するのMUSTにしてほしい」といった声が上がっていた。線路への飛び込み自殺が相次ぐ中、自殺防止のために、鉄道会社にはホームドアを設置するなどの義務はないのだろうか。甲本晃啓弁護士に聞いた。
「近年、徐々に大都市圏の駅で、新しい安全設備としてホームドアの設置が進んでいます。まだ普及の度合いは高くなく、ホームドアなどの法的な設置義務について、現在は認められていません。しかし、あと10年も経てば大都市近郊では認められるようになるだろうと思います」
甲本弁護士はこのように述べる。
「駅の安全設備が未設置で、そのために利用者が事故に巻き込まれた場合、鉄道会社は工作物責任(民法717条)に基づく損害賠償義務を負う場合があります。工作物責任とは、建築物やその付帯設備が、通常備えているべき安全性を欠いている場合に生じる責任です。
工作物責任について、参考になる訴訟を紹介しましょう。昭和40年代に起きた、点字ブロックが設置されていない駅で起きた視覚障害者の転落事故に関する訴訟です。
この訴訟で最高裁は、新しく開発された駅の安全設備が未設置の場合に、鉄道会社に工作物責任が生じるか否かを判断する基準として、(1)安全設備の標準化および普及の度合い、(2)当該駅での具体的な事故発生の危険からみた設置必要性の程度、(3)安全設備の設置が困難である事情の有無などを総合考慮するとしています(なお、この判例は国鉄での事故でしたので、民法717条ではなく国家賠償法2条に関する判断です)」
甲本弁護士は、今回事故があった京急線雑色駅について次のように指摘する。
「近年高架化された駅で、躯体構造もしっかりしていると考えられるため、重さのあるホームドアを設置すること自体は可能ですが、ドアの数や位置が異なる車両が停車するため、ホームドアの設置に向けて、まだ解決すべき技術的な課題があると思われます。現在において設置義務があると認めるのは困難でしょう。
もっとも、京浜急行では設置の必要性が高い主要5駅に2020年までにホームドアを設置する計画です(http://www.keikyu.co.jp/company/news/2016/20161222HP_16192MT.html)。雑色駅は、高速で通過する列車が多い駅であり、実際に今回の事故も起きていますので、主要駅を皮切りにホームドアの普及が順調に進めば、そう遠くない時期に、同駅においても設置義務が生じてくるのではないでしょうか」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
甲本 晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士
知的財産(特許・商標・著作権)やインターネット問題に詳しい理系弁護士(東京大学大学院出身)。大学・企業からの依頼も多い。鉄道に明るく、鉄道模型メーカーの法律顧問も手がける。
事務所名:四谷国際法律事務所
事務所URL:http://www.428law.com/