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欅坂46「二人セゾン」は総合芸術だ! デビューイヤーで彼女たちが起こした奇跡

2017年01月18日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

欅坂46『二人セゾン』(初回限定盤A)

・欅坂46と2016年の紅白


 2016年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に誰が出るか、事前に取り沙汰された候補者はなかなか多かった。SMAP最後のステージは遂に叶わなかったが、久々の音楽活動復帰で大傑作を世に放った宇多田ヒカル、映画『君の名は。』の大成功を後押ししたRADWIMPS、CMソングというNHKハードルを飛び越えた桐谷健太などが出場し、番組を大いに盛り上げた。


 そんな話題・実績豊富なラインナップに、2016年のデビュー組の中で唯一選出されたのが欅坂46だった。彼女たちの新人としての活躍は、デビュー作『サイレントマジョリティー』で女性アーティストのデビューシングル初週歴代1位を記録したのはもちろんのこと、近作となる3rdシングル『二人セゾン』は初日売上で前作売上を約10万枚も上回り、その勢いは本物といって差し支えないだろう。


 世間的な目でいえば、48グループも46グループも秋元康プロデュースという意味ではひとくくりなのだろうが、その中でもCD売上では、欅坂46はAKB48、乃木坂46に次いで3番手につけており、その他の48グループを押しのけての出場でもある。紅白では1stシングル曲「サイレントマジョリティー」が披露され、彼女たちの持つ「大人への反抗」といったイメージがより一層ついたことだろうが、最新曲「二人セゾン」にはこれまでの「大人への反抗」という側面とはまた違う欅坂46の面白さがたくさん詰まっている。「二人セゾン」は総合芸術なのだ。


・「二人セゾン」はなぜ総合芸術か


 「二人セゾン」。まずこのタイトルの違和感と妙な口当たりの良さ。そして当てられたメロディの切なさ。楽曲的には、美しいピアノとストリングスに彩られた寒空広がる秋曲で、1stと2ndに比べればアコースティックギターの力強さはだいぶ抑えられている。今回フックになっているのは、何度も繰り返される「二人セゾン」というタイトルにも冠されたワードだ。AKB48「大声ダイヤモンド」「涙サプライズ」や、乃木坂46「太陽ノック」「ロマンティックいか焼き」など、一見関わりのない単語をくっつけてフックのある言葉を生み出すのは秋元康が昔から得意にしている手法だ。ちなみに「セゾン」はフランス語で「季節」のこと。


 これまでにリリースされ話題となった1stシングル「サイレントマジョリティー」、2ndシングル「世界には愛しかない」では、欅坂46には「大人への反抗」というイメージがついているように思う。それからすると、今回の「二人セゾン」はその直系の流れにはないといえるだろう。どちらかと言えば、スチームパンク・グランジ調の「大人は信じてくれない」が、従来の路線をより過激にしたものといえる。だが表題曲に「二人セゾン」を選んだことは、彼女たちが戦いをやめたことを示しているわけではない。


 そのヒントといえるのが、発売に先立って公開された同曲のMVにある。


 映像内では、メンバーは学生服を着ているが、その中には一度も学校や家庭(=大人と戦う戦場)という場所は出てこない。カバンを放り投げ、満面の笑みで自由に舞う彼女たちは、戦場から離れひと時の自由に心を躍らせている。「二人セゾン」で描かれているのは、大人への強い思いをぶつける彼女たちにも、他の誰とも変わらず「変わり過ぎていく時間(=季節)」があることだ。MVで見られる彼女たちの姿は本当に美しい。その笑顔も、可憐に舞う姿も。だがこの美しさすら永遠ではないわけで、卒業したり年老いたり、時間が経つことでそれらも移ろっていく。このメンバーたちの刹那的な美しくさと儚さが、演出、振り付け、ライティング、カメラワークでより引き立てられ、このMVは美しく仕上がっているのだ。AKB48「ハイテンション」、乃木坂46「サヨナラの意味」といったそれぞれの最新曲に対してCDセールスでは大きな差があるものの、MVの再生回数では両者に勝り970万回以上の再生を記録しているのは、それだけこのMVが魅力的だということに他ならないのではないだろうか(2017年1月18日現在)。


・「二人セゾン」を表現する振付


 また、欅坂46といえば、振り付けの面白さを忘れてはいけない。バレエ、モダン、コンテンポラリーといったジャンルが組み合わされた今回の振り付けは、跳ねること、伸ばすこと、回ることで彼女たちの美しさを最大限に引き出している。衣装にしても、ターンすると美しく広がるスカート、突然表われハッとさせられるスカートの裏地に忍ばせた赤。衣装それ自体の完成度ももちろんのことながら、ダンスを引き立てるその細かい仕掛けの数々は本当に見事だ。


 そして、この曲のハイライトの一つと言えるのが、ブリッジにてソロで平手友梨奈が踊るシーンだ。アイドルは皆が同じダンスを踊り、それをキレイに揃えることが一つの美徳とされている。一糸乱れぬダンスは複数人で構成されたアイドルグループにとっては一つの理想形であるが、デビュー曲から振付を担当するTAKAHIROは「サイレントマジョリティー」からあえてそれをしていない。もちろん揃えるところはきちんと揃え美しく見せているのだが、揃えて踊るメンバーたちに対してより目立つような、ときにそれに抗うような振りを付けている。「サイレントマジョリティー」や「二人セゾン」の平手しかり、「手を繋いで帰ろうか」の菅井友香と守屋茜しかり、あえて全体と違う振りを付ける人間を作ることで、物語をより広く深く表現することを可能にしている。TAKAHIROの振付は、曲の物語をダンスや表情で可視化してくれる。彼から曲の物語を受け取り表現するスタイルが平手を始めとするメンバーにハマっているのは、先日行われたワンマンライブからも感じとることができた。


・ダイヤの原石はそれ自体だけでは輝かない


 ダイヤの原石はそのままでは真の輝きを放つことはできない。カットしたり、磨いたり、光を当てたりすることで、持っている輝きが最大限に引き出される。欅坂46はまさに同じで、彼女たちを見つけ、育て、最高の楽曲、詞、映像、振付、衣装を与えることで真の輝きを放つ。「二人セゾン」はそれぞれがギュッと詰まった総合芸術なのだ。彼女たちが本来もつ魅力もさることながら、ダイヤを扱うプロフェッショナルに恵まれているからこそ、今年の音楽シーンで一番の輝きを放つことができているのだ。


 それは、先日の有明コロシアムでのワンマンライブからも感じることが出来た。PA、照明、電飾、レーザー、特効、大道具・美術、そして目には見ていないライブスタッフの気合と細かいプロの技で、彼女たちは最高の輝きを放っていた。1曲目の「大人は信じてくれない」が始まって、すでに見ているものの圧倒的なスケールに恐れすら感じ、これから見せられるステージへの期待感に著者は唸ってしまった。


・変えることを厭わない強さ


 とはいえ、忘れてはいけないのは彼女たち自身の成長の早さだ。プロフェッショナルたちにただ照らされるだけでなく、1stシングルから今回の3rdシングルまでを駆け抜ける中で、一人一人が急激な成長を遂げている。今作では、選抜メンバーの配置が大きく変わった。メンバーは2ndシングルと同じ21名だが、フロント7名中4名が1st、2ndで3列目を務めていたメンバーの抜擢だった。センターの両サイドに立つ小池美波と原田葵はMV中も元気な笑顔が映える現役高校生の二人。そして佐藤詩織と齋藤冬優花はグループのなかでも熱いハートの持ち主。彼女たちが3列目からフロントに立つことで、欅坂46の新たな一面を引き出すと共に、彼女たちの意識の向上とレベルアップにつながった。


 3作連続でセンターを張る平手友梨奈は、初めてフロントに立つメンバーが多い中で、自分が不安を表してはいけないと、最年少センターという大きな重圧のなかでも周りを気にすることができるようになった。音楽が始めれば、圧倒的なパフォーマンスを見せる彼女だが、取材などで口を開けば自分以外にも素晴らしいメンバーがいることを常に主張している。


 改めて3作のフォーメーションを見渡してみると、全作でフロントに立っているのが平手だけだと気付く。お人形のような渡辺梨加も、歌姫今泉佑唯も、小さい身体でバキバキのダンスを踊る鈴本美愉も、3度はフロントに立てていない。メンバーの層の厚さはもちろんだが、それを積極的に入れ替え試し、ファンへ新たな発見を促すと共にメンバーの成長につなげるという方針が功を奏しているように思う。しかもそのスピードがとても早いのが欅坂46の特長だ。とてつもない早さで挑戦すること、変えることができるのは、乃木坂46のときよりも結成からデビューまでに時間をかけしっかりと作り上げた幹の部分があるからに他ならない。


 デビューイヤーでの紅白を終え、2017年彼女たちはどこへ行くのか。「サイレントマジョリティー」は間違いなく2016年の”ヒット曲”といえるだろうし、初の主演ドラマ『徳山大五郎を誰が殺したか?』(テレビ東京系)も、好評のうちに終えている。急速なスピードでこの1年を駆け抜け、過去に先輩アイドルたちが乗り越えてきたことの多くを経験した彼女たち。彼女たちの見据える先は、登る坂道は別だとしても、先輩乃木坂46と同じく“アイドルのその先”なのかもしれない。(ポップス)