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ゴールデングローブ賞も受賞! ポスト・カンバーバッチはトム・ヒドルストンで決まり?

2017年01月15日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)Producciones Fortaleza AIE MMXV

 去る1月9日にアメリカ・ロサンゼルスで行なわれた第74回ゴールデングローブ賞。テレビの部リミテッドシリーズ/テレビムービー部門男優賞では、『ナイト・マネジャー』のトム・ヒドルストンが、『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』のコートニー・B・ヴァンスを抑えてみごとに受賞した。トム・ヒドルストンは、マーベル・スタジオ製作の『マイティ・ソー』シリーズのロキ役で注目され、既に日本でも洋画・海外ドラマファンの間では“トムヒ”の愛称で呼ばれる人気急上昇中のイギリス人俳優だ。今回の受賞で一躍、同じ英国出身のスター、ベネディクト・カンバーバッチに次ぐポジションを手に入れたと言っても、過言ではないだろう。


参考:ゴールデングローブ賞速報! 『ラ・ラ・ランド』が7部門史上最多受賞、アカデミー賞に大きな一歩


 『ナイト・マネジャー』の原作者は、『ナイロビの蜂』などで知られるスパイ小説の名手ジョン・ル・カレ。出版から20年あまりの間、ブラッド・ピットなどの大物が映像化を試みてきたが、今回、ドラマのミニシリーズとして英BBC局とアメリカのAMCが共同制作した(日本ではAmazonプライムで配信中)。ゴールデングローブ賞授賞式のレッドカーペットで、トムはこう語っている。


 トム・ヒドルストン「とにかくジョン・ル・カレの原作小説に基づいた脚本が素晴らしいんだよ。なんと言ってもカレはスパイ小説の巨匠でしょう? 僕はスパイものが大好きなんだ。僕が演じたジョナサン・パインは、スパイとして武器商人の下に潜入する。彼は4つの異なるパスポートを持ち、4つの違う名前も持っているんだ」(※筆者意訳)


 ここでなぜかニコール・キッドマンが乱入し、「もうドラマの説明は充分よ」と話を遮ってしまったのだが(お友達アピールか!)、そこですかさずニコールにマイクを向け「授賞式に来られてどう?」とインタビュアーの役に回るトムはソツがない英国紳士で、ドラマで演じたパインそのものだった。


 そんな主人公パインは、エジプトのホテルで働くナイト・マネジャー(夜間担当の支配人)だったが、恋に落ちた女性を悪徳武器商人ローパー(ヒュー・ローリー)の手下に殺されてしまう。そして、英国秘密情報部のメンバーだった女性バー(オリヴィア・コールマン)に勧められて、ローパーへの復讐を決意。ローパーの部下になりすまして、彼の不正の証拠をつかもうとする。しかし、ローパーの愛人である若く美しいジェド(エリザベス・デビッキ)に心惹かれ、危険を冒してしまうというストーリーだ。


 今回のゴールデングローブ賞では、ヒュー・ローリーが助演男優賞、オリヴィア・コールマンが助演女優賞を獲得し、トムを含め3人受賞ということで、欧米での評価の高さをうかがわせた。ストーリーの骨格は王道のスパイもの、潜入捜査ものだが、「アラブの春」などを描いて現代性を付加し、それぞれハマり役であるキャストの演技で魅せていく。オリヴィア・コールマン演じる捜査官バーが、妊娠中でしかも高齢出産でありながら、人道に外れたローパーを執念で追い詰めていくというドラマ独自のキャラクター造形も素晴らしい。


 さて、肝心のトムヒはというと、『ナイト・マネジャー』のパイン役で持てる魅力をいかんなく発揮している。ホテルの支配人が似合う英国紳士らしい振る舞い。187cmの長身を活かしたスーツの着こなし。フレンドリーでキュートな笑顔。『マイティ・ソー』のロキ役もそうだが、相手をタレ目ぎみの愛嬌のある顔で油断させておきながら、苦悩に満ちた表情で不安にさせる。劇中でジェドが言う「あなたは誰なの? みんなを魅了している」というセリフが似合うのも、あの超恋愛体質女子ティラー・スイフトを夢中にさせ、ニコール・キッドマンもちょっかいを出さずにいられないという、モテ男のトムヒならでは。このドラマは、カレの原作を基にした壮大なハーレクイン・ロマンスとしても楽しめ、美しい映像でスリリングに展開するパインとジェドの恋は、オトナ女子の心をときめかせてくれる。


 トム・ヒドルストンは現在、『007』シリーズの次のジェームズ・ボンド候補とも噂されている。なんと言っても英国人であり、前述のように本人もゴールデングローブ賞で「スパイものが好きなんだ」と公言。さらにボンドに近い役どころを演じた『ナイト・マネジャー』が成功したとなれば、その話もがぜん現実味を帯びてきてしまうが、ファンとしては、既にマーベルの『マイティ・ソー』というシリーズを抱えている以上、アクション俳優の色はつけてほしくない。『アベンジャーズ』で怪力のハルクから蝿のごとく床に叩き付けられていたように損な役回りになるのも、ちょっと心配だ。先輩のカンバーバッチが『SHERLOCK/シャーロック』でエミー賞を取った後、アカデミー賞作品賞の『それでも夜は明ける』に出演し、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でオスカー候補となったように、重厚な人間ドラマでも認められるようになってほしい。だが、今後の予定はハリウッド版『進撃の巨人』とも言える『キングコング: 髑髏島の巨神』(3月25日公開)で主演、マイティ・ソーシリーズの最新作『Thor: Ragnarok(原題)』でカンバーバッチと共演と、大作アクションが続く。


 ただ、今回のゴールデングローブ賞受賞で、トムヒを取り巻く状況は変わってくるだろう。もともとイギリスのイートン校、ケンブリッジ大学、王立演劇学校という華麗なる学歴をもつ知識人であり、受賞コメントでも南スーダンの窮状を訴えるなど社会貢献の意識も高い彼。アート性のある監督に見初められ、演技の潜在能力を今以上に発揮できれば、5歳年上のカンバーバッチより先にオスカー像を手にすることも不可能ではないはずだ。(小田慶子)