2017年01月11日 10:52 弁護士ドットコム
フランスで日本人留学生、黒崎愛海さんの行方がわからなくなっている事件で、元交際相手のチリ人男性、ニコラス・セペダ容疑者が国際手配されている。
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黒崎さんは12月上旬、留学先のフランス東部ブザンソンで行方がわからなくなった。報道によると、フランスの捜査当局は殺人事件として捜査をすすめているという。
セペダ容疑者はすでにチリに帰国しているとみられ、フランスの捜査当局はチリ側と協力しながら、セペダ容疑者の行方を追っている。
国際手配とはどんな仕組みなのだろうか。一般論として、もし身柄が拘束された場合、どのような引渡しプロセスとなるのか。宇佐美善哉弁護士に聞いた。
「今回の事件で、『国際手配』と呼ばれているのは、国際刑事警察機構(INTERPOL・インターポールまたはICPO)を通じておこなわれる手配の一種と思われます。
インターポールを通じた手配には、インターポール加盟国の捜査当局が逃亡犯罪人の引渡しなどを目的として身柄の拘束を求める『レッドノーティス』(Red Notice・赤手配書)、被手配者の所在発見または被手配者の正確な人定事項、犯罪経歴などに関する情報を求める『ブルーノーティス』(Blue Notice・青手配書)、そのほか行方不明者の所在の特定などを求める『イエローノーティス』(Yellow Notice・黄手配書)など、いくつかの種類があります。
今回の手配は、おそらく『レッドノーティス』か『ブルーノーティス』と思われます」
警視庁などによると、インターポールには現在、日本をはじめとした190カ国が加盟している。仮に、レッドノーティスで手配された容疑者が、加盟国に入国しようとした際などに当局に見つかると、一般的にどうなるのだろうか。
「場合によっては身柄を拘束され、逃亡犯罪人の引渡しを請求する国(請求国)に引き渡される可能性があります。
たとえば、国際カルテルの分野では、2013年6月、米国の捜査当局により起訴されていたイタリア人男性がドイツの空港で拘束されて、翌年4月に国際カルテルを理由として、史上初めて米国に引き渡されるという事例がありました。これもレッドノーティスに名前を載せられた結果と思われます」
国際手配された容疑者の身柄の引渡しなどはどうなっているのか。
「ある国から別の国へ逃亡犯罪人を引き渡す場合、通常、両国間または多国間の犯罪人引渡条約にもとづいて、引渡しの検討がされます。もし、請求国と引渡しを求められる国(被請求国)との間に有効な犯罪人引渡条約がない場合でも、被請求国の国内法(逃亡犯罪人引渡法など)にもとづいて引渡しがおこなわれる場合があります。
ただ、国によっては、憲法や法律で、自国民を他国へ引き渡すことを禁じている場合があります。
したがって、今回の事件で、チリからフランスへの引渡しが認められるかどうかは、(1)チリに自国民引渡しを禁じる規定があるか、(2)両国間の犯罪人引渡条約またはチリの犯罪人引渡しに関する国内法にもとづく引渡要件をみたすか否かにかかってくると考えられます。
なお、日本にも『逃亡犯罪人引渡法』があります。この法律は、条約で別途定められた場合を除いて、日本国民の他国への引渡しを禁じています。日本が逃亡犯罪人の引渡しに関する条約を締結しているのは、米国と韓国だけですが、それらの条約でも日本政府に日本国民の引渡しは義務付けられておらず、裁量で引き渡すことができるにとどまります」
今回のケースで、セペダ容疑者が日本で裁かれる可能性はあるのだろうか。
「日本の刑法は、国外において日本国民に対する殺人罪を犯した日本国民以外の者にも適用されます(刑法3条の2・国民以外の者の国外犯)。理論的には、日本で容疑者が裁かれる可能性があります。
しかし、日本で容疑者が裁かれるためには日本への引渡しが必要となります。先ほど述べたとおり、日本とチリとの間には、逃亡犯罪人引渡条約がありません。
したがって、日本への引渡しには、少なくともチリの国内法が逃亡犯罪人の引渡しを認めていること、かつ、自国民の引渡しを禁じていないことが必要となります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
宇佐美 善哉(うさみ・よしや)弁護士
国際カルテル等の独占禁止法や企業法務、労働法務等を取り扱う。国際カルテルにまつわる逃亡犯罪人引渡に関する論稿(「国際カルテルで米国へ史上初の犯人引渡し―日本人ビジネスパーソンへの示唆」)等がある。
事務所名:本間合同法律事務所
事務所URL:http://www.law-hk.jp/