ミシュランタイヤ、共通ECU、そして天候にも左右され、全18戦で9人のライダーが勝利を収めるなど、まれに見る混戦となった2016年シーズンのMotoGP。そんな16年シーズンを英AUTOSPORTのミチェル・アダム(@DrMitchellAdam)が分析。シーズンを戦い抜いたライダーのなかから優れたパフォーマンスを発揮した10名をランク付けした。
果たして誰がトップライダーの評価を受けたのか。
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■第10位:アルバロ・バウティスタ
チーム:アプリリア・レーシング・チーム・グレッシーニ
出走回数:18回
優勝回数:0回(最高順位7位)
シリーズランキング:12位(82ポイント)
急ピッチで作られたアプリリアの新型RS-GPはパワーが不足していた上、ライバルより車重も数キロ重いものだったが、第13戦サンマリノGPで新フレームを導入して以降、徐々にパフォーマンスの改善がみられるようになった。
そんななか、バウティスタはマシンのパフォーマンス以上の成果を残してみせたのだ。バウティスタはチームメイトのステファン・ブラドルに対して18戦中8勝10敗と負け越したものの、シリーズ終盤6戦で5回のトップ10フィニッシュを果たしている。
アプリリアのふたりはアレイシ・エスパルガロとサム・ロウズの移籍によってチームを去るが、少なくともバウティスタはアスパー・ドゥカティを操り、アプリリアとしのぎを削るだろう。
■第9位:ダニ・ペドロサ
チーム:レプソル・ホンダ・チーム
出走回数:15回
優勝回数:1回
シリーズランキング:6位(155ポイント)
ホンダとの2年契約を獲得し、第13戦サンマリノGPで勝利したことを除けば、ペドロサの16年は悪運続きだった。
ペドロサは今年施されたルール変更によって、もっともダメージを受けたライダーのひとりであろう。特にシーズン序盤、ミシュランが導入した硬いリヤタイヤの“被害”を被った。これによりホンダのマシンが持つ欠点が悪化し、リヤタイヤからグリップを引き出すことに苦労する場面も多かった。
チームメイトのマルク・マルケスがチャンピオンシップをリードしていたため、ペドロサが試みたことは何ひとつ機能しなかったとみられただろう。また、ペドロサ自身もシーズン後半に、いろいろなものを試しすぎていたと認めている。
ペドロサがマルケスを初めて上回ったのは、雨模様で行われた第12戦イギリスGPの予選だった。そしてペドロサは、これまで積み重ねてきた年間1勝以上の勝利という記録を第13戦サンマリノGPで伸ばすこともできた。
しかし、ペドロサのさらなる勝利への野望は、第15戦日本GPのフリー走行で転倒した際、右鎖骨と腓骨を骨折し、以降のレース欠場を余儀なくされたことで散ることとなった。
■第8位:ポル・エスパルガロ
チーム:モンスター・ヤマハ・テック3
出走回数:18回
優勝回数:0回(最高順位4位)
シリーズランキング:8位(134ポイント)
カル・クラッチローの調子が回復する前、ポル・エスパルガロは2016年のサテライトライダーのなかでミシュランタイヤと共通ECUの扱いにもっとも慣れていたライダーだったと言える。
エスパルガロは序盤8戦中7戦をトップ8で終え、ドライの第5戦フランスGPと第7戦カタルニアGPでは5位、雨の第8戦オランダGPでは4位を獲得した。シーズン中盤ではスランプに陥ったかに思われたが、第16戦オーストラリアGPで立ち直り、フロントロウを獲得。終盤6戦ではトップ9以内でフィニッシュした。
他のマニュファクチャラーは、レギュレーション変更に備え、しっかりと準備を整えていたため、エスパルガロがブリヂストンタイヤ用に仕立てられた1年落ちのヤマハマシンと、サテライトチームの限られた人材と資金で、ここまで成績を伸ばすことができたことは評価すべきポイントだ。
■第7位:アンドレア・イアンノーネ
チーム:ドゥカティ・チーム
出走回数:14回
優勝回数:1回
シリーズランキング:9位(112ポイント)
“得体の知れない”イアンノーネは、このランキングではなく、“2016年最速ドライバー/ライダートップ10”ランキングでより上位に食い込むだろう。
本領を発揮し、落ち着いたイアンノーネと彼のドゥカティマシンは見事なパフォーマンスをみせた。第10戦オーストリアGPでチームメイトのアンドレア・ドビジオーゾに勝利し、2010年以来6年ぶりにドゥカティに勝利をもたらしてみせたのだから。
シーズン最終戦のバレンシアではレース中、つねにバレンティーノ・ロッシとの表彰台争いを繰り広げ、勝利を手にしてみせた。他の観点から見ると、イアンノーネは6戦で転倒リタイアを喫したが、その内5回はトップ3走行中のことだった。そして、そのなかには他よりもずっと代償の高いものもあった。
第2戦アルゼンチンGP最終ラップで2位争いを演じていたイアンノーネはチェッカーまでわずかというところで転倒。前を走るチームメイトのドビジオーゾを巻き込んでリタイアする羽目になった。イアンノーネにとって、最悪だったのは、この時チームは2017年に移籍してくるロレンソの相方をどちらにするか評価している最中だったことだろう。
■第6位:アンドレア・ドビジオーゾ
チーム:ドゥカティ・チーム
出走回数:18回
優勝回数:1回
シリーズランキング:5位(171ポイント)
経験豊富なドビジオーゾは、ロレンソがドゥカティ加入を発表した際、シートを失う第1候補とみられながら今シーズンをスタートした。
しかしシーズン前半、ドゥカティがイアンノーネとドビジオーゾのどちらを残留させるか検討している時期に、ドビジオーゾは自らの価値を証明した。両者ともに“傷”を負っていたが、イアンノーネとは違い、ドビジオーゾの傷は自らのミスで負ったものではなかった。
開幕戦カタールGPで2位表彰台を獲得した後、2戦連続で表彰台に登ったドビジオーゾ。その後ヘレスでは水漏れが発生してリタイアしたことで、ポイントランキング11位に沈んだ。
ドビジオーゾは、オーストリアで6年ぶりのウイナーになる機会を逃したことに落胆しているが、マレーシアで勝利をものにした。第8戦オランダGP、もしくは第9戦ドイツGPで勝てたかもしれないが、概してイアンノーネよりも競争的なシーズンを送った。
2017年、ドビジオーゾに求められるのはドライコンディション下での勝利だ。
■第5位:カル・クラッチロー
チーム:LCRホンダ
出走回数:18回
優勝回数:2回
シリーズランキング:7位(141ポイント)
序盤5レースの内、4レースでリタイアという悲惨なシーズンの幕開けからランキング7位でシーズンを終えたことは、ほとんどのライダーにとっては素晴らしい挽回ぶりだったと評されるものだろう。
クラッチローは第11戦チェコGPで不人気だったハードコンパウンドのレインタイヤを選択するという賭けに出て、嵐の前にチャンスがやって来るのを待っていた。第12戦イギリスGPではポールポジションを獲得し、2位でフィニッシュ。シーズン終盤、ミックスコンディションとなった第16戦オーストラリアGPで2勝目を挙げた。
クラッチローは異なった仕様のシャシー(バルセロナでペドロサが試したが採用しなかったもの)を使ってペースを見出すと、ミックスコンディションで強さを発揮、ドライでも競争力をみせた。
■第4位:ホルヘ・ロレンソ
チーム:モビスター・ヤマハ・MotoGP
出走回数:18回
優勝回数:3回
シリーズランキング:3位(233ポイント)
シーズン序盤の開幕戦カタールGP、第5戦フランスGP、第6戦イタリアGPで勝利を収めロレンソ。タイトル防衛へ向けて歩を進めた時、多くのファンは「あぁ、またか」という言葉が頭をよぎっただろう。
ロレンソは上述の3レースすべてで圧倒的なパフォーマンスをみせた。特にイタリアGPの最終ラップでは、捨て身になったマルケスを抜いてトップに浮上し、フランスGPではスタートからゴールまでレースをリード。わずかなマージンしかないタイヤに苦しむライバルたちをよそにレースを独走した。
しかし、今から思えば第2戦アルゼンチンGPでのクラッシュが、16年シーズンの兆候を映し出していた。このクラッシュ以降、ロレンソはフロントタイヤの扱いに苦しみ始めた。特にウエットコンディションで気温も高くなかった第8戦オランダGP、第9戦ドイツGP、そして第11戦チェコGPの3レースでは大事故すれすれとも言える走りだった。
ロレンソは2016年シーズン、誰よりも多くのラップをリードした。しかし苦しみも経験したために、近年ほどよい年ではなかったと言える。
■第3位:バレンティーノ・ロッシ
チーム:モビスター・ヤマハ・MotoGP
出走回数:18回
優勝回数:2回
シリーズランキング:2位(249ポイント)
ロッシの16年シーズンを正しく評価するのは難しい。彼はタイトルを獲得すべきだっただろうか、それともタイトルに近づくように競争力を増していっただけで十分だっただろうか。
このふたつの要素が、昨年よりも大いに強くなった16年シーズンを特徴づけた。キャリア初期から慣れ親しんだミシュランタイヤが復活したことにも助けられ、公言していた予選順位向上という目標を果たし、シーズン平均で1.46グリッドという結果を残した。
ロッシはシーズン序盤7レースで2度の勝利を挙げタイトル獲得に望みを繋いだものの、第3戦アメリカGPでのリタイアや第6戦イタリアGPでのエンジントラブルによってロレンソに先行を許してしまった。そして、第8戦オランダGPでリタイアし、第9戦ドイツGPでは戦略を失敗するというつまらないミスを犯してしまい、マルケスに余裕を与えてしまった。
ロッシはシーズン後半が始まったあたりから文句ばかり述べていたが、勝利よりも表彰台獲得で妥協せざるを得なかった。これはロッシが第15戦日本GPで今季4度目のリタイアとなり、わずかに残っていたタイトルへの望みが潰える前に、マルケスに対抗できなかったことを意味している。
それでもなお、衰えを知らぬ37歳にとっては立派なシーズンだったと言えるだろう。
■第2位:マーベリック・ビニャーレス
チーム:チーム・スズキ・エクスター
出走回数:18回
優勝回数:1回
シリーズランキング:4位(202ポイント)
ビニャーレスのルーキーシーズンは初めから印象的なものだった。改良されたスズキのMotoGPマシンでオフシーズンテストに挑んだビニャーレスはいきなり速さをみせつけ、開幕戦カタールGPではフロントロウを獲得した。
カタールGPでの週末は今シーズンのスズキを象徴するようなものだった。単独ラップや涼しいコンディションでは速さを発揮したりするものの、暑いコンディションやウエットコンディションの時に長距離を走り込むとリヤのグリップ不足に苦められたのだ。
ビニャーレスは、第5戦フランスGPで初表彰台を獲得した後、コースレイアウトがGSX-RRに適した涼しいコンディションの第12戦イギリスGPで最高峰クラス初勝利。チームメイトのアレイシ・エスパルガロの2倍以上となるポイントを獲得した。
また、今シーズンは第2戦アルゼンチンGPで一度リタイアしたのみで、ポイントランキング上位陣ではもっともリタイアが少ないライダーだった。
こう考えれば、このランキングでビニャーレスがロッシを抑えて2位に入るのも頷けるだろう。ビニャーレスは、ヤマハがロレンソの代わりとして契約したことを正当化する以上の結果をチームにもたらし、オフシーズンの間、ロッシの“悩みのタネ”になっていることだろう。
■第1位:マルク・マルケス
チーム:レプソル・ホンダ・チーム
出走回数:18回
優勝回数:5回
シリーズランキング:1位(298ポイント)
2016年のモータースポーツ界でマルケスよりも優れたパフォーマーがいただろうか。
マルケスはチームメイトのペドロサと、問題を抱えるホンダを完全に凌駕した。彼はひとりで298ポイントを獲得した一方で、RC213Vに乗る他の4人のライダーは合計で382ポイントを獲得するのがやっとだった。
タイトルを獲得した第15戦日本GPの後に行われた第16戦オーストラリアGPでリタイアするまで、マルケスはMotoGPの全クラスのなかで唯一の全戦入賞ライダーだった。
しかし、この全戦入賞はセーフティマージンをもって走り込んだ結果ではない。
マルケスは第3戦アメリカGP、第14戦アラゴンGP、そして特に第15戦日本GPで、これまで以上のスピードを披露し、第6戦イタリアGPでのロレンソとのバトルや、第7戦カタルニアGPと第12戦イギリスGPでのロッシとのバトルでは、文字通り全力を注いでいた。
そしてマルケスは、ロレンソとロッシが獲得した合計と同じ、7度のポールポジションを獲得。18戦で5勝を挙げた。
シーズン終盤のリタイアでライバルたちを引き立ててしまったものの、マルケスは完璧と言える1年を過ごしたのだ。