トップへ

Rockin'Jelly Bean × 王様 × ギターウルフ・セイジ『GARAGE ROCKIN' CRAZE』鼎談

2017年01月12日 14:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016 Freza Films

 音楽ドキュメンタリー『GARAGE ROCKIN' CRAZE』が1月14日から公開される。本作は、1980年後半から開催されているガレージ・パンクイベント「Back From The Grave」をフィーチャーしたドキュメンタリー。クロアチア人監督のマリオ・クジクが、6年の歳月をかけて撮影を行い、出演バンドや観客たちの姿や当時のガレージ・パンクシーンの模様を映し出す。劇中には、The 5.6.7.8'sやギターウルフをはじめとする、世界的に注目を集めるバンドが多数登場する。


 リアルサウンド映画部では、本作に出演しているRockin'Jelly Bean、王様、セイジ(ギターウルフ)にインタビュー。90年代~現在に至るまでのガレージ・パンクシーンの様子や、「Back From The Grave」にまつわる思い出話などを語ってもらった。聞き手はライターの石井恵梨子。


参考:真野恵里菜、磯村勇斗、杉野遥亮『覆面系ノイズ』出演へ 真野「久しぶりに学生に戻った気分」


■セイジ「〈Back From The Grave〉で演奏する時に奇抜な曲を作るのが楽しい」


一一みなさんは、初期からこのイベントの常連です。


Rockin'Jelly Bean(以下RJB):ウチらがバンド始めたのが90年で、その前から〈Back From The Grave〉はやってたんですよ。で、エノッキー(Jackie & The Cedrics/ギター)から「面白いイベントがあるんだよ。主催者がケイヴマンの格好してバンドを紹介してくれるんだ」って教えられて。見たらすぐに「すげぇ! これに出たい!」って思った。それでDaddy-O(-Nov)にビデオを見てもらって「出してくれ」って言ったのは覚えてる。


セイジ:俺、エノッキーが前にやってたフィーバーってバンドのファンで。でもフィーバー辞めて、なんかテケテケのサーフバンドやるって聞いて「そんな時代遅れなことすんの?」ってショックを受けたんだよ。


RJB:ははは! よく言うよ!


セイジ:って思ったんだけど、いざセドリックスを見たら一番ワルで一番最先端のバンドだった。最初に見たのも〈Back From The Grave〉じゃないかな。俺も「素晴らしい、これに出たい!」ってすぐに思って。で、Novちゃんに「出さしてくれ」ってお願いするんだよね。〈Back From The Grave〉はNovちゃんの目に叶ったバンドしか出てなかったから。


一一その共通項は、ガレージ、という言葉でいいんでしょうか。


RJB:ガレージ臭がする、というか……基本的にはDaddy-Oが好きなバンドが採用されるよね。ガレージって言っても幅広いから。


セイジ:でも変なバンド、変な個性のバンドが集まってたよね。その色を付けたのはTexaco Leatherman(以下、テキサコ)じゃないの? Novちゃんはテキサコを見てものすごい感動して、このバンドがメインで出るイベントをやりたいと思った……っていう話を聞いたことがある。


王様:あぁ、〈Back From The Grave〉は一回目から出てるからね。


セイジ:あの頃のテキサコ、凄かったもんね。刀持ってて、グーッと抜きながら……でも抜かないんだよ! 『ジョーズ』のテーマから始まるところも素晴らしかった!


一一どれも音楽と関係ない話ですけど(笑)。確かに、あの刀のインパクト、どういう発想から生まれたのか全然わからなかったです。


王様:あれは友達が持ってきただけですね(笑)。なんで持ってきたのかもわかんない。でもそれ以前はわりと普通のガレージやってましたよ。それこそ「ルイ・ルイ」だったり。


RJB:嘘っ! カバーしてたの?


王様:うん。あとはスワンプ・ラッツ。だからわりとわかりやすいガレージ。普通にマッシュルームでボーダーとか着てたもん。


一一……何があってあんなふうに変わっていくんでしょうか。


王様:飽きちゃったんじゃない? あとはハードコアとかも好きだから。でもあのイベントにれっきとしたガレージ・バンドって、実はそんなにいなかったよね?


セイジ:やっぱり〈Back From The Grave〉の色を作ったのはテキサコだよ。テキサコがいることでイベント自体が特殊な色になって。


RJB:うん、音楽だけじゃなくスタイルも強烈になって、みんなが「より奇抜に! よりエキセントリックに!」ってなっていって。たとえばギターウルフは革ジャンだから、じゃあ俺らはスーツで決めようとか。やっぱり人がやってないこと、誰もやってないことを、みんながアピールしだして。音だけじゃなく、自分だけの世界観とスタイルを作ろうとしてた。


一一そういう発想ってどこから生まれたんでしょう。そもそもガレージって、ロックバンドに憧れた子供たちが家の駐車場でデカい音を鳴らしていた、まさに場所を指している言葉だったはずで。それが、いかにしてエキセントリックな方向へと発展したのか。


セイジ:どっかから、王道から離れた変な発想が出てくるよね。海外のバンドだとクランプスは大きいよね。あれはほんと特殊なバンドだから。


王様:俺も聴いた時はびっくりした。「なんじゃこれ?」って。


セイジ:あのポイズン・アイヴィーの顔ね。今はちょっと美人風だけど、ほんと当時はブスなヤンキー姉ちゃんみたいな(笑)。『夜をぶっとばせ』っていう日本のヤンキー映画があったけど、そこに出てくる感じ。


王様:だから音より映像でびっくりするんだよね。俺、初めて映像でクランプス見たときに「えぇぇ?」ってなったもん。「狂ってんなぁ!」みたいな。


一一あのコンセプトやメイクって馬鹿にされがちですよね。「子供騙し」とか「悪趣味」だとか。そう言われても、さらに奇抜なことをしてやろうとするバンドは後を絶たないのが面白い。


RJB:うーん、クランプスを馬鹿にするっていうのは、やっぱり見方が浅いってことなんですよ。それをさらに追求したくなる感じですよね。わかってない人たちに向けて、さらにおどけてみせる。「人生、真面目に生きてても面白くないじゃない?」みたいな。それがわりと真髄というか。それを真剣にやるのが格好いいんですよね。


一一当時、自分たちでガレージ・シーンを盛り上げたいって気持ちはあったんでしょうか。


セイジ:いや、まったくない。そんなシーンに入ってるかどうかもわかんなかったし。ただ、楽しかった。その〈Back From The Grave〉で演奏する時に奇抜な曲を作れるかどうか、それだけで楽しかったなぁ。


RJB:バンドも客も、部活みたいな感じで、毎月この日に会うっていう。どのバンドが見たいっていうのもあるけど、とりあえず月一でみんなで集まりたいっていう感じでしたよね。


王様:ちょうど世の中的にバンドブームとかもあって、まともな音楽やってる奴はダンス系に行ったり、あとはもっとアンダーグラウンドな方向、ボアダムスとかそっち系に行くんだけど。逆にロックンロールをやってる奴がいなかった時代だよね。だからそういうのが集まってきたんだと思う。いろんなスタイルのロックンロールが。


セイジ:でも日本だけじゃなかったんだよね。セドリックスってサーフバンドが東京で生まれたように、西海岸でファントム・サーファーズってサーフバンドが誕生してたり。あとシアトルのベリンハムで〈GARAGE SHOCK〉っていうイベントが行われてたり。ああいうシンクロはびっくりした。世界中から面白いバンドがワーッと出てきて。


RJB:で、面白いのが、海外に行って「俺らと同じことやってる人がいる!」って気づくことで。俺らからしたらアメリカが本場、アメリカに憧れてやってたはずなのに、行ってみたら若いバンドが「セドリックス知ってるよ!」「The 5.6.7.8’sのレコードを買って、みんなで回し聴きして今のバンド作ったんだよ!」って言ってくれたり。そんな影響があったなんて知らなかった。


セイジ:うん、俺たちは日本でやってるし、なんとなく「アメリカのバンドに勝てるわけがない」みたいな意識があるんだけど。ところが行ってみると、海外のほうが日本のガレージ・シーンに注目してた。


RJB:外国の人がよく言うのは、本来ロックンロールはイギリスやアメリカに起源があるけど、当人たちがそれをすっかり忘れた頃、日本人が革ジャンを着てアメリカ人よりもアメリカっぽいロックンロールをやっていた、っていうことで。それがたとえばギターウルフだったりして。「やられた!」っていう感じだったらしいですよ。ウルフを見て、ロックンロールを再認識させられる、みたいな。


セイジ:まぁ革ジャン着てたから……それが良かったのかな?


RJB:そこは間違いない(笑)。どんなに熱くても脱がないっていう。


■RJB「このシーンにずっといる人たちは、これで食ってくつもりがない(笑)」


一一アンダーグラウンド・シーン全体が活気づいて、00年代にはメジャーの世界でもガレージ・リバイバルが起こります。でも、この映画に出ているバンドたちは我関せずという感じでしたね。


RJB:たぶんね、最初から音楽で食ってくと思ってる人たちは、このシーンをスッと出ていくんですよ。ここにずっといる人たちは、別にこれで食ってくつもりがない人たち(笑)。


王様:だって食えないでしょう! はははは。


RJB:あくまでも、でっかい趣味、みたいな感じですよね。これだけは続けたいっていう。だからバンドも辞めないし。


王様:Daddy-Oにも商売っ気がないじゃない? 普通ね、そういうシーンの仕掛け人って他にレーベルやったりするんだけど。


RJB:そういう商売っ気はないね。だから安心してついていける。


セイジ:うん、居やすい空気を作ってくれる人。まぁ変な人だなぁ、変わった人だなぁとは思ってたけど。


RJB:……一番変わってるのアンノちゃん(セイジ)だけどね。


王様:最初にウルフ見た時、みんなびっくりしたんだよ。僕らも演奏は相当下手じゃないですか。みんな下手なんだけど、初めてウルフ見た時は、みんな「えぇぇ? こんなにも下手なバンドがいるの!?」って。


RJB:「こんなのでステージ出ていいんだ!」って(笑)。


王様:最初、ドラムが弟のマサハル(現:The Thunderroads) だったんだよね? ほんっと下手くそ!


セイジ:ははは。いや、出るって決まった二週間前に前のドラムが辞めちゃって。ドラムなら二週間くらいで叩けるだろうと思って、上京してきたばっかりのマサハルに叩かせて。


RJB:その下手さを気合でカバーする(笑)。凄いことになってたね。


王様:「ここまでやっていいんだ!」って感じだった。たぶん全員が思ったと思う。だからウルフの昔話になると、みんなが「あのバンドを最初にいいと思ったのは俺だ!」って言い出すんですよ(笑)。


セイジ:いや、でも俺も、あそこにいたから「火星ツイスト」みたいな曲が書けたと思う。「マシンガンギター」って曲とか。ああいう変な発想を出せたのは、あの場所だったからだよね。「なんか変わったことをしたい! 変な曲を作りたい!」っていう欲望が生まれた場所。


RJB:あっ、自分でも変な曲だっていう認識はあるんですね? 


セイジ:うん……多少はある(笑)。でもそういう変なことを突き詰める、最初のきっかけになったのが〈Back From The Grave〉だと思ってる。


一一そういう場所が今もあり、当時のバンドから若いバンドまでが集まっているのは、素敵なことですよね。


セイジ:最近のUFO CLUBでやってる〈Back Fro The Grave〉見たら、若いバンドで面白いの、いっぱいいるからね。びっくりした。


RJB:50代から20代までがいるって、確かに珍しいかもしれない。でも20代の若い子たちがちゃんと来てくれて、シーンを引っ張ってくれるのはほんとありがたい。今はさらにネオ・ロカビリーとかサイコビリーの人たちも入ってきてる。ジャンル関係なく面白そうな奴らはすぐ友達になる、そこはDaddy-Oの、あの人特有の感覚でしょうね。


一一イベントの旗振り役が変わらないことが大きい。


RJB:仕掛け人みたいな人がいなくなると、街のシーンもなくなっちゃうもんね。ライブハウスに人が来なくなっちゃって。アメリカとかでもそうだけど、ライブハウスがいつの間にかダンスクラブになってたりして。でも東京だけは相変わらずバンドが集まってくる。それはDaddy-Oが真ん中にいるから。あの人のところに行けば俺たちのバンドも出れるかも、っていう夢が今もあるんですよね。


一一わかりました。最後に、みなさんは映画『GARAGE ROCKIN’ CRAZE』を見て、どんなことを感じましたか。


RJB:もちろんマリオが映画撮ってるのは知ってたけど、「ここまで凄いの作ってたの!?」ってびっくりしちゃった。内容もそうだけど、作ってる期間もね。5年くらいかけて昔の映像をずっと撮っててくれたりして。


セイジ:ここまで本気だとは思わなかったよね? もうちょっと協力してやれば良かった。昔の映像とかもっと渡せば良かったかなぁ(笑)。


RJB:ほんとだよね(笑)。でもそれぐらい、俺たちは気づいてなかったんだよね。このシーンがそんなに特別だとも思ってなかったし。でもマリオの目線から見たシーンはほんとに面白かった。あぁ、こんなふうに見てくれてたのかって。これはもっといっぱいの人に見てもらいたいなぁと思ったし。


一一当事者たちが気づかない面白さに気づけたんでしょうね。かといって「異文化のヘンなもの」として片付けてない。ちゃんと愛が感じられます。


セイジ:確かに。マリオは本気でこのシーンに感動してたと思う。


王様:普通に音楽好きの方ですよ。よくお客さんとしていたもん。「お、マリオ今日も来てる」「また撮ってくれるって」みたいな。


RJB:で、俺たちもマリオに向けて喋ってるから、普通に喋るよりもさらにオープンに、ちょっとオーバーアクション気味になってるかもしれない。それもあってみんなイイ顔してるんですよ。彼じゃなかったら、もうちょい閉じた、硬いものになってたかもしれない。うん、マリオじゃなかったらこの映画になってないと思いますね。(取材・文=石井恵梨子/取材協力=ぷあかうSTAY FREE)